1話:犠牲が出ても亀の如く歩く
こんにちは、シキジです。
2章のご愛読ありがとうございます。
1章では驚いていただけたでしょうか?
これからも宜しくお願いします。
1章のあらすじ
木狩が目が覚めたところは、ホテルのような場所だった。12人に課せられたのは、「二人になるまでデスゲームをすること」だった。
木狩たちは地下から脱出しようとしたが、途中で無藤が死ぬ事件が起こる。
状況からみて複坂の犯行に思われたが、結果は、無藤の契約である
「参加者が一人も死なずに3日目を迎えること」
を破ったことによって死んだことが判明する。
木狩たちは不穏な空気を抱えながら新しく出た扉へ向かった。
…
扉の先には、2つの部屋に繋がる扉があった。俺は右側の扉へ向かった。
木狩「ここは…図書室?」
愛田「うわー、本がいっぱい…。ちょっとやだな…。」
梶野「いいじゃないっすか、自分は本好きっすよ。」
幕明「もしかしたら、何か手掛かりがあるかも…!」
木狩「確かに、手掛かりはあるかもしれないが…この本の量はな…。」
梶野「毎日少しづつ消化していけばいいっすよ。」
愛田「そうだね…うん。」
幕明「愛田さん、もしかして逃げようとしてないよね。」
愛田「えっ、そ、そんなことは…。」
木狩(良かった。どうやら思ったより沈んだ空気じゃないみたいだ。)
梶野「あっ、あそこの大きな金庫には何も入ってなかったっす。」
木狩「金庫?」
梶野が指差したところには大きな金庫があった。
愛田「わー、ほんとに大きな金庫だね!」
幕明「ここには、本と金庫くらいしかないね。」
梶野「自分たちはここで本を読んでるっす。先に行ってていいっすよ。」
愛田「えっ、それって…。」
幕明「うん、愛田さんもだよ。」
木狩「そうか、じゃあ俺は。」
愛田の救いを求める眼差しを見なかったことにしてここを出た。
…
左側の部屋から声が聞こえてきた。
五月雨「…なんであんなことを?」
五月雨の声には僅かに怒気が含まれていた。その相手は…
複坂「だーかーら!ゲームを少しでも面白く出来たらなーって、思っただけなの!」
複坂だった。俺は、その部屋に入ることにした。
宝井「ああ、木狩さん。私にはもうどうすることも…。」
木狩「…正直参ったな。ここの探索もしたいのに。」
五月雨「…木狩くん。」
俺は小声で五月雨に言った。
木狩「五月雨、お前の気持ちは分かる。だけど、まともに話し合って分かる相手じゃない。」
五月雨「じゃあどうすれば…」
木狩「…《《こういうやつ》》だって考えるんだ。」
五月雨「…分かったよ。」
五月雨は怒りを抑えて妥協した。
五月雨「…ごめん。」
複坂「ふふっ、分かってくれた?僕は何も悪くないんだ。」
木狩「…。」
そのあと聞き取れないような小さい声で、
複坂『《《意味のない悪》》こそ本当に悪いんだよ。』
と、言った気がした。
…ここは特に何もないところだ。
木狩(おかしいな。ゲームマスターのことだから何か仕掛けがあると思ったんだが。)
と思ったのだが、
宝井「ここにスイッチがありますよ。…不気味ですね。」
木狩「本当だ。」
ポチッ
俺は迷わず押した。
宝井「えっ、そんな、何も躊躇なく!?」
木狩「…ここでゲームが行われるとは思わないしな。行われるとしたら地下だ。」
その時、
ギィー…ガタン
と、機械音がなって机が床から出た。
複坂「うわー!面白いね♪」
五月雨「机の上に何か乗っているね。」
五月雨の言うとおり、机の上には何かの部品が乗っていた。
複坂「これ、USBメモリだね♪」
宝井「USBメモリといいますが、パソコンなどが必要なのでは?」
俺が気になったのはUSBメモリだけでなく、机の下に置かれている紙だ。その紙には、
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これを取ると誰かが死ぬ。
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と、書いてあった。
木狩「それは取っちゃ駄目だ。」
紙のことを教えつつ、そう言った。
五月雨「誰かが死ぬ…か。」
