ENDING1 - 3
「――あ」
司が唐突に声をあげた。
「ろしたの? 司」
みあがふらりと首を傾げる。
「みあ、お前ほんとに大丈夫か……? いや、まあ。何でもない」
ちょっと用事思い出しただけ、と司は霧緒の腕からリンドを抱き上げる。
「と、いう訳でだ。リンド。お前を送り出す前に約束を果たそう」
「お。マグロか」
「うむ。マグロだ。約束通りたらふく食わせてやるから食いに行こうぜ」
そのままリンドを抱えた司が輪を一歩抜け出すと、リンドは腕をするりと抜けて肩に収まった。
「よし、たらふくだぞ」
「はいはい」
「行ってらっしゃい。……それと、彼女に会うなら一応よろしく伝えといて頂戴」
「……うわお。バレバレかよ」
司は思わず小声で呟いた。一言も上司に挨拶に行くなんて言ってないのに何故バレたし。背筋になんだか寒い物を感じたのは、気付かなかった事にした。
「それじゃ、またな」
ひらっと手を軽く振って、司とリンドは歩き出す。
「ええ、またね。あらひ……あたしも、そろそろ行くわ」
じゃーねー、と手を振って、軽い足取りで司に付いていく。駆け足で司とリンドを追い越し、屋内へ繋がるドアの向こうへと消えていった。
霧緒は立ち去る人達の背を、霧谷と共に見送る。
「――またな、か」
「うん?」
薄暗い階段を降りる司の肩でリンドがぽつりと呟いた。
「それは、叶えられる願いだろうか」
「どうだかねえ」
司は気楽な声で言う。
「人生……お前の場合は猫生だろうけど、何があるかわかんねーからな」
少なくとも、と言葉が続く。
「俺はこんな目に遭うとは思ってなかった」
「……だろうな」
「おう」
「ツカサは良いな」
リンドは頬をすり寄せるようにして、笑った。
そうして、二人は一枚の扉の前に辿り着く。階段からフロアに繋がるドアに手をかけ、重い鉄の扉を押す。
明るいライトに照らされたフロア。賑やかな人混み。並べられた売り物。館内放送の音楽がそれらを更に明るく演出する。
「よし、それじゃあとりあえず……築地だな」
「馬鹿。マグロなら大間だろう」
「待て。この時期大間はまだ居ないぞ――えーっと」
端末を弄り、口の端を曲げる。
「この時期ってマグロ少なくね? ……山口とか長崎とかなんだけど」
「じゃあ、そこからだ」
「……はいはい」
こうして猫と少年は、雑踏に混じっていった。