5話:考え、怒り、悩め。
前回のあらすじ
チュウゾウの死因についての審議が始まり、シュウキはサイトとの対議を終えた。
シュウキ「…俺はトオを信じる。」
サイト「…は? なに言ってんのさ。もし、トオくんが殺したとしたらどうすんの?まず、大前提として、契約で死んだ可能性は?」
トオ「…シュウキさん、さっきの推理、全部合ってる。」
シュウキ「そうか、ありがとう。」
サイト「待ってよ!トオくんが嘘をついてたらどうするのさ!?」
エマ「サイト。シュウキのほうが正しい。」
ヒカリ「わたしはシュウキくんと同じ意見だよ。」
メイカ「確かに、トオさんが嘘を言ってるかもしれないっす。だけど、チュウゾウさんは、トオさんを守ろうとしたんすよ。…そのトオさんがここで死ぬなんて酷すぎるっすよ。」
サイト「ここは理不尽なんて当然なんだよ!」
イクタ「僕は賛成だけど、でも一応チュウゾウさんの契約について推理してみよう。」
ランコ「そんなこと出来るのでしょうか?」
シュウキ「とりあえず、チュウゾウさんの行動について何か気になったことがあれば言ってくれ。」
【膨議開始】
ヒカリ[わたしはチュウゾウさんの性格についてだよ。]
イクタ[そうだね…トオくんとよく話してたけど、それかな?]
エマ[食事をつくるときだな。少し気になったことがある。]
シュウキ(まずは、ヒカリの話を聞こう。)
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ヒカリ「チュウゾウさんって筋肉すごいから、トレーニングとか好きなのかなって思ったけど、ここにきてから一回もトレーニングルームに行ってないんだよ。」
シュウキ「契約が筋トレの禁止…?」
ヒカリ「もしかして、《トレーニングが出来ない理由があった》のかな?」
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シュウキ(次はイクタだ。)
イクタ「僕が気になったのは、チュウゾウさんとトオくんの関係かな?契約ではないかもしれないけどさ。」
シュウキ「無理やり契約にするなら、トオから嫌われることの禁止か?」
イクタ「さすがに無さそうだから、あまり関係なかったかも。」
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シュウキ(最後にエマだ。)
エマ「食事をつくるときにチュウゾウさんが変わってると思ったんだ。というのも、チュウゾウさんに手伝ってもらったときがあったんだが、《包丁を摘んで持っていた》というかなんというか…。」
シュウキ「契約にするなら、手のひらにものが付くことの禁止か?」
エマ「だが、手を開いて腕立て伏せをしているのを見たぞ。《床に手のひらが付いているなら契約が破られる》んじゃないか?」
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シュウキ『答えはそこだ。』
【膨議終了】
シュウキ「ヒカリとエマの話で分かった。多分チュウゾウさんは、《物を手のひらで掴んで持つことの禁止》だと思う。」
ヒカリ「えっ、なんでそう思うの?」
シュウキ「まずエマの話は、包丁を摘んで持ったということ。次にヒカリの話は、トレーニングが出来ない理由があるということだったな。」
エマ「そうか!包丁を持ったり、トレーニングが出来なかったのは、《包丁とかダンベルとかを手のひらで持てなかったから》なのか?」
シュウキ「多分な。そして、契約をそう仮定すると…。」
ランコ「契約では死んでないということになりますね。」
サイト「待ってよ、どうしてさ。」
メイカ「サイトさんも、本当は分かってるはずっすよね?」
サイト「…。」
イクタ「一応言うと、チュウゾウさんは手を使って、そして全身で棚を支えてたんだよね?《物を手のひらで掴むなんて出来たはずがない》よね。」
ヒカリ「じゃあ、チュウゾウさんは契約以外で…。そして、トオくんを犠牲にしなくてもいいね。」