宝井「とりあえずここは放置しておきましょう。このことを他の人に言わなければ。」
複坂「危ない危ない。もう少しで《《僕のパソコン》》を使うところだったよ。…あっ。」
木狩「お前のパソコン?」
複坂「えーと…うん、器具室の部品で作ったんだ。」
五月雨「なんだって!?」
複坂「だけどもちろん質も悪いし、外とも繋がらなかったよ。」
宝井「よく作れましたね。」
複坂「部品が揃っていたからね♪…むしろゲームマスターはこのために作って欲しかったのかも。」
木狩「また、ゲームマスターの手のひらの上か…。」
五月雨「まあ、とりあえずこのUSBメモリには触らないこと。いい?」
複坂「そんな念を押さなくても取らないよ♪」
俺は部屋を出た。
…
城松「あっ、木狩。ちょうど良かったわ。ご飯出来たで。」
木狩「そうか。じゃあ、食堂に向かっている。」
最上「今回は私も手伝ったぞ。存分に味わうといい。」
木狩「ああ…そうするよ。」
木狩(そういえば、最上は探索していなかったな。…複坂のことで思うことがあるんだろうか。)
俺は食堂へ向かった。
最上がどこを手伝ったか分からないが、ご飯はおいしいな。
…ご飯を食べてるときに、
愛田「あの本難しかったね。」
梶野「まあ、無理もないっすよ。あれ、ブラジル語っすし。」
幕明「梶野さんよく読めたよね。」
梶野「まあ…海外旅行によく行ってるっすしね。」
愛田「へー、いいなー。私はいつも田舎暮らしだよ。」
と、3人が話していた。
木狩(図書室にいる間、随分と仲良くなったな。)
これは他の人も思っていた。
宝井「3人とも仲良くなっていますね。」
幕明「うん、友達になれて嬉しいよ。」
と、その時五月雨が、
五月雨「楽しい会話の最中ごめんね。みんな、地下室に行ってみない?」
木狩「そういえば、11人が揃うと開く扉があったな。扉は開いているが…」
五月雨「…今の僕達は一くんを除いて10人だ。」
黒山「でも、扉が開いているなら行けるんじゃないのか?」
城松「そうとも限らへん。11人で行けるなら、11人でクリアできるゲームかもしれへん。」
五月雨「だけどさっき見てきたら、扉の看板が10人に変更されていたよ。」
複坂「じゃあ、10人でもクリアできるってことだね♪」
最上「…。」
宝井「そうですね。ではご飯が終わった次第、地下室に向かいましょう。」
城松「今回の片付けは早く終わりそうやで。ご飯終わったら少し待っててな。」
俺たちはご飯を食べ終わった。少し待ってる間、
木狩「そういえば黒山さんはご飯の前、どこにいたんだ?」
黒山「ワシは、一を個室まで送り届けたんじゃ。そのときに会話しようと思ったんじゃが、無理じゃった。」
五月雨「彼の正体はなんだろうね…?」
と、その時
城松「待たせたな。じゃあ行くとしよか。」
木狩「あっ、ああ。」
俺たちは地下室へ向かった。
…
俺たちが地下室に着いたときに見慣れないものがあった。それは扉だった。
梶野「これはなんすかね?」
ゲームマスター「ご説明しましょう。」
複坂「わっ!ビックリしたー…。」
急にモニターがついて、ゲームマスターは言った。
ゲームマスター「それは、まだクリアしていない所の手前へと運んでくれる、いわば《《ワープの扉》》です。」
五月雨「ワープ!?…そんなものが。」
木狩(…ワープの扉といい、死角のない監視カメラといい…。やはり現実だとは思えないな。)
宝井「と、とりあえず行ってみましょう。」
幕明「…そうだね、ゲームマスターから危害は加えないだろうし。」
黒山「…じゃあ、ワシが最初に行く。」
愛田「え?」
黒山「ワシが最初に行って、安全かどうか見てくる。」
城松「おおー、かっこええなぁー。」
黒山「がはは!少しは男を見せないとのう!」
と言って、黒山は扉の中へ入っていった。
五月雨「あはは…勇ましいというか、なんというか。」
ちょっとして、黒山が戻ってきた。
黒山「確かに通じておった。大丈夫じゃ。」
愛田「そっか、それなら安心だね。」
と、愛田は入っていった。そのとき、
愛田「うわぁー!!」
と、聞こえた。
木狩「なっ…!」
幕明「黒山さん、本当に安全だったの!?」
複坂「黒山さんもやり手だね♪」
黒山「そ、そんなはずは…。」
