SCENE4 - 2
当たりをつけた通路を進むと、倉庫と思しき部屋はすぐに見つかった。
「お、あったあった」
並んだドアをいくつか覗いて、最も雑多に物が置いてある部屋を選ぶ。
見張りは居ない。手をかけたドアは鍵もかかっておらず、すんなりと開いた。
周囲を少しだけ伺って倉庫へと入り込む。
倉庫の中は薄暗く、ドアの隙間から差し込む明かりで辛うじて荷物が見える程だったが、武器や物資が積んである入り口近くに、鞄が転がされているのを見つける事が出来た。
早速拾って、中身が揃っている事を確認する。
幸いなことに、武器一式は手つかずで残っていた。
「うん、大体揃ってる。何よりだ――ん?」
鞄の奥底で微かに光る何かがあった。
取り出してみたそれは、預かっていた端末。緩やかに点滅する電波受信中のマークを見て、司は感心した声を漏らした。
「へえ。ここでもちゃんと動くんだ」
ってか、電池保つんだな。と、何気なく画面をオンにする。
ぼんやりと周囲を照らすその画面には、距離を示すルーラーと点滅する赤い点。
それを確認した司は、少しだけ首を傾げた。
が、すぐに疑問そうな表情をしまい込み。鞄を肩にかけて端末をポケットに突っ込んだ。
「よし。とりあえず、こっから出るか――一番手薄で安全なルートは」
武器を手早く装備しながら、今通ってきた道や現在地を予想し、出口の位置を弾き出す。
「ま、順当に行けば上、だよな」
とりあえずそこの階段を上ってみるか、と司は倉庫の横にあった階段に足を向けた。
階段を上り、廊下を駆け抜け、兵士達をやり過ごして。
辿り着いた突き当たりのドアを開けると、眩しくも穏やかな明かりが差し込んだ。
「おお。久しぶりの外だ」
見上げた空はそこまで高くはないが、雲も少なく、風も穏やか。海鳥も船の周りを悠々と飛んでいる。
吐く息は船内と変わらず白いが、その空気には外特有の湿気を含んだ柔らかさがあった。
「……っつーか」
そんな息を吐きながら甲板へ踏み出し、ぐるりと周囲を見渡す。
荷下ろしをするのか、いくつもの荷が積まれた広い甲板。軍艦らしいというべきか、その縁には砲台が並んでいる。船の先はなんとか見えるが、その距離は全力で走って何秒かかるだろうかと考える程遠い。
一番近い縁からは陸地が見える。しかし、甲板が高い位置にあるのか、港を行き交う人々を感じられるのは声だけで、見える景色は太陽の光を鈍く照り返す道――水路が張り巡らされた町並みだった。
大きな客船よりもずっと大きな船。
何仙姑と船内を歩いた時に薄々感じてはいたけども、と司はその広さに思わず呟く。
「……でかいな」
『――そうだろう』
深く頷き肯定するドイツ語。その声に司が振り向くと、甲板に積んであった荷物の影から人影が現れた。
頭一つ以上高い背丈。
隙無く着こなした軍服と外套。
司から視線を外す事無く立ちはだかるのは、彼を捕らえる指示を出し、リンドの正体を真っ先に見破った特務少佐――コルネリウス・バルト。
甲板から地上に降りるルートを遮るように立った彼だが、司は特に焦る素振りも無く、あれ、と疑問そうな顔をした。
『日本語できるの?』
その問いかけに、バルトは鼻を鳴らして一笑する。
『言語など分からずとも。大体この船を見た者が最初に漏らす感想など、賞賛しか無いと分かっている』
『あー……なるほど?』
納得したようなそうでないような司に、今度はバルトが問いかける。
『それで、どちらに御用なのかな、少年?』
『ん? ドアの前に張り付いてた兵士が、この戦艦が素晴らしいって言うんで』
見に来たんだよ、と視線を真直ぐに返した。
その答えに、バルトは「それは良い」と笑い、力強く両手を広げた。
『それならば――見よ、この勇姿。これが、悪魔戦艦アイゼンオルカ! ドイツの生んだ究極科学! 鋼鉄の海魔だ!』
この戦艦の力強さと気高さを見せつけるかのように。それを語り、示すかのように。
彼は己の強さを説くかの如く、両手を振り上げて大きく笑う。
司はそんな彼の哄笑を静かに受け止め、ふぅ、と息を一つつく。
『できればさ。こう、甲板じゃなくて外から見たいんだが……』
そして司はバルトの背後にある荷物へ視線を向けた。
端末に表示されたルーラーは、距離がやけに短かった。
それは、その狭い範囲に追跡対象が居るという事。
つまり――そのルーラーが示した範囲。甲板のどこか。
それなら話は早い。と視界に意識を集中させると、死角を持たないその眼は、瞬き一つする間もなくその姿を捉えた。
「外から見たらその辺どうなのかね。リンド」