SCENE4 - 7
博士の死後。
紅月は「彼ら」を探し出し、話をした。
姉を殺めてしまった少女に。
後悔の念に押しつぶされた少年に。
何も知らなかった事を嘆く猫に。
「それは本来なら、起きない出来事のはずなんだ」
歴史が歪められ、結果としてこのような世界が出来上がったと。
紅月は話をした。
「世界を、取り戻したくはないか? それらが起こらなかった世界で生きたくはないか?」
少女は姉との再会を願い。
少年はよりマシな生活を願い。
猫は自分を見つめる視線を願い。
彼の言葉に、頷いた。
ふ、とみあが気付くと。そこは普通の研究室だった。
埃をかぶったパソコンに、空っぽの書架。試験管にケージ。
実験室もかねていたのかもしれない。
だが、みあにとってそんなのどうでも良かった。
ここで今見せつけられた“記録”。
あれが、この世界の“同一端末”が記録してきたもの。
「なるほど。これが貴方の百年、って訳ね」
“同一端末”でありながら、記録も感情も、これほどまでに違うのかと、面白くもある。
だからこそ。紅月はみあではない。
歩んできた道が異なれば、それはもう同一とは言えない。
同一の記録を持たない彼とは、決して相容れない。
「そういう事なら、話に乗ってあげましょう」
約束、果たしてあげるわ。
そう小さく唇に乗せて、みあは部屋を後にした。
□ ■ □
ごうん、と音を立てながら、エレベーターは下りていく。
下へ。下へ。更なる地下へと。
「――さて。今回は勝てるかな」
少年が銃のグリップを確かめながら呟く。
「相手には前回のダメージも残っているはずですし、こちらに多少の利はあるでしょう」
白髪を背中に流した少女は傘を持つ手に力を込め、真っ黒な大鎌を作り出す。
「勝てるか、じゃない。俺達は勝つんだ」
傍らの猫が、赤い目を細めて身構える。
「そうしないと――俺達の未来は無いからな」
エレベーターの落下スピードが遅くなる。
止まると同時に開いたドアの向こうには、広い空間があった。
奥に居るのは、暗い中でも紅く輝くドラゴン。
あちこちが傷ついているものの、鋭い眼光が開いたエレベーターへと向く。
周囲に転がるのは、壊れた機械の残骸。
そして、残骸となっていない機械――フロアのセキュリティ用ロボットと実験動物の成れの果てとなったジャームが大量に居た。
「それじゃ、行くとしようか」
紅月の目が、紅く光る。
それを合図にするように、彼らは一斉に駆け出した。