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終末の時計 Armageddon Clock  作者: 著:水無月龍那/千歳ちゃんねる 原作・GM:烏山しおん
3:Fact or Fiction
101/202

CLIMAX - 1

 その日は、とても良く晴れていた。

 霧緒が駅に到着した時には、既に全員が待っていた。

 そして、司の案内で研究所へと向かう。

 

 塀の続く道を歩きながら、司は今日の情報をぽつりぽつりと、眠そうな表情で教えてくれた。

「えー。今日の試験ですが、前話していた覚醒試験です。本日の受験者予定者は五名。もう全員到着して、受験の開始時刻を待っている……はずです」

「適当だな」

「ま、俺の仕事はこの後に待ってるからね……」

 少しだけ憂鬱そうな声を響かせて、彼は門の前で立ち止まった。

「はいはい、皆様到着しました。ここが本日の試験会場。覚醒技術研究所です」

 

 研究所の入り口は、どこにでもあるビルのロビーのようだった。

 だが、受付は無人で、壁に試験会場の方向を示した紙が無造作に貼ってあった。

 その矢印にそって進むと、ホールに出た。

 天井には明かり取りの窓があり、奥と右手にドアがある。

 矢印の表記はないが、そのどちらかが試験会場へと繋がっているのだろう。

 

 そして奥への扉の前に、一人の女性が立っていた。

 しゃっきりと伸びた背筋に、白衣がよく似合う。いかにも研究者、という雰囲気を纏った女性。

「いらっしゃい。初めましての人も居るわね――ようこそ覚醒技術研究所へ。私は諏訪末利」

 よろしくね、と彼女は目の前に立つ四人を見渡した。

「四人グループね」

 それで全員? と彼女は首を傾げて問いかける。

 それに「いや」と首を振って答えたのは司だった。

「正しくは、二人と一匹と、一不明だ」

「不明とは失礼ね」

 間髪入れずにみあが不満の声を上げる。

「じゃあ、訂正しよう。一よく分からない……とか?」

「一緒よ……」

 はあ、と盛大な溜息をついて、みあは小さく首を振った。

「はいはい。司がごめんなさいね。話を進めてちょうだい」

「そうさせてもらおうかしら」

 そう言って彼女は「何か質問は?」というジェスチャーをした。

「マツリ。――あんたがここのボスか?」

 そう問いかけたのは、リンド。

 彼女は「そうね」と頷いた。

「答えはイエスよ。私にもボスは居るけど、名義的にも心情的にも、研究所ここのボスは私ね」

「っていうかリンド。お前この間会ったじゃん」

「FHの人間だとは聞いたけどな。確認してみただけだ」

「なるほど?」

 そんな司の言葉をさらりと流して、リンドは彼女へと向き直った。

「お前がボスなら話は早い。昨日、ここに少年が連れて来られなかったか?」

 少年、と末利は小さく繰り返して「ああ」と頷いた。

「夕べ確かに、運ばれてきたわね」

 それが? と彼女は視線で問う。

「その少年を返してもらいたい」

「それは出来ない、と言ったら?」

「――力尽くでイエスと答えさせるようにする」

 じり、とリンドが身構えると、辺りが少しだけひやりとした。

 末利はその様子に何をする訳でもなく、ただ視線を外した。

「ま、そうなるわよね。……それで、他の人達もみんな同じ用件なのかしら?」

「俺は別件だな」

 と、司が壁に寄りかかりながらひらひらと挙手する。

「俺はとりあえず、ここで起きる事を処理する。それが今回の用件のようだし――俺の仕事、だろ?」

「あたしは赤い結晶に憑かれた人間に用があるだけよ」

 ここに居るかどうかはしらないけど、と答えたのはみあ。

 答えた彼らにそう、と頷いた視線が、霧緒の方を向いた。

「と、言う事はあなたが独房希望者?」

 どきり、とした。

 やっぱりここで頷いたら直行なんだろうか、なんてよぎる。

 だけど、そんなの覚悟しないできた訳ではない。

「ええ、そうです」

「そう。物好きね……それで、その物好きさんはどうしてここへ?」

「あ、その……探している人がここに居ると、聞いて……」

 探してる人、と末利は小さく繰り返す。

「それはどなた?」

「えっと、水原和樹、という男性、なのですが」

 ご存知ですか、と聞く前に何か思い当たったらしい。「ああ」と小さな声が漏れた。

「あの人。それなら少し待ってなさい。今、問い合わせて――」

「その必要はない」

 そんな言葉と共に、横のドアが開く音がした。


 現れた人影は二人。

「――おや。“ディアボロス”」

 いらっしゃったんですね、と司の声がした。

 彼が呼ぶ通り、一人は春日恭二。

 そしてもう一人。悄然とした顔のまま、引きずられるようについてきた男は。


「水原さん……!」

 思わずその名を呼んだ。間違えるはずは、ない。

 だが、駆け寄る事は叶わない。二人の間に立つ春日にその道を遮られている。

 見える限り元気はなくぐったりしているが。外傷はなさそうだ。

 それだけは、少し、安心する。

 春日はその様子に気が付いたのか、にやついた顔で水原の腕を引き「ほら」と前へ押し出す。

 その力に流されるままたたらを踏んだ水原に、慌てて駆け寄って倒れそうになったのを支えた。

「水原さん、大丈夫、ですか……?」

 そっと声をかけると、彼の瞳がこちらを向いた。少し虚ろで元気はないが、きっと休めば良くなるだろう。そんな疲れきった目だ。

 こんな時なのに、少しだけ頬が熱くなり、奥歯に力がこもる。

「えと、ごめんなさい……その、巻き込んでしまって」

「いや」

 すまないね、と彼は目を逸らすようにそっと離れ、霧緒と向き合った。

「深堀君」

「はい……」

「あの、さ。君がここに来たのは、その、僕のため……なのかな?」

 聞かれた質問の意図を一瞬掴みかねて、ぱちりと彼を見上げ。頷く。

「え。ええ。そうです。水原さんを、探しに来たんです」

 そうか、と彼は少しだけ小さく息を吐いた。

「じゃあ、さ。今から僕が帰ろうと言ったら……君は一緒に、帰ってくれるかな?」

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