表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
2:Erratic Portal
60/202

ENDING - 1

 港についても。船を下りても。

 桜花の姿はどこにも見えなかった。

 それに言いしれぬ不安を抱えたまま、みあ達は町へと向かう。

 

 そうして戻ってきたのは、桜花が宿泊していた宿。

 祭りの喧噪から少し離れたその宿は、不気味な程に静かだった。

 リンドがぴくりと鼻を動かし、眉をひそめて少年の足を止めるように尻尾を揺らした。

「ユウキ。お前はここで待ってろ。なんなら宿に戻っていてもいい」

「え――。うん」

 いつになく険しい声だったリンドに、聞き分けよく頷いた少年を外へ残し、四人は宿へと足を踏み入れた。

 

「なんて……酷い……」

 霧緒がそんな声を漏らしたのが聞こえた。

 そこには幾人もの死体が散らばっており。部屋に。廊下に。誰かと争った形跡があった。

「これは……一体何があったんだ……」

 舌打ちをする司の隣で、霧緒が足元にあった何かを拾い上げた。

「これは……」

「何それ?」

 そう言ってみあが覗き込んだ手にあったのは、守袋のようだった。血を吸って汚れてしまっているが、狐の意匠が施されているのが分かる。

 霧緒はみあが見やすいように手のひらを下ろし、もう片方の手で鞄のポケットから同じ物を取り出す。

「こっちが桜花さんから借りたものなんだけど……」

 そう言って左右の手に並べられた守袋は同じ物に見える。

「同じ物、みたいだね」

「そうだね」

 もしかしていくつかあるのかな、と二人で首を傾げる。

「どうやらそうみたいだな」

 その声に顔を上げた二人の前で司が示す先には、腰元に同じ守袋をつけた死体があった。

「どうやら、葛城さんは仲間に同じ物を持たせてたみたいだな」

「仲間の証明、みたいな物でしょうか」

「かなあ」

 なるほど、頷いた霧緒は、その守袋を一番近くに倒れていた誰かの上にそっと戻した。


 廊下は進むにつれて、戦闘の跡は激しさを増していた。

 後ろを歩く少女二人を視界の隅で確認した司は、「なんつーか」と、口を開いた。

「何か見つけたのか?」

 司より半歩ほど後ろに居たリンドが隣に並ぶと、司は「見つけたというか」と首を振る。

「これだけ戦闘の跡は激しいのに、大した抵抗もしてなさそうなのが多いな、って思っただけ」

「ふむ……」

 小さく唸って、リンドは眉を寄せる。

 猫の低い視線だと、この廊下はどのように映るんだろうか。そんな事を思っていると、「確かに」と小さな吐息が聞こえた。

「不意打ちだったとしても。ここまで来る間に迎撃くらいはできるだろうな」

 その言葉に、司は「だろう?」と頷く。

「何か。反撃できない理由でもあったのだろうか……」

「んー。俺達が真っ先に思い当たる可能性としては、ワーディングが使われてた、とかだろうけど……」

 どうだろうね、という声に返ってきたのは、ふむ。という考えるような声。

「だが、ツカサもオウカの役割は聞いただろう?」

「ナチスの動きを探る大陸浪人だ、ってあの女の人は言ってたね」

 そんな声が二人の背後から飛び込んでくる。

「うむ。奴らの動向を探っていたならば、オーヴァードを相手にする位の対策はしてあるはずじゃないのか?」

「だなあ……ああ、もしかして」

 その為の「お守り」か、と小さく呟く。

「なるほど、お兄ちゃん面白い事考えるね」

 だが、とそこにリンドの疑問そうな声が上がる。

「それならば、尚の事おかしくないか?」

「まあ……疑問は残るな。対策をしてあるのにその効果は出てない、なんて。そりゃあ、現代との技術とか研究の差、ってのはあるかもしれな――」

 ふと、司は言葉を切って、振り返った。

「霧ちゃん?」

 彼女は数歩後ろで立ち止まっていた。

 薄暗くてよく分からないが、顔色が悪そうに見える。

「お姉ちゃん?」

 具合悪いの? とみあも心配そうに首を傾げるが、彼女は答えない。

 ただ。

「――対策をしているのに。……効果が、出てない……ですか」

 ぽつり、とそんな声を漏らした。

「え。――うん、まあ。そんな可能性があるな、ってだけの話な――」

 なんだけど、と言う声は、突然駆け出した彼女の足音にかき消された。

「え」

 止める暇も無く。血相を変えた彼女はあっという間に廊下の角を曲がり、ばたばたとブーツが木の床を駆ける音だけが、廊下に響く。

 思わず呆気にとられた司とリンドに、いつの間に追い越していったのか、廊下の角から顔を覗かせたみあの声がかかる。

「――お兄ちゃん! リンドも! 何ボーッとしてるの!」

「お、おう。――リンド、行くぞ」

「うむ」

 その声に頷くようにして、二人も後を追い、駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