第一話 悪夢見て、過去に思いを馳せる
前話を見て、変に感じると思いますがすいません。グローセが誕生するシーンは後々ということでお願いします。
空を見上げれば真っ黒い雲が覆い尽くしている。ため続けることができなかったのか、そんな雲から溢れ出すようにポツポツと雨が降っている。いつ決壊してもおかしくないだろう。
これぐらいの雨ならフードをかぶる必要もなそうだが降ってきた時き慌てるのが嫌なのかフードをかぶった集団がいる。どうやら8人くらいの男の集団のようだ。そんな集団が談笑をしながら道を歩いている。ふと、後ろの方を見てみればそんな集団を追いかけるかのように小さな存在がいる。まるでその集団と話す機会を伺うかのように隠れてはチラチラと見ている。
チラチラチラチラ、何回も繰り返すうちにとうとう我慢の限界がきてしまったのか、その存在は集団に接触する。不思議と、というかあり得ないのだが会話は全く聞こえない。会話だけではない。雨の音や、動くたびにするであろう音ですら聞こえないのだ。これは、耳が不自由でない限りあり得ない事だ。あり得ない事はそれだけではない。雨が降っているのに全く濡れない、そして、雨に当たった感覚もない。つまり雨が体を通り抜けているのだ。ここまで来て、ようやくグローセは悟る。これは夢なのだと。しかもタチの悪い悪夢だと。
グローセこと、悪神と契約した男は度々、というよりかなりの頻度でこういう悪夢を見ていた。悪神の分身ーーーオクトタが言うには所謂呪いとの事だ。条件などはここでは長くなるので割愛させてもらおう。
取り敢えずこれは悪夢でしかも自分的見たくない夢ランキング第1位を堂々と飾るものだった。正直すでに気分は鬱だ。
だが、グローセが鬱であろうと陽気であろうとなんであろうと、場面はどんどんと進んでいく。それを止める術はない。今の場面は話が決裂したようで戦闘が始まろうとしていた。まあ、内容を知っている身からすれば決裂して当たり前なのだが。なんせこちらの提案が「今すぐここで喉を切り裂いて死ね。もしくは俺に無残に殺されるか選べ」だったのだから。これで決裂しなかったらそれはそれで相手のことを疑う。
まあ、これはなるべくしてなったということだ。仕方ない。
そう考えた直後頭に声が響く。『本当にそうか?そう思っているのか?お前が愉しもうと考えなければあんな事は起こらなかったんじゃないのか。話などせずにとっとと殺していれば母さんは生きていただろう?』
この言葉の証明は直ぐにされる。目の前の男と数号打ち合った後、力の差が出たのか剣が弾かれる。当然だ。見るからに大人と子供だ。力の差など歴然である。そう、打ち合った本人以外は思うのであろう。
『ここでもだ!ここでもお前がこんな行動をとらなければあんなことにならなかったのに‼︎』
声が頭に響く。もう何回も見て慣れたと思ってもこれだ。この声に、身体は震え心は悲鳴をあげる。それは、俺がこのことにそれだけ罪の意識を感じているということで。
男の剣が子供の頃の俺に迫る。そして、時が止まる。正確には止まったように遅くなる。その間に剣の軌道から逸れた俺は男に剣を振るう。首を狙った一撃。入れば確実に致命傷。助かる見込みもなくなる。そんなことを考えて、その頃の俺の顔はとても嗤っていた。
でも、その後のことを知る俺にはただただ、悲鳴をあげるしかない。
時が緩やかに戻っていく。血が噴き出る。でも、それは男の血ではなかった。当然俺の血でもない。一人の女性の血であった。
その事実を認めた時、絶叫が上がる。それが合図だったとでも言うように、決壊し土砂降りの水が空から降ってくる。視界が覆い尽くされる。そして、そこで、俺は意識が途絶える。
〜〜〜○○○〜〜〜
「眩しい!」
ガタッという音とともにそんなことを叫んで2段ベッドの下から転げ落ちる。
どうやら、カーテンの隙間から入ってきた光がちょうど目を焼いていたようだ。
「はあー〜ぁ。夢見は最悪。起き上がりも最悪。夏休みのために同室の人がいないのだけが救い。プラスマイナスで考えると、どう考えてもマイナスですね」
そんなことを身体をほぐしながら呟く。その言葉が終わるのを待っていたかのようにドアがノックされる。この時期にこんな時間から自らの部屋を訪ねてくる人物は一人しか思いつかなかったのでグローセは入室の許可を出す。
「失礼します」そんな声とともに入ってきたのは予想通りの人物で、頭頂部付近にイヌミミを生やしこんなに暑いのに全身をキッチリと衣服に包んでいる。ロンググローブをつけ、ハイソックスまでつけている徹底ぶりである。まあ、その服装が所謂メイド服なのだけれど。まあ、この服装にはちゃんと理由があるので突っ込むことは何もない。そう、何もないのだ。
「グローセ様おはようございます。今日も素晴らしい天気ですね。朝食の準備が整っておりますので食堂にお越し・・・」
あの夢を見たからか、はたまた、この少女も見てひとセットだったのか、少しばかり過去を懐かしんでしまう。そんな自分を不思議に思ったのだろう、話を途中でやめてしまう。
「ごめんごめん。今日の朝は夢からとことんついてなくてさ。マイナス側に傾いていたんだけど、フィードを見たら一気にプラスになったと思ってね」
そんな言葉に一気に顔を赤くしたフィードどはアセアセと「そ、そんな冗談を。やめて下さい。本当はなんなんですか?」
すぐに言葉は冷静にしたつもりだろうけど、ミミとシッポが動いてるよ。目もすごいキョロキョロしてるし。ふふっ、確実に好感度が上がったねこれは。
と、そんな黒いことを考えつつ、全然裏なんてないよといった顔で、「本当のことなんだけどなぁ」と、いけしゃあしゃあと呟く。
さすがにこれ以上はダメだなといったところで、
「まあ、それだけでもないのは確かだけどね」
と、答える。
それに気持ちを落ち着かせたのか顔は少し赤いまま、質問をしてくる。
「それは一体なんなんでしょうか?」
「それはね、過去のことだよ。過去に思いを馳せてたのさ。どう、興味あるでしょ?」
「とても!」
僕の質問に対するフィードの答えは面白いように簡潔明瞭だった。
でも、まだ教えられない。あのことは、ずっと封印しておきたいことだし、彼女と会う前の話はあいつとの出会いからしか話せない。
だから、僕はいつも通り誤魔化す。
「と、話をしようと思ったけどお腹が空いちゃったな。また今度でいい?」
と、話を切り上げ部屋を出る。その後をいつも通りのことなので溜息をつきつつも付いてくるフィード。
その存在を感じながら僕の意識は過去の記憶を思い返していた。




