ENDING2 - case:紅月みあ
■ case: 紅月みあ
渋谷の街を仲の良さそうな親子が歩いている。
手を繋いで歩く、少女とその両親。
言う事を聞いてくれない赤いくせっ毛。お気に入りの茶色いコート。裾からは黒いスカートが零れている。
これから買い物か何かに行くのだろう。弾むような足取りで人混みを行く。
それを遠くから見つめているのは、その少女に瓜二つの少女だった。
彼女はその親子から目を逸らして、小さく息をついた。
――貴女には、悪いことをしたわね。
頭の中に声が響く。男性とも女性ともつかない、不思議な声だ。
――こんなことになるなんて思いもしなかったものだから。
ううん、と少女は首を横に振る。
「いいの。もし、みあが生きてても、隕石が落ちちゃったらパパとママは居ないし」
少しだけ目を細めて、少女はえへへと笑う。
「パパとママが、ああして生きてるだけでもいいんだって、やっとそう思えるようになったから」
少しだけどね、と笑うものの、その顔は寂しげだ。
だから、声は「そう」とだけ答え、少女の視界から親子を見送る。
信号が青に変わり、親子の姿が見えなくなる。
「さて、と」
少女は背中を預けていた壁から離れ、青い空を見上げる。
「これからどうしようか? ミーアちゃん」
――そうね……って、ミーア、ちゃん?
その単語は何だ、と意味を問うその声に彼女はうふふと嬉しそうに答える。
「そ。だっていつまでも“書き記す者”さんとか、言いにくいし可愛くないもん。だからみあがつけたの。ミーアちゃん」
声の動揺が少女に伝わってくる。
――そ、そんな。あたしに名前なんて別にい……。
「つべこべ言わない-。もう決めたんだから」
声はしばらく動揺した様子だったが、しばらくして「まあ、いいわ」と零した。
――でも、ちょっと安直じゃない?
声の指摘に少女はむっと口を曲げる。
「そんなこと無いもん! 海だよ海! きらきら光る記憶の海、って意味! ……ま、まあ。みあの……あたしの名前なことも無い訳じゃないけど……」
――そう。Meer、なのね。そっか。うん。ありがとう。みあ。
「へへ。どういたしまして」
声に少女は照れながらも口元を嬉しそうに緩ませる。
「それで、これからどうしよっか」
――そうね。そろそろ次の記録対象を……。
「あ。もう! さっき言ったでしょ! 見てるだけじゃつまんないんだから、もっと楽しいことしようって」
ぷくーと頬を膨らませて抗議する少女。
――つ、つまらないって。
「つまんないものはつまんないの。みあと、ミーアちゃんで、楽しい思い出を作っていくのっ。ミーアちゃんはもう“書き記す者”じゃないんだから」
――え、いや、あたしは。
「ミーアちゃん、なの」
少女は引く気がないらしい。「はいはい」と頷くと満足そうな顔をした。
――でも、楽しいこと、って言われても……。
「色々あるでしょ? 河野辺さんとか深堀さんに会いに行ってみるのもいいよね。あ。リンド君ってまだ生きてるのかな? 生きてたら尻尾見たいな。……ああ、でもその前に駅前のアイス屋さんに新作が――」
指折りながら提案を数えていく少女に、声はくすりと笑った。
――ありがとう。
「うん?」
――なんでもないわ。それじゃあまずは……。
しばし、ああでもないこうでもないと言い合った後、少女は駆け出していく。
彼女達の新しい日常へと。