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天上へのきざはし

 ある日友人が我が家をたずね挨拶も早々

「ところで※※湖へ行かないか?」、と訊いてくる、しかし※※湖と言ったらお前の車を使ったとしても3時間近くはかかるじゃないか……などと戸惑っていると、

「ドライブがてら行ってみようじゃないか? 車ならあるんだし」

 やはりこれから行くつもりなのだろう、それならば覚悟を決めるしかないだろうな……しかしもう夕刻だし途中で夕食とか休憩を挟んでしまえば夜になってしまう、あんな所は夜ともなれば危険だしなあ、

「まあ今からなら夜中には帰ってこれるだろうから、そう考えたら利益はあってもリスクは無いぜ」

 夜中って、結構なリスクじゃないかよ、

「さあさあ、出かけた出かけた……」

 ズイブンと楽しそうじゃないか……まあいい、コイツがこんなに喜んでいるのも珍しい、約一年前にこころを患って相当苦労も重ねたようだが、近頃は復調しかけているとも聞いていたし、その笑顔にしっかりと表されているな、まさか湖の底へといざなって、死にに行こうってワケでもないだろうし、

「連れ自殺っていう言葉があんのか?」

 何を言い出すんだいきなり……こっちを真っ直ぐ視るんじゃないよ、結構スピード出してるうえになかなか極端な迂回路だ、ガードレールの向こうは谷底だからな、スゲエ崖道だし……それに……『事故多発』ってデカデカと看板が飾られているのがとても不気味だ、

「まあ別に車ごと谷底まで……っていうほど思い切った意味じゃなくてね……」

 おいやっぱり病んでんなコイツは、嫌だぞ、こころを患った友人と死の底まで道連れってのは……

「そういう意味じゃないんだ。ただなあ、漫然と想像していたらな、これから暗い夜道をたどって茫漠とした湖まで訪れていく……っていうのはなんか不吉なことを誘っているような気がしてね」

 笑ってんじゃねえぞ、無理心中じゃねえかよ、どっかのタイミングで逃亡しなけりゃコッチの命はなさそうだな……だいたい何なんだよ……連れションみたいな言い方してんじゃねえぞ……連れ自殺って……言っとくがそんなにコチトラ軽々しい粗末なイノチではないんだからな!

「まあそろそろ日も落ちかかっているし、色んなことを想像でもしていないと風景も単純になって飽きてくるからなあ、夜の田舎道のドライブなんて……」

 無理心中のリアルな予知夢なんかで退屈凌ぎをしてんじゃねえったら! やっぱこういう日々のルーティン的ネガティブワークの重層があってのこころの病だな……しかと視た。

「ション便は大丈夫か?」

 連れ自殺に連れションブッこんで来てんじゃねえぞ!

「『連れ』なら遠慮なく言ってくれよな、よく言うだろ、『旅は道連れ』……ってな」

 いろんな『連れ』を交えてくんなって……厳密に連れション以外の『連れ』などあってはならぬ……

「ところでどうして行く気になったんだ……」

 はっ?

「……いやいや、だから、※※湖だよ、どういう経緯イキサツなんだ?」

 ……。お前が誘ったからだよ!

「俺がお前ん家で誘ったよな? あれ? 違ったっけな。はじめは乗り気じゃなかったのかなあ……なんて俺は考えていたんだけども」

 そうだったっけな? どっちにしろもう覚えてねえよそんな細かいことは……それより気になることがそのあとたくさん大アリだったからひとつ残らず消し去られてしまったぜ、

「眠くなんねえか?」

 不安も峠を越せば眠くなるってか?

「俺のほうは運転さえしてれば大丈夫だ、助手席ともなるとダメだけどな……そういう意味では俺の車でラッキーだったよ……例えばお前が運転手だったら一発でK・Oされちまうからね」

 ……俺は車を持たないし…………第一無免許だ! それに仮にお前が助手席で眠くなる状況があったとして、それは単に眠っちまえばいいだけじゃねえか! ったく……何に対する警戒心だよ……

「ようやく崖道も終着……いよいよ森へと突入だな……ワクワクして来たぞ……!」

 なんだか解からんがコイツのテンション異様だよな……まあネガティブな想像ばかりされているよりはダイ分マシなのかなっ、てのはあるが……しかし理解不能だ……夜……友人とふたりきりで……森の奥のおく……辺鄙な湖へと目指してはるばると……

「うわあガタガタみちだああっ、四駆! 四駆! 四駆!」

 『軽』よ『軽』っ!

「さ、いよいよだな……」

 夜、暗がり広がった見慣れぬ景色、視力がだんだんと慣れていく、拡がりの感覚は増していくのだった……何故なら月光があたかもスポットライトのように真っ直ぐに湖畔を照らして……漣を美しく染めていた、奥深い、と思い込んでいた風景への遠景も……光沢を彷彿とさせるほどの高貴な天空の女王のスカートの丈のように……この下界へと架けられた神々のきざはしのようで……夜を忘れるほどの光に満ちた光輝な世界がずっとずっと広まっているのだった……まるで……麗しい……とても……とても巨きな……『鏡』……

「…………」

 言葉も出ない……至福のときが過ぎていった……

「…………」

 帰り道、未だ余韻に浸り続けていた、とても良かった、それにしても、どうして湖だったのか? コイツだってはじめてだというし、想像を遥かに凌駕するほどの景色を瞼に収め、何一つ不満もなくて、ただ喜びに満ち溢れる結果となった、それでも、ここまでの結果なんてコイツ自体も予測していなかっただろうし、それに、月光の湖が視たかったのだ、というのなら、もっと有名なX湖は我が家のもっと近くにあったからだった……端から……ソッチヘ誘えばよかっただろうに……?

「だって、回文みたいで面白いじゃないか?」

 そう言い放つ言葉の意味も掴めないまま……

「『※※湖/コメコメコ』……なっ?」

 ……なっ?って!

「上から読んでも下から読んでも同じだろ?」

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