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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
3:Fact or Fiction
98/202

SCENE6 - 3

「夢?」

「リンドが、僕の眠ってる間に、じゃあな、ってどこかに行く夢」


 思わず、息をのんだ。


「それで……それで、しばらくしたら、何か大変なことが起こって。それで、みんな滅茶苦茶になって……!」

 夢を思い出したのか、少年は涙ぐむ。

「――二度と、会えなくなるんだ」

 リンドにも、友達にも。お父さん、お母さんにも。

 少年は、不安に押しつぶされそうな顔で。リンドに問う。

「そういうことに、ならない?」

 答える言葉が、見つからなかった。


 彼が寝ている間に別れを告げる。

 大変なことが起きて、親や友人と会えなくなる。

 それは夢なんかではなく、リンドの。リンドの世界の有樹にとっての、現実だった。

 隕石が落ちなかったから、起きなかった。それだけの。


 彼は、そんな事を夢に見ていたのか。

 それはただの夢なのか、何かのリンクなのかは分からない。

 だが、そのような夢に彼が不安を抱いているのは、まぎれもない事実だった。

「リンドと一緒になれるって、喜んでいました」

 つい数時間前に聞いた言葉が、頭をよぎる。

 ユウキは、自分と一緒に居る為に力を欲しているのだろうか。

 少年の元を離れたあの夜の決意は、良いものだと思っていた。

 現実。FHの気配を感じて、巻き込むのを恐れた故の行動だった。

 だが。

 傍に居て、守ってやるだけではダメなのだろうか?

 傍に居れば、そのような事は考えないのだろうか?

「……そう、だな」

 頷いた。

「そうしよう。ユウキ。お前が傍に居て欲しいと願う限り、俺はお前の傍に居よう」

 約束する、と前足を差し出す。

「……本当に?」

 今の言葉を確かめるような声で、彼は問う。


 その声は。

 本当に、“この”自分の傍に居てくれるのか?

 そう問うているような気がした。


 みあは、この世界にとって自分達は異物だと言っていた。ここは本来の居場所ではない、と。それならば、本来ここに居るべき「リンド」が居るのだろう。

 だが、今ここには居ない。ここ数日過ごしていて、一度も出会わなかった。

 不在の理由があるのだろうか。それは分からない。

 探して連れてくれば良いのかもしれない。しかし、彼を一人にはしたくない。本来隣に居るべき者が、戻ってくれば良いのだが。

 自分にとって、世界の歴史が揺らいでいる事に興味はない。

 ただ、ユウキがオーヴァードを目指すこの世界は好きではない。だから、そうならない世界であって欲しい。それだけだ。元居た世界がそれに最も相応しいのなら、元の世界に戻したい。

 守らなければ、ならない。

 あの時の決断は間違っていたのかもしれないし、渋谷での一件は、避けられないものだったかもしれない。

 それでも。

 ふるり、と小さく首を横に振った。

「――何かが俺らを別つまでは、という条件付きだ」

「なんだよそれ」

「俺は、お前を守りたい。だが、その為にお前を一人にしなくてはいけない事があるかもしれない」

 それでも、とリンドは差し出した前足をもう少しだけ、前へとすすめる。

「俺はユウキを守る為に、傍に居る。姿が見えなくても、ちゃんと守っているから安心しろ」

「ん……」

 有樹はその言葉の意味を少し考えるような顔をして。

「分かった、やめるよ」

 ようやく、小さな笑顔を見せて前足を取った。

「よかった」

 涙の残るその微笑みと手の暖かさに、安心とはほど遠い感情が過った。


 こっちの世界のリンドは、一体何をしているのか。

 出会ったら一度、きちんと話をしなくてはならない。

 もし、“そいつ”が乗り気でなければ――その時は。


 そんな事はさせない。させるもんか。

 そんな決意を込めて、少年と猫は微笑み合った。

「……帰ろっか」

「そうだな」

 頷き合って、ベンチから立ち上がった、その時。

 

「――お話は終わりかな?」

 

 薄暗くなった公園に、声が響いた。

 その声に顔を上げると、公園の入り口に人影があった。

「――誰だ!」

 言うが早いか、有樹の前に出て身構える。

 男は、そんな問いを鼻で笑った。

「ふん。俺の事を知らんとは、まさしく野良猫だな」

 教えてやろう、と男は一歩前へと踏み出す。

 ぱりっとしたスーツとコートに身を包み、ひたすらに他者を見下した、鋭い眼光の男。


 “ディアボロス”――春日恭二。


 彼の唇の端が、残忍な形につり上がる。

「教えてやろう。私は春日恭二。今はFHの日本支部長なんぞやっている」

「春日恭二……あの時の男か。一体何をしにきた?」

「分からんのか?」

 その問いに、身構えたまま首を振る。

「だが、想像と違っていたら困るからな。確認をしておこうと思ったんだ」

「そうか。曲がりなりにもオーヴァードたる者が馬鹿でなくて良かった」

 話は分かっているな、と彼の目が光る。

「大人しくその小僧を渡せ」

「断る」

「貴様の答えは聞いてない」

 間髪入れない返答に、春日も一歩を踏み出す。

 ポケットに入れられたままの彼の左手が、もぞり、と動いたように見えた。

 あの中に入っているものが何か分からないが。

 嫌な、予感がした。

「ユウキ、走れ!」

 自分はその場で身構えたまま、後ろの少年へと叫ぶ。

 春日の出現に釘付けになっていた有樹の身体が、その一言でびくりと震え、こくりと頷いて後ろへと駆け出した。

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