CLIMAX - 7
「さて、弟くん」
一仕事終えた、と言わんばかりに、司は銃口を向けた“司”ににやりと笑って声をかけた。
「さっきの銃弾と霧ちゃんとの連携攻撃。凄くいい体験だったよ。今後に生かせるものだった。彼女が居そうな任務は全部外してもらうよう懇願しよう。――と、言う訳で。君の要望に応じてこの銃を手放してあげよう」
言うが早いかその手から銃を手放す。
“司”はそれに眉をひそめた。挑発だというのはバレている。だが反応はそれだけ。司が作った「隙」に、ありったけの銃弾を撃ち込む。
が。それも司の計算通り。銃弾を避けるように身体を捻らせて避ける。それでも避けきれない物は、間に居る霧緒が重力で勢いを殺し、地面へと落とす。
そして肩の後ろから回し込むように構えたのは――研究所で手に入れたグレネードランチャー。
スコープから見える景色は、エレベーターの中で確認した。覗くまでもない。
その視界を脳内で展開し、引き金を引く。
いつもの銃とは異なる反動に、身体を支える足に力が入る。
それが霧緒の髪を掠め、着弾するより先に、次の弾を充填する。
もう一発。
更にもう一発。
砲撃音に混じって銃が地面に跳ねる音がした。
その音だけで位置を把握し、浮いた所を軽く蹴り上げる。
そのグリップを左手でキャッチすると、最初から手元にあったかのように照準を合わせ、引き金を引く。
大量の銃弾が、目の前の“自分達”を襲う。
だが、“司”の隣に――自分達の目の前に立ち塞がるのは“霧緒”だ。
鎌を持つ手に力を込めて、彼女の視線が銃弾を見つめると、彼女の意志に応えるように、黒い鎌に目が見開いた。
そして次の瞬間。
そこにあったのは、鎌を振り切った姿の“霧緒”と、落ちた銃弾達。
一緒に飛んできた水の刃すらも残さず、全て不発のまま斬り落とされ、叩き落とされ、水浸しになって散らばっていた。
「――やっぱりね」
司の口元が、にやりと吊り上がる。
バロール特有の「奥の手」。時間を止めてその攻撃を無効化するという、霧緒が覚醒技術研究所で使用したあの能力を、もし目の前の彼女も使えるならば。使ってくるに違いない。
そう踏んだ予想は、見事に的中した。
それは、肩で息をする“霧緒”の睨み付けるような目がしっかりと物語っていた。
そしてあれは、消耗が激しい。そう何度も使える力では無い筈だ。
ただ浴びせられる銃弾。それに対して、それだけの切り札を使わざるを得なかったこの状況に対する憤り。それとも焦りか。
そんなの知った事ではない。
そんな彼女の影から、“司”が霧緒へ駆け寄る。
司の銃弾を全て避けて放たれた銃弾は、目の前に立つ霧緒の腹部に埋まり、腕を掠める。
動こうとした霧緒の表情が変わる。霧緒が立つその場所だけ、重力が身体の動きを制限する。
「させません」
“霧緒”の冷たい瞳が光る。
霧緒がその重力を相殺するより先に、ギリギリまで近寄った“司”の銃が霧緒のこめかみを殴り飛ばす。
「――っ!」
霧緒の膝から力が抜ける。
「おっと。膝はつかせてやらねえよ?」
地面に膝をつくより先に、“司”の銃弾が腹部を撃ち抜き、正面からの蹴りが入る。
霧緒の身体が飛ばされる、が、彼女は鎌を持たない方の手で地面を受け止めてダメージを殺す。滑るブーツの底が、水飛沫を上げる。
勢いを殺し、がつ、と鎌を地面について立ち上がる。
出血は酷く、ぱたぱたと落ちる血が地面を濡らす。蹴られた腹部を押さえ、口内に込み上げる鉄の味に耐える。腹部を押さえる手は、すっかり血の気をなくしていたが、出血の量はみるみるうちに減っていた。
「おー。まだ大丈夫そうだな?」
司が声をかけると、彼女は肩で呼吸しながらも「ええ」と頷いた。
「まだ……こんな所で倒れるなんて事、いたしません……よ?」