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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
3:Fact or Fiction
63/202

SCENE1 - 2

「……なんだ、こいつは……」

「……“ディアボロス”」

 リンドが上げた警戒の声に答えたのはみあだった。

 彼女の言う通り、目の前に立つのは“ディアボロス”だ。それは間違いない。

 たとえ上から降ってこようと、それで周囲の視線を釘付けにしていても。だ。

「なんで上から」

「どうして彼が……?」

「いや、ねえ。むしろなんで上から……?」

 そんな問いかけも、ツッコミどころ満載ですという表情も、彼には一切届かない。

「何を遊んでいる“砲撃手(ガンレイヤ)”」

 どこまでも冷たい声で春日は司のコードネームを口にする。

 それから、ふん、と鼻を鳴らして周囲を一瞥し、霧緒に視線を止めた。

「――UGNエージェント。“死神機巧(キリング・ドール)”」

「え」

 忌々しげに吐かれた言葉に、霧緒の狼狽えた声が上がる。

「UGNめ。まだ残党が居るのは分かっていたが、まさか堂々とここに来るとはな」

 何をしにきた、と彼は問う。

「最期を悟って、かつて貴様らの本拠であったこの塔を懐かしみに来たか?」

 その問いに、彼女は答えられない。

 ただ、彼の言葉を確認するかのように「UGNの、残党……?」と小さく口が動いたのが見えた。

 どうやらUGNはまだ存在しているらしい。

 そこは安堵すべき所なのだろう。だが。司はこの光景に大きな違和感があった。

 このビルがFHの看板を掲げているよりももっと。

 自分の記憶とずれているもの。

 それこそが、目の前に立つ彼だ。

 なんというか。なんと言えば良いのかうまい言葉が見当たらないが。

 何かが違う。

 確かに彼は、かつて敏腕エージェントとして幹部候補にまで上り詰めた男だ。

 だが、なんというか。

 そうじゃない。

 俺の知ってる“ディアボロス”は、そうじゃない。

「……これも、影響か?」

 そっと視線を落として眉を寄せていると、風に乗って小さな声が聞こえた。

「状況もよく分かってないのにコレはまずいわね……」

 そんなみあの言葉が、空耳のようにふわりと届く。

 彼女の方へと視線を送れば、その言葉そのままの顔があった。

 リンドと霧緒にもその声は届いていたらしく、二人は警戒した眼差しのまま小さく頷く。

 UGNはFHに成り代わられ、目の前にはその一級エージェント。

 確かに、このままでは全員が一緒に捕まってオシマイ、という可能性も十分にある。

 そんな状況に対する彼女の判断は早かった。

「とりあえず、霧ちゃん、リンド。逃げるわよ!」

 その決断ことばが風に乗って届いた時には既に、みあは背を向けて駆け出していた。同時にリンドも小さな路地裏へと飛び込み、猫にしか分からない道でもあるのか、あっという間に姿が見えなくなった。

 そんな背中にちらと視線を送った春日は、ふん、と小さく鼻で笑った。

「こと此処に至って他人のフリか」

 みあの声が届いていないらしい彼は、後に残された霧緒へと視線を戻す。

 彼女も数歩後ずさり、逃げる姿勢を取りながらも、春日から視線を外さない。

「我らの鼻先で囀りながら呆れるほどの自己保身。この状況で見捨てられるとは、UGNの“死神機巧”も堕ちたものだなあ?」

 嘲笑うように、彼は言う。

「そ、そんな事言われても……!」

 困ったように彼女は声を上げ、もう姿の見えない二人と同様、背を向けて駆け出した。

 これは予想済みの事態だったのか、彼は素早く携帯を取り出して指示を飛ばす。

「追え! “今動いた奴ら”が仲間だ!」

 その声と同時に複数の気配が動く。なるほど、既に自分達は包囲されていたらしい。

 彼らを追いかけ、気配が遠ざかっていく。


 後に残されたのは、春日と司の二人だけだった。

 みあは自分の名前を呼ばなかった。

 それは、司自身がFHだと分かっていたからなのだろう。

 たとえ呼ばれたとしても、動くつもりは一切無かったけど。

 ああ、やっぱり自己紹介したあの時にバレてたのかな。などと思い返していると、春日が視線をこちらに向けた。

「“砲撃手”」

「――はい」

「お前は支部に戻れ」

 彼は携帯をしまいながらそう告げる。

「“死神機巧”に加えて、あの一人と一匹。見覚えはないが、出来るぞ。如何な貴様とて、あの数では太刀打ちできまい」

 彼はあれだけの時間で、みあとリンドの力量まで把握したらしい。

 確かに、ここしばらく彼らの戦闘は見てきたから、強さは十分に分かっている。一人で追えとか言われたら頭を抱えてる所だ。もしくはそれなりに前準備が無ければ到底無理。

 そんな彼らだ。

 きっと、さっき追いかけて行った彼らでは、誰一人捕らえられないだろう。

「……了解しました、“ディアボロス”」

 申し訳ありません、と頭を下げる。

 春日は再び鼻を鳴らし、残忍な笑みを浮かべた。

「――まあ、ほどほどで構わん」

 そう言って笑う彼も、今の追っ手で彼らを捕らえるのが無理だというのは分かっているのだろう。

 彼らを分断し、体力を消耗させるだけでも成果としては十分、といった所か。

 もう外に用は無いのか、春日は建物へと足を向ける。

「UGNに出来る事など、もう何もないのだからな」

 背中を追いかけた司の耳に、そんな呟きが聞こえた。

 

 さて、と司は考える。

 “現代”に戻ってきたからには、それぞれが元居た場所へと戻るのだろう。

 だが、明らかに何かが間違ったこの世界をどう思うか。

 自分はといえば――。

「……とりあえず、上司に会ってみるか」

 そうすれば何か分かるかもしれないし。と、小さく息を吐く。

 暖房の効いた屋内では、吐息は透明なままだった。

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