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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
4:Riptide Laboratory
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SCENE1 - 6

 全員がそっちに視線を向けると、てくてくとやってきたみあが居た。

 みんな元気そうで何よりだわ、と彼女も輪の中に入ってくる。

「そうだね。海に放り出されたからどうなるかと思ったけど……みんな無事で何よりだよ」

「無事……ねえ。まあ……なんか何があったか容易に想像が付く顔だけどな、お互い」

 と、司は砂浜での事を思い出して溜息をつく。


「お互い、という事は……みんなこの世界の自分に?」

 霧緒の問いかけに司は溜息をつくように答える。

「俺は自称生き別れの弟に殺されそうになってきた」

 リンドは何かを答える替わりに、視線を逸らして渋い顔をした。

「あたしは紅月に会ったんだけど……ふうん。もう一人の自分に、ねえ」

 頷くみあの、少しだけ面白そうな視線が司へ向いた。

「貴方がその弟の方じゃない事を祈るわ」

「弟は不良だからな。素行の良い俺と違うからすぐに判るはずだ」

 あと動物好きらしいぞ。と思い出すだけでげんなりしながら答えると、みあは「そう。それならいいけど」と質問を切り上げた。

「それにしても、こちらの世界の貴方達もこの島に来てるって事ね……司は少なくとも敵に回るみたいだけど。他はどうかしらね……」

 ごそごそと小さな鞄を探りながらみあは呟く。

「ま、そこは蓋を開ければ分かるだろ? とりあえず入ってみようぜ」

「ツカサは本当に能天気でいいな」

 リンドがどこか呆れた声で言う。

「考えても仕方が無い事は考えない事にしてるんだ」

「成程な」

 それは一理ある、とリンドは頷く。

「そうね。その通りだわ。行ってみましょう……と、その前に」

 ちょいちょい、とみあは司へ手招きする。

「うん?」

 なんだろう、と数歩近寄ると彼女はきゅっと服の裾を掴んだ。


 もう一方の手には、黒いマジックペン。

 そのまま器用に、服を掴んだ手できゅぽん、っとキャップを外し、服の隅にきゅっきゅと何かを書き出した。


「……なにしてんの?」

「え? 生き別れの弟に会ったんでしょ? 分かりやすいように目印よ」

 ほら、と服から手が離れると、そこには「兄」と書かれていた。

 しかも書き辛かったのか、文字が力一杯歪んでいる。

「ほう。入れ替わっても大丈夫なようにか。やるな、ミア」

 リンドも感心の声を上げる。

「……俺の服が」

「だって、ぱっと見てどっち斬っていいか分からないと面倒でしょう?」

「斬るって何」

 この中で該当するのなんて一人と一匹しか居ない。

「保険ですよ、保険」

 そんな一人は苦笑いしながらそんな事を言うし、もう一匹は肩の上で我関せず、だ。

 思わずみあと霧緒に恨めしげな視線を向ける。

「そーですね。ばっちり油性でありがとう。お前らも書く?」

「え。あたしはほら」

 と、袖を少しめくって手首を示す。

 そこにあるのは、一本のヘアゴム。

「これがあるから?」

「それ、俺もあるよね!?」

「あるわね」

 けろりとした顔でみあは肯定した。

「じゃあ何故書いたし」

「気にしない気にしない」

「保険ですよ、保険」

「……キリとミアが言うと本当に怖いな」

 笑う二人に、リンドが肩の上で何かを再確認したように頷く。

「俺マジ書かれ損……大丈夫だよ俺あいつみたいにやる気に溢れてないから!」

「――まあ、冗談は置いといて」

 みあは真面目な顔で全員を見渡す。

「“紅月みあ”はこの世界に居ないみたいだけど。リンドと霧ちゃんも何か分かりやすいようにしておいた方が良いかもね」

「まあ、ヘアゴムだけでは心許ない、というのはあるかも……?」

 霧緒も手首にあるそれを見て心配そうな顔をする。

 そんな彼女を見ながら、司はぱたぱたと手で否定する。

「いや、霧ちゃんは見て判るから良いよ」

「……そうですか?」

「そうですよ?」

「そんなにきっぱり言われると……なんか、癪です」

 苦笑いのような拗ねたような顔をした霧緒だが、確かに研究所で見た“彼女”は目の前に居る彼女とは異なる箇所がいくつかあった。


 それは冷えきった目つき、見当たらなかった帽子とヘッドホン。そして真っ黒に染まった傘。

 見当たらなかった小物はたまたまという可能性もあるが、あの時の持ち物や外見だけでこれだけの差がある。それはきっと、この世界で育ったからこその特徴であり、それらはきっと、“彼女”以外――自称弟のやる気も含めて、見るからに判る特徴となっている可能性は高いだろう。


「――よし。これで全員揃ったし、いつまでも馬鹿やってないで進むか」

「そうね。さっさと進みましょ」

 各々が頷き、動かないガラスドアの割れ目から中へと足を踏み入れた。

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