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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
4:Riptide Laboratory
119/202

SCENE1 - 2

 霧緒が目を覚ました頃。

 司もまた、海岸に打ち上げられていた。

 彼女と違う点があるとすれば。

 今すぐ起きないと死ぬ、という事だった。

 

 突如脳裏を灼いた感覚に身を任せて跳ね起きると、銃声が耳元を掠めた。

 ついさっきまで自分の頭があった場所に着弾したのを感じつつ、反射でホルダーから銃を抜き、その殺気へ銃口を向けて引き金を引く。

 しかし、相手も司の銃弾は首を捻る事であっさりと躱した。


 二つの銃声の余韻が消える頃。

 砂浜に座り込んだ司は、目の前に立つ相手が自分と同じ顔をしている事に気がついた。

 一瞬、鏡が発砲したかという寝ぼけたような感想が浮かぶが、そうではないとすぐに否定する。


「よ。おはよう、お兄ちゃん?」

 目の前に立つもう一人の自分が、にやりと悪趣味に唇を吊り上げる。


 最悪の目覚めだ。

 真っ先にそんな感想がよぎったが、さて。コイツは何者だろう。

 お兄ちゃんという事は、コイツは弟……なんて事はない。きっとその呼び方も嫌がらせ以上の何物でもない。間違いない。俺ならそうする。

 大方、この世界で生きているもう一人の自分だろう。

 何故ここで姿を現したのか分からないが。きっとそうに違いない。


「おお、生き別れの弟よ。どうした?」

 心の中で盛大に溜息をつきつつも、そんな素振りも興味も見せずに答える。

 彼もその言葉に軽く「ああ」と答える。

「生まれて初めての再会でこういうのもなんだけど、死んでもらおうと思って」

「そうかそうか借金の相談か。それは出来ないな」

 視線を外す事なく、よいしょと立ち上がって、手に付いた砂をズボンで軽く叩いて落とす。

「甘やかす事は我が家の家訓に反するって知ってるだろ?」

 今の自分に家族なんて居ないが、彼はそんなのに突っ込んでなどくれない。

「そりゃ残念」

 ただ、言葉通りな素振りなど見せずにそう言って笑う。

「お兄ちゃんなら相談に――乗ってくれると思ってなかったけど」

 言い終わると同時に、ひゅう、と口笛を吹く。

 それが何かの合図だったのか、陸の方から沢山の気配が現れた。


 草の陰から。岩場の向こうから。水辺から。

 現れたのは動物達。

 ただ、それらは図鑑に載っている物とは随分と違っていた。角や翼、鱗等々、ランダムに混ざったようなものだったり。本当に生き物として成り立っているのかすら分からないものだったり。

 きっと最初はEXレネゲイドに感染した動物達だったのだろう。それらが何らかの理由でジャームへと変貌してしまっていた。カオスガーデンという島は、元より自然界に存在しない動物も存在する島だとは聞いていた。だが、これは生物学者が見たら嘆くこと必至だな。なんて思いたくなる程に滅茶苦茶で理解し難い物だった。


「ほほう。我が弟は動物と心が通じ合う程度の心優しき人間だったか。お兄ちゃんは嬉しいぞ?」

 思わず自分がげんなりとした顔をしたのが分かる程に、呆れるような景色。

 中心に立つ彼は、悪びれた様子も無く「悪いね」と笑った。

「不良になっちゃったもんで動物にしか優しく出来ないんだよ」

 嘘だけど、と彼が再び銃を構えると、周囲に居る動物達もその意識に応えるように唸り声を上げ始めた。

「そうかそうか。我が家のしつけは厳しいからな。獅子の如く我が子を千尋の谷に突き落とす、っていうか捨てるし、な!」

 司と彼の動きは同時だった。


 お互いに一歩を踏み出し、司は銃口を彼の顎へ真下から、もう一人の“司”は真横から突きつけて発砲する。が、お互い引き金を引くより先に銃弾の軌道から顔を逸らす。

 同時に響いた銃声は彼らの聴力を一時的に奪う程大きく響いたが、その銃弾は虚しく空へと飛ばされ、それぞれの顔に縦と横の赤い傷を残しただけだった。


 そのまま後ろに飛ぶように司は距離をとり、周囲の動物へも続けて発砲する。

 目の前の“司”は再度銃口を向ける――が、周りの動物達が為す術無く倒れていくのを見てひとつ舌打ちをした。

 それを隙と見た司は、動物達への銃弾に混ぜて彼も狙う。だが、それは砂浜や背後の岩を虚しく抉るだけだった。


「ふむ。なかなかやるな弟よ」

 がしゃん、とマガジンをリロードしながら溜息をつくと、彼も同じように息をついた。

「流石だお兄ちゃん――っと、そろそろボケ疲れてきたから兄と略そう。しかし思ったより強いな」

 こりゃ厄介だ、と呟く顔には、僅かに苦いものがある。

「もう少し怠けててくれると助かったんだけどな。具体的にはあと一秒寝てるとか」

「そりゃ兄の面目躍如って所だ。やる時はやるのよ、お兄ちゃんは」

 けたけたと笑いながら彼の言葉に答えてやる。

「――仕方ない」

 少しだけ考えた素振りを見せた彼は、銃口を司に向ける。

 そのまま発砲するつもりか、と射線から外れようと反応した瞬間。


「よし、撤退。もう少し有利な状況で戦わせてもらおう」

「え」


 虚をつかれて上げた声に、“司”が踵を返す足音が重なる。周囲の動物達もそれに倣い、ぞろぞろと後へ続く。

 司の視線、射線から隠すように、守るように。動物達も歩き始める。

「なにそれ。お前が有利な状況とか、俺不味くない?」

「そりゃ不味いさ」

 動物達の影から、そんな声が聞こえる。

「だって俺が勝つ気だし」

 そんな言葉と一緒に、彼の頭が高い所に見えた。

 何かに飛び乗ったのだろうか。と、眉をひそめると同時に、動物達は移動の速度を一気に速めた。

「ちょ……それで移動とかなんかずるくない!? ちょっと!?」

「えー。そもそもお兄ちゃん見つけてくれたのもこいつらだし――」

 足音に紛れて最後に聞こえたのは「べつにずるくないよー」という何とも言えないものだった。

「いや、ずるいって!」

 動物対俺とか絶対追いつけないじゃん! と届かない声を上げつつも、彼らの行く先をシミュレート――するまでもなかった。


 その先にあるのは、人工物と思しき建物。

 銃を仕舞い、近くに自分の荷物が落ちていない事を確認して、司は駆け出す。

「くそ、結構な距離だぞあれ……!」

 そんな文句と共に、司は足跡を追いかけた。

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