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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
5:Temple of the False God
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ENDING2 - case:紅月みあ

 ■ case: 紅月みあ


 渋谷の街を仲の良さそうな親子が歩いている。

 手を繋いで歩く、少女とその両親。

 言う事を聞いてくれない赤いくせっ毛。お気に入りの茶色いコート。裾からは黒いスカートが零れている。

 これから買い物か何かに行くのだろう。弾むような足取りで人混みを行く。

 

 それを遠くから見つめているのは、その少女に瓜二つの少女だった。

 彼女はその親子から目を逸らして、小さく息をついた。


 ――貴女には、悪いことをしたわね。

 頭の中に声が響く。男性とも女性ともつかない、不思議な声だ。

 ――こんなことになるなんて思いもしなかったものだから。

 ううん、と少女は首を横に振る。

「いいの。もし、みあが生きてても、隕石が落ちちゃったらパパとママは居ないし」

 少しだけ目を細めて、少女はえへへと笑う。

「パパとママが、ああして生きてるだけでもいいんだって、やっとそう思えるようになったから」

 少しだけどね、と笑うものの、その顔は寂しげだ。

 だから、声は「そう」とだけ答え、少女の視界から親子を見送る。


 信号が青に変わり、親子の姿が見えなくなる。


「さて、と」

 少女は背中を預けていた壁から離れ、青い空を見上げる。

「これからどうしようか? ミーアちゃん」

 ――そうね……って、ミーア、ちゃん?

 その単語は何だ、と意味を問うその声に彼女はうふふと嬉しそうに答える。

「そ。だっていつまでも“書き記す者”さんとか、言いにくいし可愛くないもん。だからみあがつけたの。ミーアちゃん」

 声の動揺が少女に伝わってくる。

 ――そ、そんな。あたしに名前なんて別にい……。

「つべこべ言わない-。もう決めたんだから」

 声はしばらく動揺した様子だったが、しばらくして「まあ、いいわ」と零した。

 ――でも、ちょっと安直じゃない?

 声の指摘に少女はむっと口を曲げる。

「そんなこと無いもん! 海だよ海! きらきら光る記憶の海、って意味! ……ま、まあ。みあの……あたしの名前なことも無い訳じゃないけど……」

 ――そう。Meer、なのね。そっか。うん。ありがとう。みあ。

「へへ。どういたしまして」

 声に少女は照れながらも口元を嬉しそうに緩ませる。

「それで、これからどうしよっか」

 ――そうね。そろそろ次の記録対象を……。

「あ。もう! さっき言ったでしょ! 見てるだけじゃつまんないんだから、もっと楽しいことしようって」

 ぷくーと頬を膨らませて抗議する少女。

 ――つ、つまらないって。

「つまんないものはつまんないの。みあと、ミーアちゃんで、楽しい思い出を作っていくのっ。ミーアちゃんはもう“書き記す者”じゃないんだから」

 ――え、いや、あたしは。

「ミーアちゃん、なの」

 少女は引く気がないらしい。「はいはい」と頷くと満足そうな顔をした。

 ――でも、楽しいこと、って言われても……。

「色々あるでしょ? 河野辺さんとか深堀さんに会いに行ってみるのもいいよね。あ。リンド君ってまだ生きてるのかな? 生きてたら尻尾見たいな。……ああ、でもその前に駅前のアイス屋さんに新作が――」

 指折りながら提案を数えていく少女に、声はくすりと笑った。

 ――ありがとう。

「うん?」

 ――なんでもないわ。それじゃあまずは……。

 

 しばし、ああでもないこうでもないと言い合った後、少女は駆け出していく。

 彼女達の新しい日常(みらい)へと。

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