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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
5:Temple of the False God
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ENDING2 - case:リンド

 ■ case:リンド


「う、わあああー……」

 橋の上に響く子供の声。

 友との別れを最後まで強がって見せた小さな子供は。

 ひとりになって初めて、年相応の顔でぼろぼろと大粒の涙をこぼし、声をあげて泣いていた。


 リンドはその足元に、そっと身を寄せた。

 ユウキは気付くだろうか? いや、気付いて欲しい。と、何も言わずに寄り添う。

「うう……うっ、……え?」

 少年の声がやんだ。

 しゃくり上げながらも、袖で涙を拭う。まだ涙は止まらない。赤く潤んだ目がこちらを向く。

「……やあ」

 なんだか気まずい。それでもここを離れないと尻尾で主張する。

「りん、ど……?」

「ああ」

「なんで? なんで、ここに」

 有樹はぺたりと座り込んだ。酷く冷たい石畳の上。身を乗り出すように、かつての飼い猫――友人と向かい合う。

「ユウキのおかげさ。オマエは俺が言った事をしっかりと守ってくれた」

 だから、とリンドは有樹の腕に飛び込んだ。

「だから、帰ってきた」

「は……かえ?」

「百年後のユウキの力を借りて、ちゃんと未来を変えて。帰ってきた」

 状況を整理するようにリンドの言葉が繰り返される。その表情を見つめていると、有樹は勢いよくリンドを身体から引き離して声をあげた。

「えっ! ひょっとして……こっちに戻ってきたちゃったの!?」

「違う。帰ってきた、だ」

「そんな……」

 有樹が口をぱくぱくと動かす。リンドはじっとその後に続く言葉と表情を待つ。

「――は、はは……あははははは」

 彼は笑った。

「うん。オマエは泣いてるよりそっちの方が良い」

「はは……あははは――!」

 有樹は改めてリンドを強く抱きしめた。

「にゃ……!」

 思わず潰れそうな声があがる。それでも有樹は笑い続ける。

 ひとしきり笑った所で、リンドは地面へ降ろされた。有樹の両手がその頬をそっと包み込み――むに、っと潰した。

「な! 何をする。それは反則だぞ!」

「反則なのはリンドの方だよ! 帰って来るんなら僕が泣く前に来ればいいじゃんか!」

 有樹はむにむにとリンドの頬を潰しながら文句を言う。

 何も言い返せずに視線を逸らすと、両手がぱっと離された。

「もう知らないよリンドなんて」

 ぷい、と拗ねた有樹が立ち上がり、背中が向けられた。

「そうだよそういう奴だよリンドはさ……」

 ぶつぶつと文句を言いながらリンドを置いて歩き出す。

「居なくなる時も突然なら帰ってくる時も突然だし……まったく勝手なやつだよ。猫だもんねそうだよね」

「ご、ごめんユウキ……!」

 リンドは狼狽える。

「心配をかけた。その、帰って来れるって分かっただけで、浮かれてたんだ……だから――その」

「しらないったらしらなーい!」

 少年の背中から、そんなうわずった声が返ってくる。


 こういう時の有樹は頑固だ。飼われていた時からそうだった。

 ああ、こういう時俺はどうしていたっけ――。

 謝ってた? それとも後を追いかけていた?


 ぐるぐると考えて動けなくなっていると、橋の向こうからリンドを呼ぶ声がした。

 いつの間にか有樹は立ち止まり、こちらを振り向いていた。

「ほら」

 ぐっ、と手が差し出される。指先が冷えて赤く染まっている。

「さっさとしないと本当に置いてっちゃうよ! これからしなきゃいけない事、たっくさんあるんだから!」

「――うん」

 リンドは頷き、有樹の元へと駆けていく。

 足元に辿り着いて見上げると、有樹もリンドを見下ろしていた。

 それがなんだか嬉しくて、リンドは有樹の足元に頬を寄せた。

 

「ユウキ」

「何、リンド」

「うん。大丈夫だ。もう、これからは……ずっと傍に居る」


 猫の寿命は人よりもずっと短い。

 自分が残り何年生きられるかは分からないが。精一杯共に在ろう。

 もう決して。彼を守る為にひとりにするなどという事はしない。

 死が二人を別つまでは。


「うん」

 有樹もにっこりと笑って頷く。その目はまだ赤く、頬は濡れていたが。久しぶりに見た有樹の、心からの笑顔だった。

「じゃあ、行こう」

「うん。頑張ろうねリンド。僕達で、みんなに未来を繋ぐんだ」

「うむ」


 猫と少年。

 二人寄り添い歩く影は、ヴェネツィアの雑踏へと消えた。

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