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記憶の欠片を辿って  作者: 赤白 青
9/15

見守るだけさ


聖恵たちの元を去った後、2人は少し離れた聖恵が見える高層ビルの屋上にいた。

「で、どうなってるのか話してくれるのよね?愛奈のこと。なんで私のこと忘れてるのよ。」

紅葉が腕を組み、影芝を見る。

「愛奈は記憶を失って、今は桜井聖恵って名前で生活している。だから紅葉が思い出せなかったんだよ。」

屋上のフェンスに持たれかかりながら空を眺める。

「それって記憶喪失ってこと?」

「そういうことだ。昔の事を全部忘れちまってる。俺や翔のことも、自分が誰なのかも含めてな。」

「そんな···いつからなの?」

「2年前だ。それまでの15年間の記憶を忘れちまってるよ。」

「そんな···記憶が無くなるなんて。ってことはあの子は、なんでこの世界に居るのかも、自分の親の事も覚えてないってこと?」

「そういうことだな。」

紅葉は屋上からまだベンチに横になっている聖恵を見下ろす。

「何が原因で愛奈は記憶を失ったの?あんたの目と腕が関係あるんでしょ?」

痛いとこを突かれたように苦笑いをして空を見上げ直す。

「さすがは紅葉だな。いい勘してるよ。けど、その事については答えたくねぇな。」

「それで私が納得すると思ってるの?」

「納得してもらうしかねぇな」

紅葉が影芝を睨み付ける。先ほど聖恵に話しかけてた時とは違い、もの凄い圧力を感じる。

その圧力に対して、動じることなく紅葉の目をじっと見る。

「はぁ、もうわかったわよ。これ以上聞かない。あんた頑固だから、どうせ答えないわね。」

「悪いな。」

紅葉は深いため息をつきながら、やれやれと首を振る。

「あんたはずっと前から愛奈を見てるんでしょ?なんで本当の記憶を教えてあげないのよ。」

「今度はそうきたか。愛奈にも言われたよ。昔の記憶を教えてくれって。けど、俺は何も教えない。必要なら自分で思い出すさ。今幸せなら昔のあの辛い過去なんて、無理に思い出す必要はないだろ。」

「確かにね。知らない方が幸せってこともあるわね。けど、私は聞かれたら教えるわよ、愛奈のこと。あの子が知りたいならあの子には知る権利がある」

「それはお前に任せるよ。好きにするといいさ。」

2人の間に少しの静寂が流れる。再び会話を切り出したのは紅葉だ。

「でっ、あんたはこれからどうするのよ?」

「どうするって、何も変わらないよ。これからも聖恵を見守り続けるだけだ。」

フェンス越しから聖恵を見ると、ベンチから起き上がりバスまでノノ花とダッシュしている。集合時間が迫っているようだ。

「あんたはそれでいいの?愛奈のこと好きだったんでしょ?」

「ああ、けど愛奈はもういない。今は桜井聖恵だ。だから愛奈が···イヤ、聖恵がこれから幸せな人生を送れるよう陰ながら見守るだけさ。」

雲1つない晴天を見上げ、どこか寂しそうな顔する影芝に、紅葉はこれ以上は何も言えなかった。本人の意思を尊重しようと思ったのだ。そして、また月日が経過したら同じことを聞いてみようと思ったのだ。答えが変わっているかもしれないから。

「そろそろ行くわ。久しぶりに会えて楽しかったよ。またな紅葉」

「ええ、私こそ。愛奈のことは驚いたけど、愛奈も貴方も元気そうで良かったわ。じゃあね♪」

そう告げると2人は別れ、それぞれの家に帰っていった。


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