SCENE2 - 1
庭に出た司を待っていたのは、一体のジャームだった。
人のような化け物のようなその姿。肉体が制御できないまま変異しかけている以上、ウイルスの侵蝕率は高いと察する事ができる。が、変異しきっていない分、ジャームとして長くない事も分かる。
きっと先程のアラームが、変異が始まったのを察知したものなのだろう。
「……とりあえずジャームっぽいの発見、と」
銃を抜きながら呟くと、ジャームは彼を認識したらしい。
「A――GYYYYYAAAAA`haaaaaa!」
既に言葉すら話せないのか、ジャームは認識した相手に腕を振り上げながら駆け寄ってくる。
その先にある爪は鋭く伸びていて、このまま力の制御もないまま振り下ろされれば、腕の一本くらいは軽く持っていかれそうだった。
「悪いな」
そう言いながら司は照準を定める。
「お前に恨みは無いが――」
死んでもらうよ、と言うと同時に発砲された銃弾が、的確に急所を捉える。
「、 GA―――」
急所を撃たれたジャームは、がくりと膝をつく。
「N`Ze……」
悲鳴のような、言葉のような。判別がつかない声を残して。伸ばした腕は力なく振り下ろされ、爪は司に届く事なく地に落ちた。
「……はあ」
動かなくなったジャームに視線を落として、司は息をつく。
周囲を見てみると、最初にジャームが居た所から倒れている所までには、転々と所持品だったであろう何かが落ちていた。
死体を少しだけ迂回して、それらを確認する。
持ち主の身元が分かりそうな物はない。小銭の入った財布や、千切れたバンドがぶら下がったパスケースくらいだ。
「なんか……小銭ばっかりだし、大人が持ち歩くような感じじゃないな」
そんな感想を抱きつつ、他に何かないかと見回すと、一枚の紙切れを見つけた、
「お」
拾い上げてみると、それはチケットのような何かだった。
破れてしまっている上に大半が血で汚れていて名前等は分からないが、なんとか「受験票」という文字が読み取れた。
「……受験票?」
なんだこれ、と司はぴらぴらとそれを日に透かしてみたりするが、それ以上は何も分からない。
「……ふむ。きな臭ぇな」
あいつに聞いてみるか、と、他に影が無いのを確認して建物へと足を向ける。
と。ポケットの中から携帯の着信音が鳴り響く。
取り出してみると、ディスプレイには末利の名前が表示されていた。
「もしもし、終わった?」
通話ボタンを押すと同時に、そんな声が聞こえてきた。
「たった今処分した所」
「そう」
「ところでさ、こいつ子供か? なんか受験票とか持ってるけど、こんな所でお受験?」
「ん? ああ――」
会場を貸してるのよ、と彼女の声が返ってきた。
「ホントは余所でやって欲しいんだけどね。騒がしいし」
溜息が混じったような一言を漏らし、まあ良いわ、と彼女は言葉を繋いだ。
「あなたにしてみれば楽な仕事だったでしょ? 掃除班回すから、戻ってらっしゃい」
うーい、と返事をして室内へのドアをくぐると、「あ、そういえば」と彼女の声のトーンが一つ上がった。
「ん?」
「確かそっちからだと台所、通り道よね」
「まあ、うん」
「お茶とケーキ、お客様用と私の分、二人分お願いね」
あなたの分も取っていいからよろしく、と言い残して電話は切れた。
「……はいはい」
通話の切れた電子音に返事をして、司は見取り図にあった台所へと向かった。