最上「とりあえず行くぞ!」
と、一同は急いで扉へ向かった。
…
五月雨「どうしたの!?」
愛田「すごい!本当に繋がってた!」
思わず、ギャグマンガのようにずっこけそうになった。
城松「ま、まぎらわしいなぁ…。」
梶野「でも、安心したっす。」
複坂「ワープかぁ…。」
宝井「複坂さん?」
複坂「…ワープなんて、ロマンだよね!」
木狩「…。」
黒山「ま、まあとりあえず扉へ行こうかのう?」
最上「でも扉が閉まってるぞ。」
俺は、地下室の扉の上の看板を見た。
木狩(前は11人で開いた。しかし、看板には10人と書いている。)
急に、
ゴゴゴゴ…
と扉が開いた。
愛田「…開いたね。」
幕明「じゃあ、行こうか。」
と、その場にいる全員は扉へ向かった。
扉を開けて最初の印象は、「大きな動物園」だった。
愛田「動物さんがたくさんだぁー!」
宝井「動物…ですか。」
梶野「宝井さんは動物苦手なんすか?」
宝井「そ、そこまで動物とふれ合ったことが無いもので…。」
幕明「…。」
梶野「…幕明さんはハトに夢中っすね。」
愛田「…だね。」
複坂「動物かー♪ねっ、一緒に見に行こうよ。」
最上「…いや、先客がいるんだ。」
複坂「えー、つまんないのー。」
城松「ウチは動物を見てると心が痛くて痛くて…。」
黒山「料理には命がたくさんあるからのう。」
五月雨「み、みんな…何か仕掛けがあるかもしれないよ。」
木狩「それに、ここは地下室だ。命に関わる危険性も…。」
突然、モニターがついた。
ゲームマスター「皆様、これよりゲームを始めます。まずは、皆様の携帯にメールを送信させていただきました。」
俺は急いで確認すると、
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To:木狩 秀輝
From:ゲームマスター
木狩様は《《ゾウ》》です。
送.14:46
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木狩(…ん?)
ゲームマスター「そのメールには、動物の名前があります。これからその動物のいる所の檻や柵の中に入って、その動物の名が書かれているカードを拾っていただきます。」
木狩(なるほど。つまりはゾウを気にせずにカードを拾えるか、ってことか。)
ゲームマスター「それでは、ゲームスタートです。」
木狩(まずはみんなと集合しよう。)
俺は他の人を探した。
…
五月雨「あっ、木狩くん。」
木狩「案外集まる人が多いな。」
愛田「これからどうしよう?」
梶野「とりあえず、団体で動いた方がいいっすね。」
幕明「そうだね、そうしよう。」
宝井「良いですね。」
複坂「じゃあ、行こうか♪」
木狩「じゃあ、最初は俺でいいか?」
梶野「木狩さんは何の動物担当っすか?」
木狩「俺はゾウだった。」
複坂「ゾウかぁ…。踏まれないようにね♪」
木狩「…。」
俺は、ゾウの檻へ向かった。
…いざ入ってみると迫力がすさまじかった。
愛田「木狩くん、頑張って!」
木狩「…。」
緊張感、焦燥感、恐怖感など、様々な気持ちが入り交じる。
木狩(…怖い。)
心の中からそう思った。
一歩踏み出すと、ゾウが反応する。ドシドシと音が聞こえそうだった。
辺りを見渡すも、カードらしきものはなかった。
木狩「一体どこに…?」
五月雨「木狩くん!」
と、五月雨の声が聞こえた。
五月雨「もしかして、これじゃないかな?」
木狩(そうか。檻は円形状だから外から探してもらえばいいのか。)
俺はゆっくりと動いた。幸いにもゾウは、そこまで暴れることはなく、無事にカードを拾うことができた。
木狩「と、とれた…。」
梶野「お疲れ様っす。」
五月雨「木狩くんはすごいね。…僕も頑張らないと。」
愛田「じゃあ、次は私が行くね。」
幕明「愛田ちゃんは何の動物?」
愛田「私は羊さんだよ!」
宝井「羊ですか?」
五月雨「じゃあ安全だね。」
愛田「安全じゃないよ?羊さんは案外凶暴なんだよ。」
複坂「へー、そうなんだ♪」
木狩「じゃあ、気をつけてのほうが正しいな。」
愛田「うん、頑張るよ。」
と、愛田は羊の檻へ向かった。
梶野「…え?」
