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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
5:Temple of the False God
165/202

SCENE1 - 4

「ところで何仙姑さん」

「はい」

「もし、貴女がその“タンポポの種ダンデライオンクロック”に出会ったらどうしますか?」

「“それら”に人類とその歴史が侵されるのは本意ではありませんから、相応の対応を」


 さらりと躊躇もなく彼女はそう答えた。

 なんとも予想通りの答えで、司は苦笑いする。


「そうですか。……安心しました」

 何仙姑の視線が少しだけ不思議そうに細められる。

「いや、ここまで話しておいてなんですが、貴女が人類の終焉を望んでいたらどうしようかと思いました」

 何仙姑は溜息をつくように目を閉じて茶器に口をつけた。

「殊更に人類全体の行く末について思う所はありませんよ」

「そうですか」

 ええ、と頷く彼女に、司は心の中で一息つく。


 さて。これで話すべき事は全て話しただろう。

 あと、気になる事といえば……。と、司は何仙姑へ視線を向ける。


「なんでしょう?」

 視線に混じる疑問をすぐに察知し、彼女は茶器から口を離す。

「いやあ、とっても失礼な事を聞いてしまうのですが」

「はい」

 ある意味これが、今一番気になる事ではある。機会があるなら使わなくてはならない。

「年齢。おいくつですか?」 

 彼女は少しだけ司をじっと見た。そして、すぐに唇を吊り上げて艶然とした笑みを浮かべる。

「――いくつに見えますか?」


 質問に動じるどころかこの笑顔。そして質問を質問で返してくる、この大変困る対応。

 そうだ。この反応だ。思わずくつくつと笑いが零れた。


「そうですね……十代から二十代、でしょうか」

「それなら、その位なのでしょう」

 食えない回答まできた。つくづく、この何とも言いようのないやり取りは「似ている」と実感する。

「そうですか。いや、申し訳ありません。私の居た世界に“とても良く似た人”が居たもので」

 つい気になってしまいました、と笑うと、彼女もそうですか、と静かな笑みを返してきた。


 注がれた茶がなくなる頃。

 ごうん、と船が振動したのが伝わってきた。

「おっと。もしかして出港が近い?」

「そうですね」

 何仙姑は手にしていた銀時計の蓋を開く。瞳にまつげの影が落ち、瞬きをひとつ。

「間もなく出港予定時刻です」

「それじゃ、俺はこの辺で失礼します。お茶、ごちそうさまでした」

 何仙姑は席を立つ司に「ええ」と頷いた。

「それでは。お邪魔しました」

 そう言ってドアノブに手をかけた司の背中に、何仙姑の声がかかった。


「――ところで」

 ぴたりと手の動きが止まる。振り返るより先に、彼女の言葉が静かに投げられる。

「私からもひとつ」

「はい」

 なんだろう、と思わず背筋を意識して振り返る。


 彼女もまた椅子を離れ、テーブルの傍らに立っていた。

「貴方がここへ辿り着くまでに、いくつもの困難があった事でしょう。それでも貴方はこうして私に話をしてくれました。そして先程の問い。貴方にも何か理由があると推測します」

 彼女の視線が、司の眼を真直ぐに射る。


「貴方は私に期待する事があるのでしょう? ――それは、何ですか?」


「期待――すること」

 視線を落として問いを繰り返し、黙考する。

 自分は一体何を期待して、彼女にこの話をするに至ったのか。


 何仙姑が上司である事の確認。違う。

 未来における自分の救出。違う。

 異形や結晶に対する知識の共有。違う。

 未来における対策。これも違う。


 いや、どれもある意味合っているのかもしれないが。そうじゃない。


 じゃあ、自分は一体彼女に何を期待してここへとやってきたのか。

 必要と信じるあらゆる物を使い、正しいと信じるすべてを信じて。

 何の為に、彼女へ会いに。話しにきたのか。


 ――。


「そうですね。こういうのは非常に変な言い方になりますが――」

 口元に当てた手を下ろし、何仙姑へと視線を上げる。

 自分がこの女性に期待する事。


「そう、例えば百年の時を経てなお、貴女が正しく貴女である事を――期待します」


 しばしの沈黙。

 そして彼女は、その言葉に応えるように微笑んだ。

「良いでしょう。河野辺司。貴方の名、覚えましたよ」

「――ありがとうございます」

 司が深く礼をすると、彼女は「さあ」と声で外を示した。

「そろそろ船が出ます。他にご用がなければお行きなさい」

「はい。――それでは、失礼致します」

 ごく自然に、そんな言葉が出た。

 そうして、微笑む何仙姑に見送られ、司は船を後にした。

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