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転生勇姫  作者: 万十朗
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スイーツ・リボン 5

 夕方、城に戻ると廊下を見覚えのある茶髪が前を横切る。

 甘い香りがふんわりと、僅かに鼻腔を擽った。


「ファイ」

「ああ、マオルーグさん。今お帰りですか?」


 我らの部屋は護衛の仕事がしやすいように、城の中にある。

 万が一城内に賊が侵入しても、素早く対応することができるのだ。


「貴様は……スカルグのところにいたのではないか?」

「ああ、師匠(せんせい)から聞いたんですね。昼間は一緒でしたよ」


 せんせい、とスカルグのことを語る声は些か弾んで嬉しそうだ。

 剣の師弟である二人、いつもは頼る側の弟子が今日は頼られて喜んでいる……そんなところだろうか。


「やれやれ、どこもかしこも『スイーツ・リボン』一色だな」

「たまにはこういうのもいいじゃないですか。マオルーグさんもあげる側になってみたら楽しいかもですよ?」

「わ、我は……柄ではない。菓子など作ったこともないしな」


 そう返せばあからさまに残念そうな顔で見上げられる。


「まあ、確かに今から作ったら間に合わないかもしれませんけど……売ってるのだってありますよ」

「だからどうして我が、勇者にやらねばならぬのだ」

「オレ、ユーシア様とは一度も言ってませんけど?」

挿絵(By みてみん)

 ぐぬぬぅ!

 ファイ貴様、魔法薬の事件から我への態度が変わってきておらぬか!?


「強制することじゃあないけど、ユーシア様喜ぶだろうなーって」

「……そうだろうな。甘い物も好きだし、奴は素直だ」

「それだけじゃないんだけど……」


 じゃあ他に何があるというのだ?

 小さく口ごもったファイは、それ以上何も言わなくなった。


「まあいい。それよりも、随分作ったな?」


 ファイの手には、ひとつふたつではない数のラッピングされた菓子を入れたカゴ……最初の甘い香りは、ここからしていたのだろうか。


「スカルグさんには負けますけどね。せっかくだから自分の部下にもって、張り切ってましたから」

「部下にも?」

「甘い物は頭が冴えるから、休憩につまむのにちょうどいいだろう、と」


 奴は……自分以外のそういうことは考えられるのだな……


「まず貴様が食え、と言ってやりたいな」

「あはは、ホントですね」


 頭を抱える我に苦笑いでファイが同意するが、おもむろにカゴの中から包みをひとつ選び取ると、我に手渡した。


「疲れた時には甘い物。一日早いですけど、どうぞ」

「む?」

「……『いつもありがとう、これからもよろしく』って意味のチョコです」


 我に日頃の感謝、だと?

 特別何かをしたような覚えはないのだが……と考えが顔に出ていたのか、ファイは言葉を続ける。


「マオルーグさんが来てから、ユーシア様は毎日ますます楽しそうです。うまく言えないけど……オレにはできないことを、マオルーグさんがしてくれているんだと思います」

「我が……?」


 ファイにできなくて我にできること……強いて言えば、前世を知る者同士の理解だろう。

 普通は覚えていなくて当然なのだから、大したことではない。


「……ありがたく受け取っておこう。貴様の手作りは美味いからな」


 こうなれば、返礼の品を用意せねばなるまいな。

 どのみちスカルグからも貰うのだ、仕方ない……そう、仕方ないのだ。

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