6話:その少年はまるで、神をも欺く儚い天使だった。
前回のあらすじ
シュウキたちはこの事件を推理した。
前回で推理したこと
・サイトの契約は《血を出す、流すことの禁止》
・サイトの目的はゲームマスターを自分たちと同等にするため
・停電は遅延型の電子ウイルスで起こったこと
・サイトの死亡時刻は午後1時半くらい
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シュウキが獲得した証拠
《頭の流血》
サイトは頭から血を流していた。
《自殺》
自殺の可能性が高いかもしれない。
《メモの裏》
暗号のようなものが書かれていた。
(てんとさらをやまやます)
《食堂のグラス》
食堂のグラスが割れた状態で見つかった。
《2本の帯》
2本の帯が糸で合わせられていた。
《マイク》
グラスの破片の近くにマイクがあった。
《停電》
事件の前、急に停電が発生した。原因は不明。
《3つの封筒:1つ目》
サイトの個室にあった、3つの封筒のうち、「審議の前に読むこと」という封筒。
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シュウキ「次はルールについて話してみるか。」
ランコ「ゲームマスターさんは何か分かるのでしょうか?」
ゲームマスター「何と言えばよいか分かりかねます…。」
シュウキ(何と言えば…?)
トオ「じゃあ…ゲームマスターはどうして今回の審議の報酬を変えたの?」
シュウキ(確かに。この審議の報酬である、直接交渉権はゲームマスターにとって確実に不利になるものだ。それをなぜ積極的に取り入れたんだ?)
ゲームマスター「…《私の契約上》と言っておきましょう。」
ヒカリ「ゲームマスターの契約って、確かルールを破ることだよね?」
ランコ「普段通りのルールでしたらそのままで良かったはずですが…。」
シュウキ「…!」
トオ「…シュウキは分かったんだね?」
シュウキ「…ああ。なぜわざわざサイトが午前中にルール消去、午後中にルール復元といったような分け方をしたのか、今やっと理解した。」
ヒカリ「…それって一体?」
シュウキ「…サイトは、ルールを消去していない。《ルールを復元しただけ》だ。」
ヒカリ「つまり今はルールが2種類混ざってるってこと!?」
ランコ「それに、いくらなんでもそれは無理じゃないでしょうか?《午前が終わっていないのに、午後にできる作業をする》だなんて。」
トオ「…なるほど!」
ヒカリ「トオくんもわかったの?」
シュウキ「…サイトがルールを復元したタイミングは…《正午》だ!」
ランコ「…正午?」
トオ「正午は、午前12時であり、午後0時…つまり、正午は《午前であり、午後でも》あるんだ。」
シュウキ「サイトは正午にルールを復元してその直後に飛び降りたんだ。」
ヒカリ『それはおかしいよ!』
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【対議開始】
ヒカリ「シュウキくん、わたしがどうしておかしいと思うか分かる?」
シュウキ「…サイトの死亡時刻のことか?」
ヒカリ「うん。確か、サイトくんの死亡時刻はグラスが割れた午後1時半だったよね?もし正午に死んだならどうやってグラスを割ったの?」
トオ『助言、いいかな?』
トオ「サイトくんはとても頭の切れる人だ。…多分、何か《仕掛け》を使ったんじゃないかな?」
シュウキ『その言葉、使わせてもらう。』
【対議終了】
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シュウキ「…多分、サイトは何かの仕掛けを使い、俺達に死亡時刻を誤解させたんだ。」
ランコ「その…仕掛けというのは?」
シュウキ「…。」
ヒカリ「シュウキくん?」
シュウキ「すまない、分からないんだ。」
トオ「シュウキくんにも分からない仕掛け?」
シュウキ「もし今見ることができれば推理のしようが…あっ!」
トオ「どうしたの?」
証拠8,《3つの封筒:1つ目》を使用。
シュウキ(サイトの手紙には出歩きも可能と書いてあった。ということは…。)
シュウキ「ゲームマスター、実際にグラスのあるところに行ってもいいか?」
ゲームマスター「…構いません。」
ヒカリ「やった!じゃあ見に行こうよ!」
俺達はグラスのあるところに向かった。
…
ランコ「どこかにサイトさんの仕掛けがあるのですか?」
シュウキ「恐らくな。」
グラスは帯のすぐ隣で割れていた。…これが意味することは?
トオ「シュウキくん、棚の上にあるあのミシンが気になるんだ。」
シュウキ「…あれか?」
あのミシンは俺が少し気がかりだったものだ。なぜあんなところにあるのだろうか、と。
ヒカリ「近くの椅子持ってきたよ!」
俺はその椅子を登ってミシンを取ろうとした。
シュウキ「このミシン、《ゆっくり動いている》な。」
ランコ「つまり、どこかのコンセントに接続され続けているということでしょうか?」
後ろの方にコンセントがあり、プラグがささりっぱなしだったようだ。俺は一旦外して下へ持ってきた。
シュウキ「《テープでミシンのペダルが固定されている》な。」
トオ「だからずっと動いていたんだね。…でも、これが仕掛けとどう関係あるんだろう?」
シュウキ「…まさか、この帯が関係しているのかもな。」
ランコ「私には到底知り得ないことですが、考えてみましょうか。」
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【膨議開始】
ランコ[帯が完全に縫われていないですね。自動的に縫われたのでしょうか?]
