表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
3:Fact or Fiction
68/202

SCENE1 - 7

 服を変え。髪型を変え。電車を乗り継ぎ。

 みあは東京郊外のとある建物へとやってきた。

 塀に囲まれた敷地は広く、小さな学校くらいはすっぽり収まってしまいそうだった。

 塀が高くて、中は良く窺えないが。入り口は解放されていた。

「ここは変わりないみたいね」

 建物の入り口にあった金属プレートに目を留めて、少しだけ、首を傾げた。

「こんな名前だったかしら……?」

 そこには「覚醒技術研究所」という名前が刻まれていた。

 末利は長らくこの住所にある建物に居た。そして、ここは記憶にある通りの場所だった。

 だが、ここに刻まれていた名前はもっとこう、違うものだったような気がした。

「脳科学研究所……とかだった気がするけど……ま、入ってみたら分かるかしらね」

 違ったら聞いてみれば良い、と一人で頷いて、敷地内へと足を踏み入れる。

 静かに開いた自動ドアをくぐると、そこは来訪者を受け入れる小さなホール。

 受付は無人で、その代わりのように書き示されている指示と、床に引かれた四角のラインだけが出迎える。

 みあは躊躇いなくその囲いの中に立つ。

 無人の受付では、置かれたデジタル時計が音もなく時を刻んでいた。

 日付は、渋谷に隕石が落ちた――紅月みあが目を覚ました日から一週間程。

 だが、この世界に「隕石が落ちた」という話は見当たらなかった。

 電車が遅れなく人を運んでいたのが、一番の証拠だろう。

 では。歴史は一体どこから変わってしまったのだろう?

 カウントされて行く時計の表示に、そんな事を思った。

 FHがあのビルからUGNを追い出し、勢力を逆転させたとして。たった一週間でこのような状況になるとは到底思えなかった。

 ここは、記録にも肌にも合わない、異質な世界だ。

 そんな事を考えていると、空気の抜けるような音を立てて奥の扉が開いた。

 そこに立つのは白衣の女性。

 彼女こそが、この研究所の主。諏訪末利その人で間違いなかった。

「こんにちはお嬢さん」

 そう言いながら、彼女がみあの前へと立つ。

 見下ろす目が、少しだけ笑みの形を作る。

「――と、挨拶をすれど、私はあなたに見覚えがないの。自己紹介してくださる?」

 どこかサバサバとした口調で問う彼女に、みあも真直ぐに向き合う。

「久しぶり。そしてこの姿では初めまして、ね」

 と、みあは末利を見上げたまま自分の身体を示すように、胸元へと手を当てる。

「あいにくとこの身体には名前があるけれど、あたし自身にはないの。何を紹介したら良いかしら?」

 末利はぱちり、と瞬きを一つする。

 それから酷く驚いた様子で目を見開き、微笑んだ。

「なるほど。“あなた”か。……お久しぶり、なのでしょうね」

 今はなんと言うの? と彼女は口調を崩して問いかける。

「“紅月みあ”よ」

「紅月……紅月。へえ」

 末利はもう一度目を見開く。

「では、みあ、と呼ぶわね」

 みあはそれに頷くように微笑む。

「良かったわ、あなたが話の通じる相手で。久しぶりに来てなんなんだけど」

 ちょっと聞きたいことがあるのよ、と本題を切り出す。

 それに末利はいいわ、と白衣の裾を翻して背を向けた。

 コツコツと小さな音を立てて、先程入ってきたドアの前で振り返る。

「その話、長くなりそうだし、入って。それに――」

 お茶とお菓子の一つくらいは必要でしょ? と末利は悪戯っぽく目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