SCENE4 - 6
「ところで霧ちゃん」
霧緒のカップが空になったところで、司は口を開いた。
「はい?」
「改めて聞くけど。これからどうするつもり?」
ああ、と言葉を繋ぐ。
「勿論、さっきのとは違う意味でね?」
そう付け足すと、彼女はその意を掴んだようだった。
「これから、ですか」
そうですね、と霧緒は少しだけ目を伏せる。
「“この世界”に対して、と言う話であれば、私は、元に近い世界へ戻したい。そう考えています」
今後の行動という意味ならば、と彼女は言葉を続ける。
「まずは、水原さんを探します。もしFHに捕らわれているならば――助けに行くつもりです」
「ふうん……何で?」
「え?」
霧緒が質問の意を測りかねた顔をする。
「うん。君と彼がどんな関係だったか知らないけどさ。この世界は俺達が居た世界とは別物なんだよ?」
「――それでも、ですよ」
その声は、静かだった。
「水原さんは、私にとって大切な人の一人です。みあちゃんも河野辺さんと同じ事を言ってました。世界が違ったらそれは違う人かもしれません。ですが――少なくとも。この世界で私を助けてくれたのは、あの人です。放っておく理由はありません」
「そう」
興味なさげに響いたその返事にも、彼女は「はい」と素直に頷いた。
「河野辺さんは」
頷いたそのままの声で、今度は霧緒が問いかける。
「河野辺さんは、どうするんですか?」
「俺?」
こくんと頷いてじっと見つめるように答えるのを待つ。
「俺は、上司から好きにやっていって言われたから、そうさせてもらうつもり」
ふむ、と霧緒が小さく頷く。
「日常が欲しいって言ったけど――この世界はそんなのほど遠いし、俺達が普段感じてた“非日常”なんて及ばない位に“非日常”の世界だからね。ここじゃあ手に入る気がしないし」
そうだなあ、と空になったカップから視線上げて、呟く。
「やっぱ世界征服かなあ……」
「え」
「……冗談だよ?」
「ですよね……」
本気だったらどうしようかと思いました、と彼女は少しだけ笑った。
「冗談はともかくとして、俺も霧ちゃんと一緒だよ。出来るだけ同じ世界に戻したい。――さしずめ、霧ちゃんはそんな非日常に放り込まれた、たった四人しか居ない仲間のうち一人、かな?」
霧緒はその言葉に少しだけ不思議そうな顔をした。が、それは一瞬だけで、すぐに嬉しそうな表情に変わる。
「そうですね。仲間ですね」
それにしても、と霧緒の言葉は続いた。
「仲間って単語、最後まで言わなさそうだと思ってました」
「なにそれ酷くない?」
「ふふ……すみません」
くすくすと笑いながら謝る彼女に、いいけどね、と小さく溜息をついた。
会計を終えて外に出ると、日はすっかり沈んでいた。
店の前でマフラーと帽子の位置を直して、霧緒が司の方へと向き直り、ぺこりと頭を下げた。
「それでは、今日はありがとうございました」
「どういたしまして。それじゃあ」
彼女が頭を上げる前に、帰り道へ足を向ける。
「次に会う時は殺し合いじゃない事を祈ってるよ」
「そうですね。それでは、お気をつけて」
そんなやり取りと二つの足音は、夜が降りた道の奥に消えた。