ヒカリ[ここ、よーく見たらさ…。]
トオ[どうしてミシンがゆっくり動いてたんだろうね。]
シュウキ(まずは、ランコさんの話を聞こう。)
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ランコ「ペダルも固定されていましたし、《サイトさんが直接縫ったわけでは無さそう》ですね。」
シュウキ「確かにそうだな。だが、間接的に縫ったとしてもどうやって仕掛けを…?」
ランコ「すみません。さすがにそこまでは…。」
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シュウキ(次はヒカリだ。)
ヒカリ「このグラスの破片、《帯とくっついて離れない》よ!」
シュウキ「グラスは割れる前、帯にくっついていたということか。」
ヒカリ「多分そうだよ!」
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シュウキ(最後にトオだ。)
トオ「僕たちが見つけるまでずっとゆっくり動いてたね。《速く動いたらダメ》だったのかな?」
シュウキ「ゆっくりか…メリットはなんだろうな。」
トオ「うーん。他の意見とも合わせたら分かるかもね。」
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シュウキ『答えはそこだ。』
【膨議終了】
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シュウキ「…仕掛けの全貌がわかった気がするぞ。」
ヒカリ「ほんとに!?どんな仕掛けなの?」
シュウキ「棚の上のミシンで《グラスをテープでつけた帯》を《自動的に、ゆっくり縫って》、帯とグラスを棚の上から落としたんだ。そして、グラスは落下によって割れて、マイクがその音を拾ったんだ。」
トオ「落とした?でもどうやって?」
シュウキ「衣類をミシンで縫っているときは縫い糸があるため、離れることができない。だが、縫い糸がなくなった瞬間に、ミシンと衣類は離れることができる。」
ランコ「えっと…つまり、縫い糸が無くなるまで仕掛けは作動せず、なくなった瞬間に作動する《時限式の仕掛け》になっていたということですか?」
シュウキ「ああ。ゲームマスターもそれで合っていると思うか?」
ゲームマスター「私はその一部始終を見ていましたので。…合っています。」
トオ「ゆっくり縫った理由は、《なるべく僕たちに時間的な混乱を招くため》だったんだね。」
グラスの音があったから、そのときまでサイトは生きていたと錯覚させられていた。…死亡時刻を隠したかったからか。
シュウキ「…ん?これはなんだ?」
俺はミシンに挟まっているメモを見つけた。
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僕の願いは《4人》でゲームマスターに勝って欲しいこと。
…僕の意思は固いからね♪
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ヒカリ「4人でゲームマスターに勝つ…か。」
俺達はメモを持って現場へと戻った。
…
シュウキ「次に死因についてだが…ここが一番の難点だな。」
ヒカリ「結局、わたしたちはサイトくんの死因を特定しないといけないんだね…。」
ゲームマスター「私も今回の事件の中で唯一分からなかったことです。」
シュウキ「サイトの頭が打ち付けられて死んだのが先か、頭が打ち付けられて血が流れて契約が破られたのが先か…。」
トオ「僕たちはこういうのには長けてないし、長けてたとしてもどっちか決めるのは無理だと思う…。」
ランコ「一体どうやって証明すれば…?」
シュウキ「そういえば、このメモには4人でって…俺達が生きている前提だが、《俺達にも確実に分かるような死因の特定方法がある》ってことか?」
ヒカリ「しかも、ゲームマスターにも分からないようにだよ!?」
トオ「そんなことが可能なのかな?」
シュウキ「…。」
俺はサイトの死体を少し調べた。
シュウキ「誰か、サイトの死体を調べたか?」
…。
誰も調べてないみたいだ。
シュウキ「何か手がかりがあるはず…ゲームマスターに隠れるところが…。」
トオ「…そういえば、サイトくんはいつも《手袋をしている》よね。もしかしたら…。」
俺はふとサイトの手袋の中を見た。そのとき、俺は少し笑みをこぼした。…失笑ではなく、《勝ちを確信した笑み》だ。
シュウキ「ゲームマスター…俺達の勝ちだ。」
俺は、サイトの手袋から、《手縫い針》を見せて言った。
ゲームマスター「…それは!」
ヒカリ「針…?」
シュウキ「サイトは、《手袋の中で、針を使って血を流した》んだ!」
ゲームマスター『その推理、リセットです。』
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【対議開始】
ゲームマスター「本当に針が入っていたのですか?」
シュウキ「どういう意味だ?」
ゲームマスター「私を騙すために、木狩様が持ってきたものでは?」
シュウキ「なぜそう言える?」
ゲームマスター「私は皆様の行動を一つ一つ監視していました。複坂様が針を入れる行動など見ていません。」
証拠7,《停電》を使用。
シュウキ『その言葉、俺が解く。』
【対議終了】
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シュウキ「停電のときに監視カメラも、何もかも一時的にストップしたんじゃないのか?」
ゲームマスター「…。」
シュウキ「サイトは停電中に手袋に針を仕込んでいたとしたら?」
ランコ「それでしたら、ゲームマスターさんに気づかれることなどなかったのでしょうね。」
ヒカリ「そして停電が終わっても、手袋の中を透かして見ない限り、針なんて入れてるとは思わないよね。」
トオ「そして、ゲームマスターに悟られないように飛び降りて、落ちてる途中で針を刺したんだ。」
シュウキ「…どうだ?何か反論はあるか?」
ゲームマスター「…いえ。」
シュウキ「それじゃあこの事件を、改めてまとめてみよう。」
次回に続く…
(次回で5章完結)




