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苦手な方はご注意ください。

流星の彼方に

作者: 海馬幸願

昭和の時代 若者達のひと時の出会いをテーマに書き下ろし

(1)

シベリアから湾曲している列島へ向かい湿気を含んだ雲が北から覆いかぶさるように進んでいた。その雲は寒気を伴い南の暖気に道を阻まれ上昇気流となり雷雲を発生させる。季節の変わり目では良く起こりうる現象で雲の発達により急に雨が降ってくる。

橋脚との繋ぎ目にある櫛形の鉄の上を車が通る度にアスファルトとは違う金属音を発し其れはまるで眠気を誘うには好都合で断続的な音に聞こえた。


オレンジ色の街路灯に光り照らされた車体が白く光りそれは全体に筋となりフェンダーから赤と青で描かれた炎を強調させていた。丁度絵柄に被せるように男が煙草を加えて流れをボンヤリと眺め、時折手で煙草を取る仕草し佇む姿をオレンジ色に染めていた。男が着ているチェック柄のカントリシャツの赤が紫色に変化し白いスリムカットのGパンは淡く霞んで見えていた。


「ジロー、何黄昏している」と薄暗い車の中から健一が叫ぶ声にジローは目を細め煙草を路面にブーツで踏みつぶすと、黙って車内へ入り「少し寒いな」と呟いた。後ろではシートに体全体を斜めに預けて健一がポテトチップを食べる度に発する軽い音と香ばしい匂いが充満し、ジローはバックミラーで健一を睨みながら

「お前、まさか落としていないよな。シートで手を拭くなよ。お前必ず豚になるそのうちにな」と捨て台詞を吐くと、後ろの健一は袋に入れた手を止め「食いたいときに食って何が悪い」と一つまみチップをジローに放り投げた。其れはジローの顔をかすめてハンドルに当り床に砕け散り、ジローは後ろを振り返りながら健一を指差し「お前、明日は洗車係りしろよ俺様の」怒鳴り健一は素知らぬ顔を向け

「飲み物欲しい。喉に詰まった」と起き上がり胸を押さえながら咳き込んだ。

「お前本当の馬鹿だ」と諦めた様子に胸を押さえながら呼吸を整えた健一が

「高卒のお前に言われたくない、俺は大学生」と喉に詰まりかすれた声を上げ

ジローは呆れたように「三流の大学だろ。俺は自分の意志で自由を決めた」と視線を受け流した。

「ジロー本当に何か飲みたい。俺の喉はポテトに汚染させている」と当惑する顔をしながら

「パーキング迄我慢しろ」とジローは返答し、健一は苦しそうな顔で頷き再びシートに凭れ掛り、ジローはシフトレバーを1速にパーキングブレーキを解除しミラーで後続を確認しながらアクセルを踏み込んだ。図太い排気音と共に車体は後ろに押し出す力を得て勢いよく流れに乗り、ボディーに光る外灯の光が窓ガラスに飛ぶように流れ飛んで行った。


ジローはオートマチックのようにタコメーターの針が4000~5000回転の間を上下に踊り4速迄一気に駆け上げ、中央の車線に移る頃にはスピードメーターは一定になり、巡航速度で流しながらジローは窓から入る風と排気管から発する6気筒のサウンドに少し気分が晴れて行くのを感じ。

黙っていた健一が助手席のシートに手をあて前屈で「京一は何処で待っている」と騒ぐ声が気分を遮り、

不機嫌そうな声で「港北パーキング」と唐突に答え。

「今日は何人位来るかな。高校卒業してから会ってない、サブ、誠、元気かな」とヘッドレストに顔を押し付けた健一は誰に語るとも知れず呟いた。

「京一とサブは連絡取れたけど、誠は行方不明だ。女の所にでも転がりこんでいるだろうか」とジローが答えると「成程、ちげえねえ」と健一は含み笑いを浮かべた。


彼らは高校の同級生で集まってはあてもなくバイクを走らせて、親が海外赴任をしていた誠の家に集まっては朝まで飲んでいた事もあり、4人は活き盛んな年ごろを共に共有し3年間を過ごして来た。しかし、高校を卒業してからは各々別の進路へ進み1年3か月ぶりの再会が今日で其れは京一からジローへの1本の電話で決まった。京一は家の都合で大学進学が出来ず、バイトをしながらコンピューター関連の専門学校へ通っい学校とバイトの毎日だと本人は呟いたが電話の声は弾んでいた。

「健一久しぶり、こんな夜に電話して驚いただろう」京一は一方的に喋り始めその内容は学校の事女の事、バイト先の上司の悪口等多種に渡っていた。その声は満たされて充実している様に感じ、然し圧倒的に多い会話は車の事で最近京一は中古であるがローレル2ドアHtのガンメタを買ったと熱く語り、改造に80万位掛けたと自慢をしていた。一番お金を掛けたのはエンジンで2800CCへ載せ替えてフェンダーを叩き出して車高を下げていると自慢げに云い自分の自慢話を終えると少し悪びれた声で問い掛けた。


