SCENE2 - 5
リンドがドアノブを器用に回して開けたドアから滑り込んだ所は、既に片付けられたり倉庫だったりした部屋が殆どだった。中には灰になった何かが残されている部屋もあった。
そうやっていくつのドアを開けたか、と次のノブに飛びついて入り込んだ部屋は何かの研究室だった。
空っぽの檻と書籍が詰まった棚。医療器具のような道具と誰かの足跡が残るその部屋は、研究室というより実験室のようにも見えた。
「寒々しい部屋だな……」
自分が居た頃には入った事のない建物。一体何があるのかは分からなかったが、並べられた空の檻を見て何となく察する事が出来るような気がした。
「実験室か……あまり良い気はしないな」
元居たあの島でもそうだったのだろうか、と考えながら室内を歩き回り、机の上にある研究日誌のようなものをめくる。が、特に有益そうな情報は見当たらなかった。
そうしているうちにがちゃりとドアの開く音がした。
警戒態勢をとって振り向くと、そこには見慣れた顔があった。
「リンド、何か見つかった?」
「ミアか。いいや、まだ何も見つかっていない」
ふるりと首を振ると、みあは「そう」と言って部屋へ入ってきた。
「確かにこの量だとちょっと時間かかるわね……じゃあ、ちょっと手分けして何かないか探してみましょうか」
そう言いながら手近な棚から本を取り出してパラパラめくる。速読のような早さでめくっては棚へ戻し、次の本を手に取る。
リンドも棚から本を引っ張りだしてはめくっていく。
しばらくすると再びドアが開き、司と霧緒が顔を出した。
「あら霧ちゃんも来たのね。何か見つかった?」
「私が見た部屋には特に何も」
ふるふると首を振って、ひとつだけ、と言葉を繋ぐ。
「室内プールにドラゴンは居たけど」
「ドラゴン?」
思わず繰り返したみあに、霧緒は頷く。
「鎖に繋がれてたから、あの部屋からは動けないみたい」
見に行く? と問う霧緒にみあは首を横に振った。
「気にはなるけど……繋がれてるだけなら今は別にいいわ。情報収集を優先しましょう。それにしてもドラゴンなんて、まったく、この島本当に何でもありね……」
「ドラゴン位居るさ。言ったろう、魔境だと」
ぼやいたみあの言葉に返すと、彼女は「そうだったわね」と呟いて資料探しへと視線を戻した。
司と霧緒も資料探しに加わってしばらく。
「――あ」
みあの手が止まった。
「どうした?」
リンドがページをめくる手を止めて振り向く。
「これ。異形について書いてあるみたい」
その一言で、全員が手を止め、みあの周りに集まる。
記した者の名前は見当たらないそれは、雑記や日記を交えた研究日誌のようだが、余白には考察を纏める為のメモ書きも多く残されていた。
一ページ目は、これを読む為の誰かに宛てたものだろうか、文章がしたためられていた。