01 異世界転移
仄暗い闇が広がる部屋に、いくつかの人影が立つ。
部屋の中央には青紫に妖しく光る石が台座におかれ、一様に目深くローブを被る彼らはそれを取り囲むように並んだ。
「準備は出来たな。始めるぞ。」
台座から離れて座る一人の男が低音の響く声でそう言うと、ローブの男たちは力を送り始め石はますます妖しく輝く。
(順調そうだな…)
男が安心したように背をもたれ掛けた時、均一だった光が乱射し、石にはヒビが入った。
「何が起こった!?」
「異常な力が流れ込んでいます!召喚先安定しません!」
「なんだと!?」
男が立ち上がった瞬間、石は弾け飛び部屋の光は消え去ってほとんど闇となった。
「状況を説明しろ…」
「召喚は…成功したようですが、どこに召喚したかは分かりません…申し訳ありません…」
「もういい。さっさと転移者を探しだせ。モンスターに食われて死んだのならまだいいが、国のギルドに拾われたらその時は貴様、命は無いものと思え。」
青ざめ震える男に対し淡々と声を掛けると、男は苛立った様子で部屋を後にした。
「兄ちゃんおはよー。」
目を擦りながらリビングに入って来たのは均衡の取れたハツラツとした顔立ちに髪をストレートボブにまとめた超絶美少女、高校二年生である俺の妹の武村奈津だ。
「おう、おはよう。」
俺、こと武村礼二は焼けた目玉焼きとベーコンを皿に移し食卓へ運ぶ。
「やっぱり兄ちゃんの料理美味しいなー。明日も朝食作ってよ!」
「駄目だ。明日はお前の当番だろ?それにベーコンエッグなんて誰が作っても一緒だ。乗せられんからな。」
「えぇー、けち!」
「ケチで結構だね。」
一年前に両親が事故で他界してから俺達兄妹は二人で暮らしている。
その時、東京の大学に通っていた俺は地元に帰って親父の知り合いの警備会社で働かせてもらうよう頼み込み承諾してもらった。
近しい親戚もいない中、妹を預け親の遺産頼みに大学に通うよりは働いて住み慣れた家で二人で暮らしたい、そんな希望が通ったのは本当に幸運で、周りの大人たちと両親に感謝しかない。
このカリカリ本当に美味しいのに…とまだぶー垂れている妹を横目に朝食を平らげる。
「ほら、今日はゴミ出しの日だろ?それに雨も降ってるし、急がないと遅刻するぞ。」
「全く口うるさいなあ。大体の準備は出来てるし!」
そう言うと、奈津は洗面所に走っていった。
「もう十分で出るぞ!」
職場は歩いて行ける距離にあり途中までは奈津と道が一緒なのでそこまでは一緒に歩いていくのがここ半年の日課だ。
(この一年生活が安定するまで大変だったな…)
最初は二人分の家事と仕事を両立させようとして、生活が崩壊しかかったが奈津の提案で当番制にすることで大分楽になった。
勉強も成績上位を維持しているので大変だろうに本当に良くできた妹だよ…
「お待たせ!」
そんなことを考えてしんみりとしているともう準備を終えたらしい奈津が声をかけてきた。
「じゃあ、行くか。」
そう言って俺達は傘をさしていつもの路を歩き始めた。
「ゴミ出し終わりっと。」
「まあ、家の前だしな。」
家のすぐ近くにゴミ捨て場を作ってくれたどなたかに感謝しながら他愛のない会話をしていると、あっという間に分かれ道の交差点に着いてしまった。
「じゃあ私ここで。いってきます!」
「いってらっしゃい。」
そう言って小刻みに手を振りながら横断歩道を渡る奈津を見送る刹那、見えてしまった、トラックが猛スピードで交差点へ突っ込んでくるのを。
言葉が出る前に体が動いていた。
傘を投げ捨て一直線に駆ける。
奈津は急に走ってくる俺を見て不思議そうな顔をしている。
どうやらまだトラックが見えていないらしい。
服を引っ張り手前に引き寄せる。
ああ、助かった。そうした思いはブレるトラックにかき消される。
ブレーキのけたたましい音を上げスリップしたトラックは横薙ぎに突っ込んできてーーーー
なんでだよ。親父とお袋が事故で死んで、なんで俺達まで。
おかしいだろ。なんでもいいから助けてくれ…
奈津を抱きしめ、目を瞑ること十数秒。来るはずの衝撃は来なかった。雨も、止んでいる?
目を開けると、そこは広大な草原だった。