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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
5:Temple of the False God
162/202

SCENE1 - 1

 紅月の声が聞こえなくなり、四人は紅い結晶に向き合っていた。


「んー……で。どうするかね」

 紅月はああ言ってたけどさ、と沈黙を破ったのは司だった。

「とりあえず、今のずれた軸を戻さないといけないんでしょうけど……さて、どの時点がいいのかしらね」

「難しい話だな……ざっくり分けるならナチの時代にずれたと考えるのが妥当、ではあるけど」

 司の言葉に霧緒も「そうですね」と頷く。

「あの時代に結晶はなかったはずですし、まずは第二次世界大戦前……ですね」


 この時代に繋がる過去で、結晶を持ち込んだのは自分達だ。それまでこの世界に結晶はなかった。ならばまずはそこが発生源。

 だけど。と霧緒が考えていると。


「とはいえ。だ」

 司が考え込むように上を見上げる。

「問題はずれた原因だよ。一体何のせいであんな世界になった?」

 その問いに返ってきた答えはみあのものだった。

「あたしが確実に分かるのは、桜花さんが死んだこと、ね」

 彼女の最期を思い出したのか、みあの表情が険しくなる。

「彼女はあそこで死ぬはずではないのよ。そこを正さなくちゃいけないのは確かだわ」

「確かに。んじゃ、まずそれがひとつ」

 他には? と司が指を二本立てる。

「……ユウキはどうだ?」

「うん?」

 リンドは司の肩へするりとのぼり「カオスガーデンだ」と呟いた。

「オウカを見つける前。俺達はユウキを置き去りにした。……不本意だが、それがカオスガーデンを作る事に繋がった。違うか?」

「なるほど。それも必要だな」

 あとは? という司の言葉に霧緒も考える。


 有樹少年は異邦人達と共にカオスガーデンを作り、そこで研究を続けていた。

 それは異形達への対抗策であり、リンドの故郷を作る事に繋がるはずだ。

 でも。それだけでは足りない。何かを忘れているような気がしていた。

 あの時代で、置き去りに……いや、放置してしまったもの。


「えっと……」

「うん? どした?」

 考えている言葉が出てしまっていたらしい。首を傾げた司の言葉で我に返った霧緒は「いえ」と首を傾ける。

「何か、忘れている事があるような気がして……」

「桜花さんが死んだ事でもなく。有樹少年が居た事でもない」

 ええ、と頷くと司も何かを思い出そうとしているように上を向き――すぐに首を横に振った。

「俺は船の中が長かったし、みあと霧ちゃんの方が情報も多い……もしかしたら合流前、とか?」

「かも、しれません……」

 どうしても思い出せずに小さく息をつく。

「まあ、とりあえず手元にある情報だけで考えてみましょう? それで変化がないようであれば……または、女王に繋がらないようならば、また考えてみるとしましょう」

 そんなみあの言葉にリンドが「賛成だ」と頷く。

「ま。一回で決まればベストだけど、手数はある。今じゃなくても良い。泣いても笑っても悔いが残らないようにしようぜ」

「できれば一回は残して女王に辿り着きたいのだけどね……」

 そんな希望を口にするみあと、耳元で溜息をつくリンドに「まあ、そうだけどな」と司は軽く返す。

「って訳で。思い出したらすぐによろしく」

「……そうですね。では、思い出した時に」

「おーけー。それじゃあ、とりあえず桜花さんと有樹少年。この二つだと……どこに戻るのが一番良い?」

「まずは、オウカだろうな」

 リンドの尻尾が司の方の上でぱたりと音を立てる。

 みあも「そうね」と頷いた。

「桜花さんが生きている時……あたし達がアイゼンオルカへ向かう船に乗り込むより前、になるのかしら? その時点なら彼女は確実に生きてる」

