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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
4:Riptide Laboratory
122/202

SCENE1 - 5

 司が自称弟を追って辿り着いたのは、先程から見ていた人工的な建物だった。

「……研究所」

 入り口の壁にかかっていた木の表札。墨で書かれたそれは、長い時間のせいで朽ちかけており、文字を読むのがやっとだった。

 だが、研究所とある以上、ここが末利の言っていた「浅島研究所」で間違いなさそうだった。


 窓の数から推測するに三階建て。白い外壁はあちこちがくすみ、場所によっては植物が這っている。それは、この建物が建てられて随分経っている事を物語っていた。見える限り大きな損傷などはないが、入り口の大半はただのガラスの破片と化していた。あのジャームの群れでも突っ込んでいったのか。それとも元からこうだったのかは判らないが、ロビーらしき所は破片が散らばっている。そこから少しだけ覗いてみると薄暗い中に足跡のようなものが見えた。


 さてここからどうするか、とドアから離れて溜息をつく。

 ここは島の中でもよく目立つ。ここに居ればいずれ誰かがやってくるだろうか。

 ポケットから携帯を取り出して、暇をつぶすように電源を入れてみる。

「おお。電源入るのか。防水ばっちりだな」

 さすが支給携帯、ともう一つ小さな端末を取り出す。同じように電源を入れて、動く事を確認する。

 眺めるその小さな画面には電波受信中の点滅と、島の地図。距離を示すルーラー。それからここへ近付いてくる赤い点があった。

「この島の地図もあるのか……って、当たり前か。一応同じ島だろうしな」

 そんな事を呟きながら近付くマーカーを眺めていると、草むらからがさりと音がした。


 司が端末の電源を切ってポケットにしまうと同時に現れた灰色の猫――リンドの青い目が司を捉え、こちらへと歩み寄ってくる。

「……ツカサ、か?」

「はいはい司くんですよー。あ。言っておくけどマグロは手に入れてないぜ?」

 リンドは答えずに警戒した様子で司に近寄り、ふんふんとズボンの匂いを嗅ぐ。

 そしてハッとした表情で見上げてきた。

「どうした、リンド」

「オマエ……ツカサだな!」

「いやまあ、うん。そうだね。リンド……もしかして頭悪くなった?」

 呆れてかけた声に、リンドはふんと鼻を鳴らして肩へ器用に上ってきた。

「オマエのレベルに合わせてるんだ」

「なるほど、一理あるな」

 適当に肯定すると、リンドは満足げに鼻を鳴らす。

「ところでリンド。この建物、何?」

 朽ちた看板をこんこんと示しながら問うと、リンドはふるりと首を横に振った。

「俺達は確かにこの周辺にあるものを“家”としていたが、この建物だけは立ち入る事が出来なかったんだ」

「ガラス位割って入れるんじゃないの?」

「オマエはどうしてそう、時々不良のような事を言うんだ。――そうではない。島の掟だ。この建物だけは、許された者以外は立ち入る事ができなかった」

 この島はどうか知らんがな、と言うリンドの言葉を聞きながら建物を見上げていると、リンドが耳をぴくりと動かした。

「何か来る」

「お?」

「足音……キリだな」

「ほう」


 どっちだ。と、司の中で一つの疑問が湧く。

 リンドは、発信器があるから本物と断定できた。

 みあも、この世界に“紅月みあ”は居ないと言っていた。

 だが、彼女は……研究所で実際にもう一人居ることを確認している。


 果たして本人か?

 一瞬だけ緊張感が走る。が、それはすぐに解けた。


 リンドの言う通り、道の向こうから現れたのは霧緒だった。

 傘と刀を抱いて、ぱたぱたと駆けてくる彼女もこちらを見つけたらしい。少しだけ安堵したような顔でそのまま駆け寄ってくる。

 彼女の持ち物をざっと確認する。

 彼女が本物か。その答えは持ち物にあった。

 葛城家から譲り受けてきた刀。傘と一緒に抱えているそれは、この世界に一本のはずだ。

 それから若草色の傘。確か“彼女”の傘は黒だった。

 それらを瞬き一つで照合して頷く。


「河野辺さんに……リンドも――」

 ――と、彼女の言葉と足が、数メートル手前でぴたりと止まった。

「ん?」

 首を傾げて窺うと、彼女の目に疑問の色が見えた。

 なるほど、と司は理解する。

 それは疑問ではなくて警戒だ。目の前に居るのが仲間(ほんもの)であるかどうかを見定めようとしてるのだろう。

「霧ちゃん」

 呼びかけると、表情を変えずに「はい」と返事だけがあった。

「俺達が本物かどうか疑ってるようなので、ここで一つその証明をしよう」

「……?」

 霧緒が首を傾げる。

「とりあえず、ヴェネチアで聞いた寝言でも言えば良い?」

「――!?」

 その一言で彼女の顔色が変わった。

「な、……え。寝言って……ちょっと!」

 恥ずかしいのか、途端に慌てた様子で一気に詰め寄ってきた。

「はいはい。言わないから本物だって信じてね」

「何を聞いたんですか!」

「いや、別に大したものじゃないよ? ――でも、これで少しは証明になったでしょ?」

 霧緒がぐっと何か言いたそうなのを堪えて一歩離れる。

 そして。

「――口外したら、容赦しません。できる事なら、全て忘れてください」

 すごい目で睨んでそう言ってきた。

「あら。こないだみたいにお願いしてこないの?」

「っ!」

 更に言葉を詰まらせた彼女の反応を「はいはい」と軽く流すと、リンドが小さく溜息をついた。

「――お前らはいつまで漫才をしてる心算なんだ」

「俺は満足したからこの位かな。まあ。霧ちゃんも元気だって分かったし」

 霧緒はまだ不満そうな顔をしていたが、それ以上何も言わずにこくりと頷いた。

 それから、話題を変えるように目の前の建物を見上げる。

「それで……ここは?」

「うん。研究所」

 司も看板を示しながら建物を見上げていると。


「――あら。もう揃ってたのね」

 幼い声が飛び込んできた。

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