「ジローもフェアレディーZ買ったと聞いたけど。今度見せてくれよ」

「240ZGだ」とジローが言うと電話口の向こうで驚いた様子で京一が叫んだ。

「お前何処にそんな金が有るのだ」と驚く声に、俺は少し京一の自慢話に勝ったような気分になり

「金なら無い、世にいう240ZG擬きだ」と笑った。その言葉に京一は「ちぇ。騙したな。金が有るなら貸してくれ」と舌打ちをするとジローは付け加える声に「でもエンジンはL26で加速力は十分だし、外見は誰が見ても分からないようにしてある」と相手の出方を伺うと京一は一呼吸おき

「久しぶりに会おう」と言い出し、ジローは久しぶりに皆で集合しようと言う言葉に京一が乗り、場所をジローが第三京浜港北パーキングに決めた。仲間のサブには京一が健一にはジローが話す事となり、高校時代から色気が絶えない誠は家には居るみたいだったが、連絡が取れず京一に任せる事にした。

多摩川を渡り川崎へ真っすぐ伸びるオレンジ色の外灯が第三京浜の特長でジローは追い越車線を図太い排気音を後ろに流しながら港北パーキングへ向かい進んでいた。健一は相変わらずポテトチップを頬張りながら寛いでジローはミラーで時々彼の様子を気にしながら、断続的に流れる白線を凝視していた。


寒気の到来は早くボンネットに雨粒が突然叩き付け始めジローは「もう降ってきたがった」と窓を閉め呟いた時にはボンネット一杯の雨粒が窓一面に張り付いては後方へ向かい飛んで行き、ライトに輝く雨と流れるオレンジ光の向こうに薄らと視界に移り始める赤い点がみるみるうちに彼らに向かって大きくなり、其れは大型のタンクローリーと分かるとジローは「ちぇ、デカいのが前を塞いでやがる」と呟いた。その言葉に健一は「行け、行け」とシートを揺らし、其れに対応するかのように隣車線に視線を変えミラー全体に白い光の玉に目を細めた。その光はガラス面に付いた水滴に反射して車内へ入り込んで来るジローは瞬きをすると目を凝らし光の筋を追った。その逆光は2つに分かれ車のヘッドライトとして認識する頃には、前方のトラックが目の前に迫りジローは反射的にアクセルを緩めウインカーレバーを上げた時に隣を闇に溶け込むような黒色の車体が光と共に駆け抜けて行った。弾丸のように通り抜けたのはサバンナRX-3路面から巻き上がる水飛沫がオレンジの車体に当る音をジローは感じながら左車線に向きを変え加速させた。

ガラスに跳ね返る雨をワイパーが滲む赤いテールランプを拭い、遠くなって行くサバンナを追う様にジローはアクセルを開くとマフラーから発する重低音は更に大きくなりやがてタイヤから出る水飛沫がガラス一面に広がり始めた。ジローはワイパーを高速にして左の車線へ移ると、サバンナRX-3と並走するように並んだ。ガラスを勢いよく流れる雨越しにジローは横目で凝視すると、ハンドルを押さえる白い細い手が微かに見えそれ以上内部の様子は判別できず、その時後ろの健一がパーキングと叫び看板に促されるように視線を走行車線に向け車はゆっくりとサバンナから離れて行きやがて前方に消えて行った。

「ちぇ、今少しだった」とジローは悔しがる声に相変わらずポテトを口一杯に入れた健一は

「なにが」と言葉にならない声を上げた。

「並走して誰が運転しているか見てやろうとしたけど、ハッキリ見えねえ雨で。」

「気にしない、また何処かで合うかもしれねえし」唐突に云い。

「あの白い手は女かも知れない」と思い返したようにジローの声に即座に反応する健一は

「女」と声を荒げ「あんなスピードを出す女、おっかねえ、でも細い手の男もいるかからな~」と笑い声を上げた。

然し、ジローは確信を持ち「多分女だ。俺には分かるチラッとだけど、赤いマニュキュアが見えた」

すると健一は「ジローは女に飢えているから男の腕も女に見える。相当重症だ」と苦笑し返した。

ジローは黙ってパーキングの矢印を確認して車を白色ラインに沿うように進めた。

パーキングでは案の定京一だけが待っていた健一、ジロー、京一の三人で珈琲を飲みながら一夜ひと時を満喫すべく意見を出し合ったが中々定まらず、結局京一の案を採択し現地で落合う約束を交わし、パーキングを出発すると通り雨は既に止み澄んだ空気を漂わせていた。


(2)

コンテナヤードへ向かう高架橋の繋ぎ目を車が通る度に発する断続的な音と建物から漏れる大音量のスピーカーの軽快なリズムをジローは護岸の駐車場で聞いていた。対角線に有る外灯の明りが満車に近い車の列を照らしオレンジ色が海の黒さを強調させて妙に神秘的な雰囲気を作り出し潮風が生臭い匂いを運んでいた。

