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記憶の欠片を辿って  作者: 赤白 青
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眼帯ヘッドホン男


その日、桜井聖恵(さくらいきよえ)は最悪の気分だった。

朝から寝坊して学校に遅刻し、先生に怒られたり、急いで家を出たので昨日の夜気合いを入れて作ったお弁当を持ってき忘れたり、遅刻したのがバレて親に怒られたり、好きでもない人に告白され、断った事でその人のファンみたいな人に恨まれたりとまるで、今年1年の厄が一気に来た感じで散々であった。

なので、家でじっとしてる気になれず辛くて公園のブランコに座り泣いていた。

「そんなに泣いてちゃ、可愛い顔が台無しだよ。」

優しく声をかけてくれたのは、左目に眼帯を付けて、大きなヘッドホンが印象的な変な男性であった。

「ナンパならお断りです。」

聖恵は変な人が寄ってきたと思い、直ぐに立ち上がると、そそくさと歩きだした。

愛奈(まな)、そんな下ばっか見てないでさ、笑いなよ。人生楽しいことばっかりじゃないけどさ、笑ってればきっとなんとかなるよ。」

背中から男性が言葉をかけてくる。その言葉は今の聖恵には火に油をそそぐ結果となる。

「気安く私の名前を呼ばないで、貴方に私の何が分かるって言うのよ!」

聖恵は振り向き、怒鳴るように男に叫ぶ。しかし、そこに男の姿は既になかった。

「えっ?」

聖恵は周囲を見渡す。しかし誰も見当たらない。公園には聖恵1人である。さっきのは一体なんだったのだろう?愛奈と眼帯ヘッドホン男に呼ばれ、私が呼ばれた気がした。けど名前違いだよね?私は愛奈じゃなくて、聖恵だもん。あの人きっと適当に言っただけだよね。といろんな考えが頭の中で飛び交うも、結局の所わからないので、少し怖くなり帰ることにした。


家に帰った聖恵は寝る前に少し今日の公園で出会た眼帯ヘッドホン男の事を考えていた。

泣いていた為、顔がはっきりと確認出来なかったが、なぜかその男からは全く恐怖を感じなかった。むしろ懐かしい感じがしたぐらいであった。

「あの人なんだったんだろう?この懐かしい感じ、もしかしてあの人は昔の私を知ってるのかな?」

聖恵は2年前に桜井家に拾われ、それ以前の15年間の記憶がない。拾われた時の聖恵は、ただボーッとしていたようで、記憶を取り戻すヒントになるとしたら、首に身に付けていた小さな南京錠のペンダントぐらいであった。最初は記憶が思い出せないことも怖かったが、生活にも慣れだして楽しい日々を過ごしていくうちに、記憶を無くしたことも些細なことだと思うようになり、気にしなくなっていた。

しかし、今日眼帯ヘッドホン男に出会ったことで再び自分の記憶について、昔の自分はどんな人だったのだろうと考え出した。


「まさかね、もう寝よう。今日は散々だったから明日はいい1日なりますように。おやすみ、私。」

直ぐにスースーと寝息をたてて眠りについた。


「ここは?」

聖恵は、薄いピンクの雲の上に寝てたようで、周りを見渡すと、薄いピンクの雲がたくさん浮かんでいる。

「とうとうこの部屋を見つけたのね。」

ピンクの雲に乗って、上から一人の女性が降りてきた。

女性の背丈や姿は聖恵とそっくりで、違うところといえば、顔を狐のお面で隠していることぐらいだ。

「ここはあなたの夢の中。そして、私は忘れてしまったあなたよ。」

「忘れてる私?」

狐のお面を付けた女性はコクりと頷く。

「あなたは2年前以前の記憶がないんでしょ?」

「なんでそれを?」

「だってあなたは私だもの。あなたのことなら何でも知ってるわよ。記憶無くした後のことも、そして無くす前のこともね。」

「お願い!知ってるなら私の昔の事を教えて。」

「教えるも何も、あなたの記憶は無くしてなんかいないのよ。この空間にずっと閉じ込められてるだけ。」

狐のお面を付けた女性は両手を広げて、周りを見渡す。

「ありゃゃ、もっとおしゃべりしてたいけど時間切れみたい。聖恵、私の名前はうーんうーん」

狐のお面の女性の身体全体が薄く透けだした。自分の名前を名乗ろうとしながらも、今考えている感じ、なかなか閃かないみたいである。

「·····愛奈」

聖恵はボソッと呟いた。なんとなく狐のお面の女性を見た時にそんな感じがしていたのだ。

「なるほどね。だからこの部屋を見つけられたんだ。私は愛奈。また会いましょうね、聖恵」

愛奈と呼ばれた事に、少し驚いたが何か納得したように、狐のお面の女性は笑顔で手を振って消えていった。

そして、聖恵は耳元からジリリリリっと大きな音が聞こえて、目をあけるといつもの自分の部屋の天井が見えた。目覚まし時計はいつも起きる時間を指していた。

身体を起こした聖恵は目を2、3回擦る。

「夢····かぁ。」


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