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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
4:Riptide Laboratory
149/202

CLIMAX - 2

 歌声と同時にヒゲに触れた冷気に、リンドは反射的に自分が有利な領域を作り出した。

 冷気を纏う赤い目の“リンド”は、自身を見つめるその目に何かを感じたらしい。がり、と爪が床を削る音がした。

「そう言う眼を……アサジマと同じ眼をするな!」

 激昂する“リンド”に対して、リンドは冷静だった。

「……そうか。オマエには同じ眼に見えるんだな」

 ふ、と視線を少しだけずらし、すぐに戻す。

「俺にはユウキがお前と同じ眼をしてたように見えたよ」


 隣に在りたいと、居場所を望むその目。

 ユウキもまた、“リンド”の隣に在りたくてオーヴァードになる事を望んでいた。

 なんと言うすれ違いだろう。


「――片をつけなくてはいけないのだな」

「ああそうだ。その通りだ。貴様が此処に来てしまったのなら仕方ない」

 “リンド”の刃が音も無く滑り、リンドの耳を掠めた。急所を狙う刃は、リンドの発する冷気で凍り付き、砕け散る。

 きらきらと光り地面に転がる氷と、それが蒸発して生み出される白いもやの中。“リンド”の冷気が強くなった。

 そうして“リンド”は確固たる意志を赤い目に灯らせる。

「自らの手で貴様を排し――俺がオマエ(リンド)になる」


 歌声が始まるのを見計らうように、司は紅月達の間合いへと飛び込んだ。

 着地すると同時に相手の配置を把握し、銃口を定めようとする――が、その銃口がぶれた。

 最も銃口に近いのは“司”。だが、彼らが自分達と同程度の戦力を持っているとしたならば、最も早く倒すべきは“霧緒”だった。

 あの力、鋭利な刃。放っておく訳にはいかないと、ある意味身を持って知っている。


 その迷いは一瞬。

 されど、一瞬。


 “司”がその隙を見逃すはずなど無い。司が隙を突かれるには、十分な時間。

 向けられた銃口に気付いたのと、その引き金が引かれたのはほぼ同時。

「っ!? 危な……っ」

 ギリギリの所で避けたが、硝煙の匂いと共に前髪が数本散ったのが見えた。

「ったく。兄弟喧嘩で先に手を出していいのは兄だろう――が!」

 舌打ちをして、銃口を“司”に定める。


 相殺される

 相殺する。

 避けて。

 避けられて。


 マガジンリロードの音が重なる。


 避ける。

 避けられる。

 お互いの銃弾を弾き合い。

 相殺する。


 お互いがお互いの手を読み尽くしている。

 嫌な事に、タイミングまでばっちりだ。

 このままじゃあ弾が尽きて殴り合いになるのも時間の問題……と言う所でふと思い出した。


「――あ。ところでさ、そこの“弟”」

 引き金を引いて問う。

 突然の問いに一瞬の動揺が見えた。が、“司”は反射的に銃弾を当てて弾道を逸らす。

「なんで俺を殺そうとしたの?」

 不意打ちはやっぱり無理か、と再度引き金を引くが、それもあっさりと相殺される。

「ん? そりゃあ、あんたの立ち位置が欲しかったからさ」

 そこの不貞腐れた猫と大して変わんない。と、今度は“司”が続けて銃弾を放つ。

 司はその銃弾を避ける。銃口を向けると“司”は射線からずれるように身体を捻る。が、敢えて引き金を引く事はしない。相殺するつもりで放たれた“司”の銃弾をあっさりと避けて「ふーん」と相槌を打った。

