全て忘れる
聖恵は家に帰るなりベッドに横たわりスマホをいじりながら、影芝のことを思い出そうとする。
しかし何も思い出せない自分に次第に苛立ちが増していく。
「もう、なんで思い出せないのよ!」
枕を壁に投げつけてしまう。
「ああ~もう、最悪」
部屋だと落ち着かずイライラしてしまうので、気分転換に近くの公園へと向かう。
ブランコに座り深いため息をつく。
「ため息なんかついてどうしたの?」
顔を上げるとそこには左目に眼帯を着けて大きなヘッドホンをかけた影芝だった。
「ナンパならお断りです。」
聖恵は影芝を思い出すことが出来ず、まるで知らない人に話し掛けられたように冷たい態度で立ち去ろうとする。
「思い出せないんだろ?ならもういいんじゃねぇのか?」
聖恵は足をピタリと止める。まるで自分の心中を察したかのような言葉をかけられたからだ。
「思い出せなくてイライラしてるなら、俺が楽にしてやるよ。」
少し離れた聖恵に歩み寄ると頭に手を置く。聖恵は知らない人なのに知ってる感覚があり、体が動かない。
「あなた誰ですか?」
「俺は影芝。いや、海だ。お別れだ愛奈。お前と一緒に過ごした時間は最高に楽しかったよ。幸せになれよ。お前の苦しみは俺が取り除いてやる。」
聖恵の角度からは見えないが、影芝の目からは大粒の涙が流れていた。
「ちょ、ちょっと待って!」
知らない内に聖恵も涙を流す。そして、思い出せないけれど、忘れてしまってはダメだと本能的に影芝に止めるよう言う。
「これで、終わりだ。愛奈に涙は似合わないよ。」
「止めてーーー」
「略奪」
聖恵は意識がだんだん遠くなり、気を失ってしまう。
「ここは····私の部屋?」
目を覚ますといつもの部屋の天井が見える。腰を起こして周りを見渡すと勉強に使う机の上には、いつものようにアクセサリーが散らかっている。
「私いったいなにしてたんだろ?」
ブーブー
スマホが光誰かから連絡が来たようなので、開くと翔から週末デートのお誘いだった。喜んで飛び起きて、ノノ花に連絡して、買い物の三段を着ける。
嬉しそうな笑顔で部屋を走り回る聖恵を窓から1枚の紅葉の葉が除き混む。
「これでホントに良かったの?」
紅葉の葉は自分の影に話し掛ける。
「ああ。」
「愛奈の為に目と腕まで失ったのにお人好しね」
「いいんだよ。」
「そう」
紅葉の葉は風に煽られ飛んでいってしまう。
それからの聖恵は雲が晴れたかのように、悩むことなく、翔やノノ花と楽しく過ごした。しかし、この日より昔の記憶を思い出すことはなかった。




