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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
1:Sudden Impact
19/202

CLIMAX - 1

 どのくらい上ったのだろうか。

 普段なら階段やエスカレーターですぐの距離であるはずのそこは、瓦礫の道になっており距離感がうまくつかめない。

 動かぬ改札を通り抜け、先ほどの戦闘が行われた場所を通過し、ようやく辿り着いたのは、渋谷駅のプラットフォーム。

 そこが、ワーディングの発生源。

 そしてそこで彼らを待っていたのは。

 

 まるで巨大な蛇のようにうねる、ウグイス色一色の車体。

 正面に引かれたシルバーのライン。輝く深紅と銀の瞳。

 威嚇するように開かれた顎。

 連なる車両は長く、その端を確認することはできない。

 巨大な電車――かつては103系と呼ばれていたその車体が、彼らを向いていた。

 

「……ねぇ、何あれ」

「えぇと……私には見たままを答えるしか……」

「やまのてせん、って書いてあるよ?」

「そうか……山手線か」

「そうですね。確かに山手線ってあんな色だよね……」


 目の前の電車になんと言えばいいか解らない三人に、リンドの小さな歯ぎしりが重なる。

「103系……なんで渋谷にこんなものが」

「おい。ツッコミ所はそこなのか?」

 困惑気味の顔で問いかける司に、リンドは頷く。

「そこだろう? 見て解らないか。あの車体、今では使われてないはずだぞ?」

 そう言われてみて見れば、今日よく見る電車は前面が白く、シルバーの車体にウグイス色のラインが主流だ。このような一色に塗られた車体ではない。

「まぁ、確かに今は見かけないな……。しかしリンドよ」

「何だ」

「どうしてそんなに電車に詳しいんだ?」

 普段から駅利用しているが、路線の識別なら兎も角、何系なんて判らないという顔の司に、リンドは軽く答える。

「俺の出身地が鉄道ブームだった頃があったんだ。あの時は皆でD51に乗る夢を見たものさ」

「なんでだよ!?」

「ブームに理由などないだろう」

「いや。まあ。……そうか……うん。俺の中のカオスガーデンのイメージがよく分かんないけど改められた」

 そんな会話の横で、困惑気味にみあが声を漏らし、霧緒の服の裾を引く。

「お兄ちゃん達が何を言っているのかよくわからないよ……」

 困った顔の彼女に、霧緒も「私も、ちょっと想像つかないかな」と苦笑いを返す。

「ま、そんな和気藹々とした夢持ったカオスガーデンってのもアリだろって話だ。それより――アレ」

 相も変わらずこちらを睨む鋭い瞳より少し外れた場所。

 ホームから線路の端。

 司が指差すその場所には、十数人の人が倒れていた。

 元からこの場所に居た人達なのだろうか。

 既に動かぬ者も居るが、時折聞こえるうめき声から、生存者が居る事も伺える。

 と、リンドはその中に、見覚えのある姿を見つけた。

 周囲に比べて小さな体躯。見覚えのある色合いの服。

 一時期であれ、最も身近に居た少年だ。間違えるはずなどない。

「ユウキ!」

 姿を認めるや、リンドは少年へと駆け寄り、名前を呼ぶ。

 揺する手に返ってくるのは、子供らしい体温と柔らかさ。

 多少の傷はあるが、命に別状はない。意識は失っているが体温も息もある。生きている。

「ユウキ! しっかりしろ! ユウキ!」

 幾度も声をかけ、揺さぶると、彼の口から小さな声が漏れた。

「ユウキ……よかった」

 それにほっとしたリンドは、周囲に倒れ伏した人々に視線を巡らせる。

 落ちた時の衝撃か、この電車によるものかは判別できないが、傷ついた人が大半だ。

 そんな中で飼い主たる少年がこの程度の傷で済んだのは、奇跡故だろうか。

「ふぅん、この子が『ユウキ』?」

 隣に立って彼を見下ろす司に、リンドは「そうだ」と頷く。

「ツカサ」

「何? この少年をどっかに運ぶとか?」

 その通りだ、と頷くと、彼は何も言わずに少年を少し離れた所へと移してくれた。

 これで少年の安全はある程度確保されたが、彼に傷を負わせたのは許せる訳がない。とリンドは目前の電車を睨む。

「――あの103系か」

 場所も、時代もこの場ではあり得ない存在である103系はさらに異形化し、龍のように鎌首をもたげる。

 臨戦態勢。

 今にも襲いかかってきそうなその姿を認めた司は、銃を手にしながらぼやく。

「相手はレネゲイド・ライナーか……勝てるかなぁ」

「まぁ、やるしかないんじゃないですか?」

 そう言いながら構える霧緒の手には、既に大きな鎌が握られている。

 そうです、やるしかないんですよ。という、言い聞かせるような呟きが聞こえた気がして、司が視線を向ける。その先に居た彼女は、緊張した面持ちでライナーを見据えていた。

 そして視線を戻した瞬間、ライナーが吠えた。

「オ――オオォオォ――!」

 辺りを揺らす重低音と金属音が混じった咆哮の中、両の目が輝く。

 それを合図として、先ほどの戦闘で相手にしたのと同じ、白い異形が湧き出てくる。それらはゆらゆらと彷徨うように手近な死体へ手を伸ばして、触れた所からするりと入り込むように消え――。

 

 そして間を置かずに、彼らはゆらりと立ち上がった。


「なるほど? 死体に取り憑いて身体を乗っ取り、暴走させる――と。これで夫妻が操られてたからくりが見えたな」

「ジャーム化だったということか……。全く、気分の悪い話だ」

「さっきの白いのが取りつく前で。こっちが本来の使い方なのかな……」

「かも、しれないね」

 人の言葉が解せるのかは解らないが、答えるかのようにライナーが吠えた。

 今度のそれは体中をざわめかせるような響きを持って、ホーム全体に響き渡る。

 その声が響くのは、異形達ばかりではない。

 4人にもそれは例外なく届き、彼らの衝動を沸き立たせる。

 そして声の残響が残る中に立つ彼らは、己の衝動を振り切るように武器を構え、改めて声の主を見据える。

「……っ。何だ今の声」

「解らんが……あいつは全力で来るぞ」

「そうだな……しかし、まずは取り巻きから片付けていこうか」

 そう言って最初に地面を蹴ったのは司。

 ライナーの陰に隠れていた異形の群れが最もよく見えるポイントで銃を構える。

 目標は、先ほどの声で一層の声を上げたジャーム。

 彼らの位置は手に取るように解る。

 角度と距離、動きと配置から最も効率のいい弾道を瞬時にはじき出し、照準を合わせ、引き金を引く。

 その銃弾は迷う事なく目標を撃ち抜き、衝動に駆られる彼らを再び地面へと伏せた。

 どさり、という音が重なる中で、ライナーは今一度大きく吠える。

 目の前の人々を障害と認識したのか。明らかな敵意を持って向けられたその声は、視界に残る三人の動きを縛める重圧を与える。

「二人共! 伏せろ!」

 リンドがそう叫ぶが早いか、周囲の重力が変化する。

 上から押さえつけるようなその衝撃は、床に伏せた猫も、伏せようとした二人も地面へと縫い付け、圧迫する。

 一時的とはいえ局所的に発生した重力は、人を潰すだけに留まらず。上にあった建物の一部を引きずり落とし、辺りに砂埃を舞い上げる。

 あっという間に周囲の視界は隠され、辺りが煙色に染まった。

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