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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
2:Erratic Portal
33/202

SCENE2 - 5

「あ。みあちゃん」

「おかえりなさいー」

 広場の入り口でかけられた声に、みあは足を止めた。

 探し当てた声の主は、傘を持った白髪の少女と、マスケラをした黒髪に着物の少女。

 そんな二人がそこに居た。

 周囲には数人のマスケラをした人々。どうやら彼女達は他の参加者達と談笑していたらしい。

 皆にこやかな顔をしていて、雰囲気も和やかだ。

 みあもその輪の中にぱたぱたと駆け寄って、霧緒の隣へと立つ。

「大丈夫だった?」

 心配そうな問いかけに、うん、と頷いてポシェットに手を置く。

「もう一回確認したらちゃんとあったよ。勘違いだったみたい」

 ごめんね、と笑って答えると、霧緒も「それなら良かった」と笑い返す。

「それよりも桜花さんだよ」

「はい?」

 談笑していた彼女はマスケラをつけたまま、明るい声で振り返る。

 その姿に思わず視線が険しくなるが、それを隠す事も無く彼女に向け、腰に手を当てる。

「ダメだよ! 一人でふらふらっとどっか行っちゃー」

 探す方も大変なんだから、と説教じみた事を言う少女。

「いやあ、そこは霧緒さんにも言われてしまいました。面目ないです」

 マスケラに覆われていない口元から、ぺろりと赤い舌が覗く。

「あ、でもでも!」

 と桜花はぱちん、と手を叩いて身を乗り出した。

「迷子未遂の功名として、耳寄りな噂話を手に入れたんですよ!」

「耳寄りな噂話?」

 険しい顔を一転させて興味津々に聞き返す。

 霧緒も、「何ですか?」と耳を寄せる。

「なんとですね」

 まるで女の子同士の内緒話でもするかのように、桜花は口の横に手を当てて声を潜める。

「みあさんとか霧緒さんみたいに、光と一緒に何処からとも無く現れた人達って言うのが、他にも居るらしいんですよ。虚空から現れた異邦人、って言われてるみたいで、最近多いらしい、と」

 どうです? 耳寄りでしょう? と笑う桜花を前に、二人は静かに視線を交わし、小さく頷く。

「桜花さん」

「はい?」

「その話、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」


 □ ■ □

 

 広場の隅。祭りの会場から少しだけ離れた所に三人は腰掛けた。

「えっと、私が聞いたのは――」

 そう前置きして口を開いた桜花の話によれば。

 

 謎の光に振り返ったら。

 気が付いたら。

 密室の扉を開けたら――。

 そこに、見知らぬ異邦人が居るのだという噂話。

 それらは全て、ここ十日程の間に起きているらしい、という事だった。

 

「それから、同時期から物騒な雰囲気の軍人が増えてるとも言ってましたね。何でも、その異邦人達を捕らえているのではないかー、とか」

 不思議な話ですよね。と桜花は屋台で買った飲み物に口をつけ、話を区切った。

「ホント、不思議な話ですよね」

 湯気の立つ飲み物を吹きながら相槌を繋ぐのは霧緒。

「それにしても、軍人まで出てくるなんて……あんまり穏やかではありませんね」

「確かに」

 しかも、と桜花は周囲にさっと視線を走らせ、声のトーンを下げて言葉を繋ぐ。

「これは本当にただの噂ですが……鉤十字の軍服も見かけられている、とか」

 鉤十字、という単語で少しだけ視線を逸らした桜花は「本当、何を企んでいるのか……」と呟く。

 かなり小さい声ながらも、いつもの彼女にしては鋭い口調。

 心なしか、視線も何かを訝しむような色をしている。

「鉤十字って……」

 どう思う? と霧緒がみあへ視線を向ける。と、みあはきょとん、とした顔で桜花を見つめていた。

 いつも朗らかな彼女の、いつもと違う口調。いつもと違う目線。

 そんな桜花の姿に驚いたのかな。と霧緒はほんの少しだけ、視線と首を傾けた。

 霧緒だって、そのような桜花の姿を見た事があった訳ではないが。今の桜花は船上で起きたあの一幕を想起させる表情だ。

 ……やっぱり、軍人なのかもしれない。

 そんな思考を巡らせながら、険しい顔をしたままの桜花に視線を送る。

 二人の視線と途切れた会話に気が付いたのか、桜花はほろり、と表情を崩した。

「え? あ、あははは……どうしました? みあさん、なんだか怖い目してますよ?」

 さっきまでの険しい表情など無かったかのように笑うと、みあは頬を膨らませた。

「どうしたの、じゃないよ。怖い顔してたのは桜花さんだよ!」

 腰に手を当てて胸を張るその姿に、桜花は少しだけ苦笑いをする。

「やだなあ、怖い顔なんて。気のせいですよ気のせい――あ」

 明らかにごまかした笑いの途中で、みあ背後へ視線を送る。

 うん? と視線につられて振り返った先は、広場の隅。

 通ってきた道程ではないが、いくつか立ち並ぶ露天。

 その内の一つに、なにか気になるものがあったらしい。

「アレ楽しそう! いきましょう!」

 振り返った状態の二人をあっという間に通り過ぎ、桜花は人混みに紛れていく。

「あっ。桜花さんまた――!」

「桜花さんっ。迷子になっちゃいますよ!?」

 その声が届いたのか、揺れるマスケラの飾り羽根と人の頭の上に、着物の袖と細い手がひらりと振られ、人混みへと消える。

「あー……いっちゃった」

 もう、この人混みの中で探すの大変なのに、とため息をつくみあ。

 ホントだねえ、と霧緒も一緒にため息をつき、「あぁ、迷子と言えば」と人混みに視線を送る。

「もう一組の迷子も探さなきゃいけないね」

 その一言に、みあも「そうだね」と頷く。

「さっきの話だと、お兄ちゃん達もこの世界に居るかもしれないし――。軍人もかぎ回ってるって話だし」

 そうそう、とみあは霧緒の袖を軽く引き、あのね、と声のトーンを落とす。

「さっき広場に行く前、あたし達に憑いてる“アレ”、見てる人が居たんだ」

「! もしかしてさっきの財布って――」

 こくん、と頷いてその予想を肯定する。

「残念ながら途中で見失ったけど――気をつけなきゃ」

「うん。そうだね――。でも、今優先しなきゃいけないのは」

「桜花さん、だね」

 まったく、すぐどこか行っちゃうんだから、とため息をつき、みあが霧緒の手を引く。

「探しにいこう?」

 放っておいたら、夜まで見つからないかもしれないよ。とどこか疲れた顔のみあに、「そうだね」と霧緒は苦笑いを返した。

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