SCENE3 - 1
桜花はひとり、部屋に居た。
白髪の少女と灰色の猫を見送って、彼女達の事を少しだけ考えていた。
彼らが何を追っているのか、どこへ行こうとしているのか。
彼女達は話してくれなかった。
「まあ……いいか」
小さく零れた呟きはほんの少しだけ、寂しげだった。
――とん、とん。
部屋にノックの音が響いた。主は、呼び寄せた葛城の私兵だ。
「はーい」
部屋に素早く視線を走らせ、出発の準備ができている事を確認しながら返事をする。
服装は、できるだけ動きやすく。
荷物は、安全な場所に宅配を。
ついでに念のため。と、顔を隠せる仮面――やや派手すぎるが、ここでは寧ろその方が良いらしい――を持ち。
最後に、鞘に収められた一口の刀を握る。
その刀に。それが繋ぐ遠い故郷へ向けて、桜花は呟く。
彼の予感は正しかった。
「やはりナチスは、とんでもない事を企んでいました」
遠い故郷に向け、誓いを新たにする。
とん、とん。
ノックの音がする。
「はーい! いつでもいけますよ」
急かすノックに小走りで駆け寄り、ノブを手にする。
「お待たせしました。さ、いきましょ――」
そのドアを開ききる事無く、彼女の声が途切れた。
廊下には、仮面をつけた男が立っていた。
彼女は言葉を失ったまま、男を見る。
見上げる桜花の瞳に映り込むのは、仮面の奥から覗く瞳。
そこには。宝石のような紅い輝きが滲んでいた。