 それから。とみあの目がちらりと司を向いた。その視線は、少しだけ楽しそうにも見える。


「“彼女”も生きてるはず」

「“彼女”……?」


 司がその言葉を繰り返し、そのまま口の中で数度転がす。

 それが一体誰を指すのか、真剣に考えるその姿に、みあは苦笑いした。

「ああ……司はそんな感じよね」

 その言葉も耳に入っていない様子で、司は考え込んでいる。

「彼女……かの、じょ……って、あー。もしかしてあの……ってか。ウチのボスに生き写しみたいな人」

 そういえばあの人には世話になったな、と頭を掻く司に、みあが少しだけ不安げな顔をした。

「みたいな人、って……まあ、司だものね。ええ。彼女よ。気になるでしょ?」

「うんうん。気になる」

 こくこくと頷く司に、それなら、とみあは言う。

「どうせ同じ時代に存在するなら、会える人は多い方が良いわ」

「だな。あの人マジで謎だった……し?」


 頷きながら言葉が止まった。一瞬の黙考。

「いや。待て」

 何か思い当たった様子で、司が手と顔を上げた。

「あの人もしかして。ってか、もしかしなくてもウチのボスか」

 みあは何も答えない。ただ笑みを返すだけ。それが今の問いに対する答えだと受け止めた司は、いやいや、と自身に言い聞かせるように呟いて視線を落とす。

「確かにすっごい似てたけど。話した印象とか、あのよく分からない感じとか、似てるけど……あー……そっかあ」

 似てるんじゃなくて本人か、マジか、と何か納得したように頷き、頭痛でもしたのか額を押さえた。

「そうだよな。それが一番しっくりくるわ……えー……どうして最初に気付かなかったかな……でも、なんで助けてくれたんだ……?」

 ぶつぶつと考え始めた司にみあが「存分に悩みなさい」とだけ声をかけた。


「それじゃあ、桜花さんが生きてる頃……あたし達がアイゼンオルカへ向かう前でいいかしら?」

「いや。待った」

 結晶に手をかざそうとしたみあを、司の声が制す。

 見上げる彼女の前で、司はじっと何かを考えている。

「どうしたの?」

「もっと前……もっと。俺達があの世界に運ばれるよりも。アイゼンオルカが港を出る時だ」

「アイゼンオルカが港を出る前、ですか?」

 そのタイミングに何があるのかを知っているはきっと司だけ。理由を問う霧緒と、全員の視線が司を向く。

「うん。あの人俺を助けてくれたんだよ。でも、素性を知らない東洋人に、脱出に最適な時間を記したメモを渡すなんて、いくらあの人でも準備できるもんじゃない」

 ってことはだ。と司は視線を上げる。

「あの人は『俺の事を知っていた』……つまり、俺に会った事があるんじゃないか? その前提があるなら、色々納得いく。と、思うんだが。“書き記す者”、どう思う?」

 司の問いに、みあは目を伏せて「さあ」と肩をすくめた。

「そこはあたしの“記録”には無いことよ。貴方が自分で確かめなさいな」

 そういうものでしょ? とみあは小さく笑う。

 司も「そりゃそうだな」と同じような顔をした。

「まあ、その辺も含めて確かめにいけば良いわよ。変にギリギリの時間に飛ばないといけないってこともないでしょうし、移動回数は少ない方が良いわ」

「それじゃ、行こうか」


 全員が頷いたのを見て、司が一歩前に出る。結晶に向かい合って、どうすれば良いのか考えたのか、少しだけ首を傾げてから手をかざす。小さな結晶は司の鼓動に呼応するかのように、紅く輝いた。

「ん。こんな感じか。――それじゃあ、運んでもらおう。俺が会いたいのは何仙姑(かせんこ)。時間は彼女がアイゼンオルカに搭乗する前」


 彼女の姿を思い浮かべる。あの笑みを。声を。部屋を。筆跡を。お茶の味を。

 それが鮮明になるにつれ、紅い光もまた強くなっていく。


 そして彼を、周囲を照らし、空間を歪め、視界を眩ませる。

 何度も見てきた、紅い輝きが全員を飲み込んだ。

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