「京一遅いな」と岸壁のフェンスに凭れ掛かけていた健一が答え「トイレの後に追いかけると言っていたから、多分大きい方じゃないか」とジローが駐車場の車を見渡ながら言うと目線が一台の車の前で止まり、足が自然に其処へ向かった。

健一が「ジロー如何した」の問いに「サバンナだ」と歩きながら答えた。

胸ポケットから煙草を取出し「さっきの奴か。いや、女だったな。」ソフトパッケージから1本取出しパンツのポケットのライターを探した。

ジローは車の前に立つとナンバーを見て「浜ナンか」と独り言を言い運転席を覗き込み、ミラーにさがる飾りに目が留まった。薄らとした記憶の中でこの車だと確信を得るように

「この車だな」とジローは再び呟き少し離れると助手席の黄色のバックに目が留まり、

「俺の感は当った、やはり運転手は女だ」と感じたものは真実へと変わった。

ジローは低く「結構センスが良い車だ」愛しむうような眼を向けていた。


京一は駐車場の空きスペースへ車を停めている最中で、横に停まっている大型車両に神経を集中していた。パワステでないハンドルの切り返しに額に汗が滲み、京一は横の車を睨み付けると「デカすぎるお前は」と捨て台詞を言い建物へ向かい歩き始めた。

ジローは建物の前に佇む数人の男女の横をすり抜け鉄製の扉を開けると耳を貫くような大音響が彼の体に突き刺り、其れは店内に入るほど大きくなり天井のスポットライトがグルグルと廻り混雑している店内を照らしていた。中央がホールになり見渡るように高くなって丸テーブルが幾つも配置され、人混みを掻き分けながら何かを探している様な目で廻りを見渡し、手に赤いマニュキュアをしている女性を見付けると近づいて声を掛けた。

「ねえ、君の車サバンナ」と言ったが、その声は直ぐに音にかき消された。女性も彼の存在を無視するように踊り続けていた。ジローは彼女の肩に手をかけけると女性は驚いた様子にジローは両手を上げ彼女の目を見ながら「ナンパじゃないよ、車で来たの」と大声で言うと女性は手を横に振りその場から離れて行った。ジローは逃げる様に離れる女性を見ながら「タイプじゃないよ!!」とまたホールの中を歩き始め、数人赤いマニュキュアの女性を見付けては声を掛けたが、車の持ち主は判明しなかった。

ジローは半ば諦めた様子で表に出ると丁度京一と健一が玄関前のテラスで煙草を佇み健一がジローを見付け「ジロー遅いぞ」と声を掛け「サバンナの持ち主探し」返答に「熱心だ」と呆れたように言った。

すると京一が「女だろ運転していたのは」と察したように言うと健一が

「そうなのか」

「そうだ。赤いマニュキュアの女」

「居たのか」健一の声にジローは首を横に振り

「分からない」駐車場へ目線を変えた。

ジローは再びサバンナの前で足を止め暫く車を見ていたその時後ろから女性の声で

「私の車に何か用でもあるの」ジローが振り向くと長身の女性が其処に立っていた。ジローの目は彼女の手の赤いマニュキュアを凝視する姿に女性は恐怖心が働き「何か用」と大きな声で威圧すると

「この車君の」と確信に迫ろうとする問いに

「そうよ」彼女の声は真実となりジローは顔全体に笑顔が広がり

「やっと会えた」と即答した。

何の事か分からず茫然としている彼女に

「探し回った、クラブに居たのか」問いかけ

「私を探していたの、クラブの横のバーに居たけど」すると顔全体に笑みが広がり

「今日は面白い夜になるわ」と答えた。

ジローは笑い声に不快感を覚えたのか

「何が面白いのか知らないけど、俺は想像通りで安心した」と言い

「男前の貴方に想像して頂いて光栄だけど、何処かで会いましたか」

と問う声にジローは先ほどの話を女性に話した。

彼女は納得するかの様に頷きながら話を黙って聞き「私そんな上等は女ではないけど、篠原雪絵と言います」と名前を告げジローも其れに追従し答え。

雪絵は「人生って面白い」と再び笑うとジローの何が面白いと伺う顔をして

「わたし彼と今別れて来たの。今夜は最悪の夜になると思っていたけどこんな出会いが有るなんて驚き。だって別れた後に男が私を探し廻っていたなんて最高でしょう」弾む声をジローは呆気に取られながら

「俺は光る流星って所かな、突然現れる光」と言うと彼女は急に真顔になり

「じゃ、流星の彼方へ今夜連れて行くと言って」と無邪気な声で彼にウインクで返した。


雨上がりの埠頭は潮風が二人を包むように爽やかな風が吹いていた。


(完)


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