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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
4:Riptide Laboratory
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SCENE5 - 3

「――リンド」

 はあ、とみあが呆れたような声を上げた。

「リンドはこの世界の。この施設の何を見たの? これは有樹が頑張った結果でしょ? 彼がこんなに頑張って駒を残しててくれてるのに、無駄にしたいの? 貴方がそんな事でどうするのよ」

「ミア、俺はオマエ程の強い想いを持つ事はできない……。ユウキだって、普通に生きてくれれば良かったのに。って思うよ」

「まったくリンドったら情けない」

「な」

 跳ねるように顔を上げたリンドに、みあは溜息をついてみせる。

「有樹は。普通に生きる事も出来たのに。死ぬまで研究者として生きる事を選んで。この研究所を残してるの。なんでか分かる?」

「何でって……」

 リンドがたじろぐと、司が代わりに答えた。

「いつかお前が来るって、信じてたんだろうよ」

「うん。私もそう思うな」

 霧緒もその言葉に同意する。

「きっと、リンドが有樹君を大事に思ってたように、有樹君もリンドがすごく大事だったんだよ」


 だから、彼らが同じように過ごせる世界を取り戻したかったのだろう。

 その為に。どうすれば歴史を正せるかなど分からないまま。長い人生の残り大半を――命を懸けて。

 リンドはそれらの言葉にただ一言「そうか」と呟いた。

 その顔はまだ複雑そうだが、それ以上何を言うでもなく、自分の尻尾の先を見つめていた。


「あー……まあ。しかしなんだかな。面倒くせーなあ」

 そう言いながら、司は銃に弾を込める。

「え。河野辺さん……面倒って」

 ここまできて面倒と言い切った彼の言葉に、思わず呆れた声が零れた。

「何? 霧ちゃん」

 声に答えはするものの、やっぱり視線は手にした銃から動かさない。スコープを覗いたり、布で磨いたり。敢えてそれから視線を動かさないようにしているようにも見えた。

「いえ……なんでもないです」

 小さく首を振ると、リンドが「キリ」と尻尾を揺らす。

「ツカサは悪ぶってるだけさ」

「悪ぶってる、ねえ……」

 どうだか、という声が手入れの音に紛れる。


 彼が今、何を考えているのかは分からない。

 それはこれまでの旅路かもしれない。上司からの言葉かもしれない。過去の自分を見た時に感じた何かかもしれない。「友人で良かった」と言っていた相手――諏訪さんと敵対した時の感情なのかもしれない。

 協力的なようでいて、敵と認めた相手には決して手加減をしない。それが誰であっても。河野辺さんは、自分が信じる何かにずっと従っている。それを見直している。そんな感じがした。

 彼もまた、みあちゃんと同じ位。もしかしたらそれ以上に、真直ぐな物を持っているように見えた。


 それにしたって選ぶ言葉があるんじゃないかとも思うが。

 少しだけ羨ましいような、手を伸ばしたいような気持ちが口元を緩める。

「まあ、河野辺さんらしいといえば、らしいですけどね」

「どーも」


 みあと司は真直ぐに向き合っている。リンドも、向き合おうとしている。

 それなら自分も、きっと前を向ける。


 いつの間にか、自分の中でも何かが落ち着いたようだった。

 はあ、とひとつ息をつく。

「よしっ、私は気合い入れますよ」

「くれぐれも俺らを巻き込んで殺さないようにな」

「……しませんよそんな事」

 口に出してはいないけど、さっき思った事を撤回したくなった。

 しかし、これも彼らしさなのだ。そう思う事にした。


 エレベーターはまだ降りていく。

 一体どれだけ降りただろう。

 どこかで、何かの遠吠えのような物が聞こえた。

 それから、わずかに伝わる地響きのような振動。

「……ん。何だ今の?」

 司が手入れの終わった銃から顔を上げる。

「地震……じゃなさそうだな」

「ええ。どちらかと言えば、上で聞いたドラゴンの声にも似てましたが」

「なるほど。ドラゴン、ね」

 霧緒の答えに、みあの目が険しくなった。

 きっとみあには、それが何か予想がついたのだろう。

 それ以上、誰かが言葉を発することなく。エレベーターは降りていく。


 時間感覚も分からなくなった頃、エレベーターの速度が落ちたのが分かった。

 速度の変化が圧力になって、地面へと軽く圧し付けてくる。

「着いたか」

「そうみたいね」

 よいしょ、と立ち上がる司と、壁から背中を離すみあ。

 リンドも司の足元に立ち、全員が開く扉に意識を向ける。

 

 扉が開いて、真っ先に感じたのは鉄の匂い。

 次いで認識できたのは、大量の鉄くずとジャーム達、一際大きな何かの死骸。

 そして、その中に立つ、四つの人影。

「とりあえずリンド。覚悟が出来ないなら、そこで尻尾巻いてても良いのよ?」

「パーティの足を引っ張るのは猫的美感に反する。終わってから後悔する事にするよ」

 そう言ってエレベーターの外へと飛び出す。

 みあも「そう」と頷いて、外へ出る。

 司はグレネードランチャーと愛銃を手に。霧緒も刀と傘の柄を確かめ、後に続く。

「ま、挨拶はいいとして――まずは向こうさんの話でも聞こうじゃないか」

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