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夕日に染まったブロンドの髪。動くたび繊細にたなびくそのロングヘアを、ロウラン・ヴィハインドは衝動的に切り落としたくなった。たまたま鏡の前を通り過ぎただけの時分に。
適当に持ち上げた髪の束を、すぐそこにあったハサミで一気に切り落としていく。次から次へ足元に散乱していく髪の束。そして目の前には、まばらな長さで不自然な程横一線に揃えられた毛先。どう見ても不格好に映るその姿を、ロウランは少し誇らしげな表情で見ていた。真新しい自分がそこには覗いている。
「いいのか、自慢だったんだろ」
後ろから飛んできた声の方に目をやると、そこにはカルロス・ウィンズベルトの姿があった。腕を組みながら壁にもたれているカルロス。その口ぶりから、ロウランは事の端末を見られていたのだと推測する。
「……いいの。私なりの決意だから」
そう言った彼女の瞳は何処か寂し気だった。それはノスタルジックな気持ちにさせるこの夕焼けのせいか、夜に控えた決戦のせいか。カルロスは身体を起こすと、ロウランの背後へと回った。
「ハサミを貸せ、自分じゃ後ろは上手く切れないだろ」
「……あ、ありがとう」
ちら、と見上げるロウラン
「どうした?」
「変にしないでね」
カルロスは自信に満ちたようにその口角を持ち上げた。任せとけ、彼の表情からそう受け取れたロウランは素直に前を向く。そして次第に髪を切る音が聞こえ始めた。ロウランの毛先に優しく触れるカルロスの手が、感触として温度として伝わってくる。
ロウランは突如下を向き、勝手に流れる涙を腕で拭い始めた。
「ごめん……切りにくいよね」
「いや、……。」
少し驚いたカルロスだったが、すぐにまたその手を動かし始める。お互い特に何かを話す訳でもなく、濃厚なオレンジの、静かな時間だけが経過していった。
そこに言葉などいらなかった。彼女の涙の訳をカルロスは知っている。それは今宵の決戦において、父を殺しに行かねばならない娘としての葛藤の涙だ。
続く