「あの時はたまたま銃口の先に無防備そうな頭があったから、これはいいチャンスだと思ったんだけどさ」

 肝心な時にちゃっかり起きるんだもんな、と“司”は溜息をつく。

「なるほどなあ。で。俺の立ち位置手に入れたいのは解ったけどその後は? やる事変わんなくね?」

 その問いに彼は「いいや、違うさ」と距離を詰めて銃口を司の額に押し当てる。

「そうなのか?」

 しゃがみ込んで銃口を避けると「ああ」と彼は頷く。

 この世界でしばらく任務にあたっていたが、正直何が違うのか解らなかった。

 そのまま“司”の脇腹に銃口を押し当てて引き金を引く。

 脇腹を貫通した銃弾にくぐもった声が上がるが、その傷口はすぐに塞がっていく。

「あんたに、解るか。ああ、解んないだろうな。世界を牛耳ったFHの陰険さ、陰湿さ、その恐ろしさ……!」

 “司”は忌々しげに吐き捨てて距離をとる。

 リロードされるマガジンの音が、響く。

「オーヴァードの存在が世界に知られてから好転した事なんてひとつもない。力で捩じ伏せ、服従させ、邪魔者は消す。そんな事に駆けずり回る毎日だ」

 言葉と同じ位降り注ぐ銃弾を、司は躱し続ける。

 司は銃口を定めたまま、“司”が吐き出す言葉を聞く。

「ああ、はっきりと言ってやるよ。あんたの世界の方がずっと余裕だ。これならUGNと戦っていた方が万倍マシだったね!」

「――は」


 司はそんな彼を、鼻で笑った。

 “司”はその反応に鼻白む。

 引き金を引くその指も、止まった。

 表情が不快そうに歪むが、司はそんなの構わずに言葉を続ける。


「まったく、“砲撃手(ガンレイヤ)”が聞いて呆れる。お前は自分のコードネームの意味も忘れたか? そんなもの俺はとっくの昔に理解していたはずだ。UGNが勝利した未来、FHが勝利した未来。そんなの俺にとって等価だったはずだろうが」

「な」

「やっぱりお前は“弟”だよ。“俺”ではない。“砲撃手(ガンレイヤ)”は照準を定め、安全装置を外し、引き金を引く。だけどな、その標的を命ずるのは司令だ。上司だ。決めるのは俺じゃない」

 わかるか? と首を傾げて笑う。

「……何を、言っている?」

「うん? 何って」

 敵意に満ちた目で問いかけられたその言葉に、司は引き金を引いて笑った。

「そのまんまの意味だけど?」


 歌声、冷気。それから銃声。そんな中で白髪の少女は二人、鎌を手にして静かに向かい合っていた。

 跳弾も、水の刃も。重力の壁に阻まれて二人には届かない。

 彼女がどのように出るか。霧緒がそれを測っていると、「それで」と彼女は冷たい声で問いかけてきた。

「何故来たのです? 得るものは無いと言ったじゃないですか」

 声だけではない。視線も冷えきっている彼女に、霧緒は首を横に振った。

「確かにそう言われたけど。それでも……霧緒には、ここに来るだけの理由があったから」

 射抜かれそうな視線を受け止めて負けじと視線を返すと、彼女は小さく溜息をついた。

「……聞きましょう。その理由とは?」

 答え次第では容赦しない。黒い鎌を手にした手の僅かな動きが、そう言っている。


 理由。

 ここに来て自分が得られるもの。手にする事が出来るもの。

 それは、元居た世界への道標。そこに残してきたもの。


「元の場所に帰って、任務を終える。その為に」

「任務、ですって?」

 “霧緒”はその言葉を呆れたように笑い捨てた。

「任務ならここにもあります。好きなだけ働いて、UGNを盛り立てればいいでしょう?」

「――それはちょっと乗れないお話だね。そもそも私の任務はUGNをどうにかするとか、そんな話じゃないの」

「……では。どういう話だというのです?」

 真直ぐに彼女の目を見る。

 今なら、胸を張って言える気がした。


「深堀霧緒の任務は、『守る事』だから」


 ぎり、と音がした。

 同時に、“霧緒”の姿が見えなくなり――次の瞬間、脳を灼くような殺気が迫る。

 直感に任せて鎌を斜めに持ち直すと同時に、がきん! という音と、柄を支えるその両手に痺れが走る。

 お互いの手元に意識が集中したからか、銃弾と水の刃が二人にも飛んでくる。

 身体に傷を受けながらも力任せに振り下ろされた黒い鎌。それを受け止めた霧緒に、彼女の視線が刺さる。

「全て、私が守って差し上げます! 私が……UGNも、水原さんも、姉さんも! この手で!」

 その意志を示すように、獲物の大きさからは想像付かない程の勢いで断続的に鎌を奮い、打ち付けてくる。

 違えた時間はたったの一年。それならば――この攻撃は、読めるはず。

 そう感じた霧緒は、攻撃を鏡のような動きで受け止め、流し、弾く。

 だから! と“霧緒”が声を上げて大きく振りかぶった隙に、重力を乗せて鎌を大きく弾く。その弾みで、“霧緒”との距離が開く。

 はあ、と“霧緒”が息をつきながら、霧緒を睨みつける。

「私に、その場所を替わりなさい!」

「――お断りします」

 彼女の声を跳ね退けた自分の声も、とても冷たかったのが解った。

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