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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
4:Riptide Laboratory
160/202

ENDING

 周囲に倒れている、もう一人の“自分達”。

 その中でまだなんとか息を繋いでいるのは紅月一人だった。


「……負けた……か」

 途切れ途切れの息の中、紅月がぽつりと呟いた。


 司は黙って紅月を見つめている。

 リンドも足元に寄り添い、じっと彼を見ていた。


「なあ、司」

「何だ?」

 紅月は天井を見上げたまま、問う。

「お前の世界は、どんなだ?」

 ぱき、と小さく亀裂の入る音が声に混じる。


「……どんな、か」

 そうだな、と目を細めてみる。

「レネゲイドに侵された、ただそれだけの世界だ」

 答えは簡潔だった。

 本当に、それだけ。

 でもな、と言葉が続いた。

「そこには、俺には眩しすぎるほどの日常が、詰まっていて――」

 何を言おうとしたのか。そんなの考えない。

 少しだけ空いた間に、自嘲気味に笑って。

「そして俺は、それを求め、壊す役割だ」

 そう言ってやった。

 紅月はそれを聞いて目を細めたようだったが、顔の半分以上が紅い結晶に覆われたそれは、ぱき、という小さな音を立てただけだった。


「――霧緒」

「は、はい……」

「あんたは……どうだ」

 霧緒はえっと、と呟いてぎゅっと傘と刀を抱きしめた。

 少しだけ俯いて、えと、ともう一度口にする。

 喉に引っかかるようなその声を飲み込んで、彼女は顔を上げた。

「そうですね……脆くて、危なくて。でも」

 優しい所、です。と何かを堪えるように答えた。


 その後ろでは、みあの歌が続いている。

 全てを包み込むような声で。優しい世界を紡ぐように歌い続けている。

 紅月の身体はもう、殆ど動かせないらしい。首を動かそうとしたが、出来ずに息をつく。

 見下ろす司には、視線だけがリンドの方を向いたのが見えた。


「……リンド、は」

 どうだ、と同じ問いを投げかける。

 リンドは尻尾の先を小さく動かしながら「そうだな」と目を細めた。

「……ただ俺達の居場所があるだけで、余りこの世界と変わらない」

 リンドの答えに紅月は小さく笑ったようにも見えた。


 そして、最後にみあへと視線を動かす。

 だが、何も口にしなかった。


 みあはただ、歌い続ける。

 人の営みを。日常を。思いを。

 高く低く、ただ歌い続ける。


 みあに、歌を止める気配はなかった。

 問われたとしても、止める事はないだろう。

 それは紅月も理解しているようで、その歌にただじっと聞き入る。


 どれくらいそうしていたか。

 もう殆ど動かせないように見えた紅月の腕が、ぴくりと動いた。

 その指先も既に紅い結晶となっていて、曲げようとすると脆くひび割れる音がした。

 それでも彼は、震えながらもゆっくりとその手を動かし。自分の右目に触れた。


 呼吸をひとつ。

 そして、その指先を右目に埋め――紅い結晶を抉り出した。


「――必ず、守れ」

 紅月は、崩れる指先で、紅く濡れた結晶を放り投げる。

 それは誰かの手に届く前に紅い輝きとなって周囲を包む。


「二度とこの世界を――産ませるな」


 そんな言葉を最後に。

 ぷつん、と周囲の景色は途切れた。

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