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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
3:Fact or Fiction
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SCENE1 - 6

 司は、次なる話を聞くべく電車を乗り継ぎ研究所へと辿り着いた。

「覚醒……技術研究所……うん。あってるな」

 手元にある紙と見比べて、建物の名前を確認して頷く。

 自動ドアを通ると、受付のホールがある。

 だが、そのカウンターは無人で、替わりのように「ここにお立ちください」という小さなパネルがあった。

 パネルが示す床には、大人一人が立てそうな広さに囲まれたライン。

 この中にセンサーがあり、そこで来訪者を奥へ通すかどうか判断をしているようだ。

 素直に枠の中に立ってぼんやりと待っていると、奥の部屋から白衣姿の女性が現れた。

 肩には届かない、薄い色をしたウェーブの髪。女性にしては高めの身長は、しゃっきりと伸びた背筋で強調される。ポケットに両手を突っ込んだ白衣で隠されていても分かる、細身の身体には、研究者にありがちな不健康な雰囲気は無い。

 “ステッドファスト”。諏訪末利。

「ようこそ、覚醒技術研究所へ。久しぶりね司」

 友人である彼女は、気さくに司を歓迎する。

「久しぶりか。……なんか百年ぶりくらいに会った気がするよ」

 挨拶代わりに右手を上げて、少しだけ疲れたような声で答えると、彼女は「そう?」と軽く相槌を打つ。

「なんだか長旅だったみたいね」

「まあね」

「ま、しばらくは楽な任務よ」

 ここで骨休めなさい、と彼女は白衣の裾を翻し、奥の部屋へと進む。

 そんな彼女を追いながら、司は進む背中に声をかける。

「なあ、ちょっと変な事を聞くけど、いいか?」

「何かしら?」

 彼女は背を向けたまま、先を進む。

「俺、昨日まで何してた?」

「知らないわよ?」

 あなた私のセルじゃないし、と彼女はIDカードを翳して奥へのロックを解除する。

「……だよなあ。ちょっとPC借りていい?」

「いいわよ」

 あの端末なら使えるわ、と彼女は部屋の奥にあるパソコンを指し、自分の席らしい机の上にあったマグを手に取った。

 はいよ、と軽い返事をしてマウスをつつくと、ディスプレイにデフォルトのままの壁紙が表示される。

 ソフトを起動して自分の名前を検索ウインドウに入力すると、結果がすぐに表示された。

 名前、コードネーム、略歴と、写真。それから任務の履歴。補足欄にも何か入力されている。

 それらを見るに。“砲撃手”は日本支部の中でもそこそこ成績の良いエージェントだった。ふうん、と小さく瞬きをして、履歴に移動する。エージェントとしての経歴の長さに比例する履歴は、スクロールで上から下まで一気に流し見る。

 上司が違うからか、身に覚えのない任務が多い。特にここ一年程は、高校生として各地を転々としながら、潜伏しているテロ組織――UGNの残党を発見、報告。場合によっては抹殺、というのを主な任務としているようだった。

「……わあ。UGNがテロ組織になってる」

 司きゅんびっくりだー、と思わず棒読みのそんな言葉が漏れる。

 そしてそのページは最後の行へと辿り着く。

 最新データは今日の日付。それから「“死神機巧”捕獲」とあった。

 死神機巧。そういえば春日恭二がその名前を口にしていた。

 そして反応をしたのは。というかあの場に居たUGNといえば。該当者は一名しかいない。

「ってか霧ちゃん捕獲してたんだふーん」

 そうなんだー、とマウスから手を離し、椅子ごとぐるぐる回ってみる。

「その呼び名だと、知り合いみたいね」

 その声にぴたりと椅子を止めて見上げると、マグを片手に末利が立っていた。

「うん。あのUGN激怖え」

 そう答えると、彼女はくすくすと笑って自席の椅子を引いた。

「でも良かったじゃない? 抹殺までが仕事じゃなくて。“ディアボロス”(しぶちょう)が後を引き受けてくれたから、逃がしたのもあなたの責任になってないみたいだし?」

「……あの人良い人だったんだなあ」

 言い方変だけど春日さんちょっと見直したよ、と小さく呟く。

「ま、逃げても良いでしょ、今更」

 椅子に腰をかけて、彼女はマグに口をつける。

 今更。

 それはきっと、今更一人逃げた所でどうにもならない。そう言う事なのだろう。

「と、いうわけでPC貸してくれてありがとう“ステッドファスト”。ちなみに僕の次のお仕事は何?」

「ああ。あなたの仕事はね……」

 言いかけた彼女の言葉に、こんこん、とノックの音が重なった。

 末利が何か言う間もなくドアは開き、一人の少年が入って来る。

 白髪の彼は司より一つ二つ下に見えるが、顔の半分はガーゼに覆われていてよくわからなかった。

 右目には眼帯。首と足にも包帯が見える。コートを着ているが、その腕や身体も例外じゃないだろうというのは容易に想像がついた。

「お話し中悪いね」

 そう言う声も掠れていて、正直聞き取り辛い。

「そろそろお暇しようと思って」

「そう。気をつけて」

 末利は短く言葉を返す。その声に先程までの軽い調子はなく、表情もどこか固い。

 少年はそんな彼女の様子に気を悪くした様子もなく、それじゃ、と背を向けた。

「後の事はよろしく。お客さん達にもね」

 そう言い残して、彼はそのまま閉まるドアの向こうへと姿を消した。


 数秒の沈黙の後、末利は小さく息をついて顔を上げた。

「と、ごめんなさいね」

「ああいや。……ところでアレ、どなた?」

 司の疑問に、彼女は「ああ」と小さく声を上げて視線をドアの向こう――既に居なくなった少年へと向ける。

「古い友達よ。ふらふらしてるからまた会う事もあるでしょ」

 その時に紹介するわ、と彼女は視線をPCへと戻す。

「ふうん。了解。で、俺の次の仕事についてなんだけど」

「そうだったわね。あなたの仕事は……」

 と、マウスのクリック音を掻き消すように、今度は警告を示すような電子音がPCから鳴り響いた。

「……これよ」

 と、彼女は音を示しながら、隣に設置してあったプリンタから吐き出された紙に、きゅっと赤ペンで印をつけて司に差し出す。

「この警告音の元を消してちょうだい」

「おー」

 受け取ったプリントには、研究所の見取り図が書いてあった。庭らしき場所には赤でバツ印が強調してある。

「なるほど。ジャームが発生したんでよろしく、って感じか」

 了解、と司は腰のホルスターを確認する。

「じゃー行ってくるか」

「よろしくね。まあしばらくはきっとこんな感じよ」

 戦闘訓練を積んだエージェント相手に比べれば楽なものよ、と彼女はPCに向かいながらひらひらと手を振る。

「ドイツ軍人相手じゃないだけまだマシだな――。んじゃ、また後で」

 そう言い残して、司は先程印が付けてあった庭へと駆け出した。

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