愛田「ん?」
幕明「愛田ちゃん、早くない?」
愛田「そんなことないよー。」
それは驚きの出来事だった。
まず、愛田が檻へ入る。次に羊が来るも頭を撫でたりしながら上手くかわす。カードを取ったら同じようにかわして檻を出た。
まさに流れ作業だった。
五月雨「…愛田さんは動物からとても好かれているね。」
木狩「農作業が得意だと、動物からの好感度も違うんだな。」
複坂「はいはーい!次は僕が行きたいなー♪」
五月雨「複坂くんは何の動物?」
複坂「ライオンだよ!」
宝井「ライオンですか!?」
愛田「…大丈夫なの?」
複坂「うん、平気だよ♪」
と言って、複坂はライオンの檻へ向かった。
複坂が檻へ入ると同時にライオンも複坂の方を向いた。
ただ、カードは比較的分かりやすい位置にあったのが幸いだったかもしれない。
複坂「よーし、行くよー♪」
と、複坂が動いた。そして次の瞬間、ライオンも向かってきた。
五月雨「危ない!」
しかし、複坂はライオンの突進をかわしながら鼻に向かってパンチをした。
すると、ライオンは痛かったのか襲うのをやめた。その隙に複坂はカードを取ってきた。
複坂「どう?すごいでしょ♪」
愛田「すごい…。」
幕明「今の身のこなし、普通に過ごしてても身につかないよね?」
複坂「僕はよく警察とかに追われるからね、こういう技術も身につけないと♪」
でも今のってまるで…
木狩「警察みたいだな…。」
複坂「…。」
その後も五月雨はシカを、宝井はクジャクを担当して無事にカードを拾えた。そして、
幕明「よしよし、おとなしくしててよ。」
梶野「まさか幕明さんの動物が大好きなハトとは…。」
五月雨「まさに運があるね。」
難なくカードを取った。
梶野「最後は自分っすね。」
木狩「何の動物だ?」
梶野「ブタっすね。」
愛田「ブタさんかー、頑張って!」
梶野「がんばるっすよ。」
と、梶野は檻へ向かった。
五月雨「…すごいね。」
木狩「…ああ。」
梶野はブタを片手で運びながらカードを探した。片手で持つなんて、俺でさえ出来ないかもしれない。
見事カードを拾って戻ってきた。
愛田「すごい力だね…。」
梶野「あはは、実は少しだけ鍛えたんっすよ。」
幕明「それでもすごいよ。」
五月雨「…他の人を見てこよう。」
木狩「ああ。」
俺たちは他の人を探した。
…
城松「あっ、来たな。」
黒山「みんな無事のようじゃのう!」
最上「良かった。」
城松はカエルの、黒山はクマの、最上はサルのカードを見せた。
五月雨「これで全員だね。」
ゲームマスター「おめでとうございます。全員分のカードが集まったため、次のゲームへの扉が開かれます。」
城松「なあ、そろそろご飯の時間や。今日はご飯食べたら自由行動にしよか。」
五月雨「そうだね。じゃあひとまず戻ろう。」
俺たちはワープできる扉へ向かって食堂へ向かった。
食堂でご飯を待っているとき、幕明が
幕明「ねえ、これ見て。」
と、ご飯を準備している城松と最上以外の全員に呼び掛けるように言った。
五月雨「どうしたの?」
幕明は服から、ハトを取り出した。
愛田「それって、さっきの?」
幕明「うん。ルールでは持ってっちゃいけないなんて言ってなかったからね。」
ハトはどうやら幕明になついてるみたいだ。
幕明「出してあげようって思ってね。」
宝井「いいと思いますよ。」
城松「ご飯できたでー!」
俺たちは雑談を交えながらご飯を食べた。
…ここからは自由行動か。
木狩(探索もいいが、少し疲れたな。)
俺は個室に戻って就寝した。
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ゲームマスター「…用とはなんですか?」
???「提案があってね。」
ゲームマスター「提案?」
???「もっとこのゲームを面白くしようよ。」
ゲームマスター「…。」
???「黙ることないじゃん。それに、《《僕》》はこのゲームの真相を知ってる唯一の存在なんだからさ。」
ゲームマスター「…提案の詳細を。」
???「ふふっ、そう来なくっちゃ。」
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