サイト「待ってよ。なんでトオくんが犠牲にならなくてもいいのさ!ルールを忘れたの!?」
エマ「さっきからルールを忘れてるのはお前だ。契約以外で死んだ場合、その犯人を犠牲にするのが《普通》だ。だが、その犠牲が犯人じゃなくてもクリアになる。」
メイカ「つまり、極端に言えば犠牲は犯人かどうかを問わず、誰でもいいってことっすね。」
サイト「そ、そんなのおかしいじゃん…。じゃあ、トオくん以外に誰が死ぬのさ。」
少しの静けさの後、口を開いたのは…
エマ「…わたしが犠牲になろう。」
エマだった。
…
ランコ「…え?」
イクタ「…。」
そして、
トオ「…やだよ。なんで、僕なんかにここまで命をなげうつのさ!どいつもこいつも、なんで僕なんかを大事にするのさ!!」
サイト「トオくんと同じ意見だ!どうしてエマさんが…それどころか全員!どうしてそこまでトオくんを庇うのさ!」
トオとサイトは怒りをあらわにして、責め立てた。
エマ「…わたしは、被害者の《最後の願い》を叶えたいんだ。チュウゾウさんは、トオに生きてほしいと願った。なら…」
サイト「被害者の最後の願いを叶えたい?バカ言うな!じゃあ、《あのときの被害者》の願いを叶えてみろよ!無理だろ!?」
シュウキ(あのとき?)
エマ「…チュウゾウさんが契約以外で死んだことが分かってるんだ。だから皆、協力してくれ。」
サイト「僕は…認めない…。」
トオ「やめて、もう…。」
ランコ「エマさんは本当にいいのですか?」
ヒカリ「死んじゃうの、怖くないの?」
エマ「…そりゃ、怖いさ。でもな、トオには生きててほしい。誰かが無意味に犠牲になることは耐えられないんだ。だから、皆に希望を託すぞ。」
イクタ「…シュウキくん。終わらせよう。」
シュウキ「…ああ。」
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木狩「ゲームマスター、この事件はチュウゾウさんがトオを庇ったことによる事故だ。これが、俺たちの結論だ…。」
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ゲームマスター「…またまたご名答です。その通りでございます。では、引き続き、犠牲者の討論を…」
エマ「必要ない。わたしが行く。」
サイトもトオも、もう何も言わなかった。それどころか、全員にもうエマに言えることはなかった。
ゲームマスター「承知いたしました。では、最上様を犠牲者とします。」
エマ「確か、権利が与えられるんだな?」
ゲームマスター「はい。何なりと。」
エマ「…ナイフをくれ。」
ゲームマスター「了解しました。」
俺たちは、エマとゲームマスターのやりとりを聞くことしか出来なかった。ただ、独り言が聞こえた。
ヒカリ「…こんなの、あんまりだよ。」
サイト「…くそ!」
少しして、天井からナイフが落ちてきた。エマはそれを取ると、トオに近づいた。
トオ「…え?」
ランコ「え、エマさん!?」
エマ「…トオ、ごめんな。辛かったよな。死にたかったよな。」
イクタ「エマさん、いったい何を…?」
エマ「でも、自分が死ぬことがチュウゾウさんへの恩返しなんて思うな。お前ができる恩返しは《庇ってくれたから、本当に、必死に生きること》だ。」
トオ「…!」
エマ「それを、この傷を見るたびに思い出してくれ。」
エマは、ナイフでトオの左手の甲を切った。
トオ「っ!」
そのあと、エマは静かに倒れた。
ゲームマスター「最上様の契約、《人を傷つけることの禁止》が破られました。そして、新しい部屋を解錠しました。」
と、言い残してモニターは消えた。
トオ「…。」
トオはひたすら何かを考えるような表情で、
サイト「…。」
サイトはやり場のない怒りを込めた表情で、
残りはこれでよかったのかと悩む表情で、
エマの勇敢な姿を見ていた。
こんにちは、シキジです。
ここまでのご愛読、本当にありがとうございます。
この3章は賛否両論ありそうですが、それでも、飽きずに見て頂けるとありがたいです。
4章はより不気味にいきたいと思います。
これからも、シキジを宜しくお願いします。




