理由
※この話には、ほんのちょっとゲテモノ的な料理?の内容が含まれてます。
食事前や食事直後の方は閲覧注意でお願いします。
ほんのちょっと気分が悪くなっても許してもらえると嬉しいなぁ。
理由
「ギルドご利用についての説明はお聞きになられますか?」
「まだ宿を決めてないので、長くなりそうなら明日でいいですか?
あ、後おすすめの宿とか飯屋とかあったら教えて欲しいんですけど」
「わかりました。ではこちらが登録証と報酬ですね、ご確認をお願いします。報酬の内訳は聞かれますか?」
カウンターに金貨1枚と銀貨5枚、それと二枚の小さい金属板が並べられる。
金属板が登録証かな?大きさは縦5cm、横2cm程度だ。
持って確認すると板の表には番号が彫ってある。裏にはガラスがはめ込まれていて、そこに名前の書かれた紙が入れられている。ドッグタグみたいな物かな?一か所穴が開いているし、明日にでも紐を買おう。首にかければいいかな。
報酬の内訳については―――
「内訳は今後の目安するから聞かせてくれ。それと、この登録証は身に着けときゃいいのか?ドッグタグみたいに首からぶら下げる、とか」
おお、考えてる間にダニキが答えてくれた。似た様な事考えてたのか。珍しく役立ってるし、明日は槍でも降るのかな?
「ええと、内訳は討伐が1匹あたり銀貨1枚、12匹分で金貨1枚と銀貨2枚。毛皮の素材が1匹あたり銀貨1枚と銅貨5枚、2匹分で銀貨3枚。合計して、金貨1枚と銀貨5枚となっております。
それから、登録証は身に着けて頂ければ結構ですが、首から提げられている方が大半ですね」
意外と毛皮高いのか、くそう。10匹分で金貨1枚と銀貨5枚、全部は持って来れなかっただろうけど惜しいな。全部あったら報酬がこの倍だったのかぁ………
「らしいから、首輪に付けとけよ駄犬ウッカリッジ。言う事聞いてたら忠犬カーレッジに昇格させてやるから頑張れよ」
「口開いたと思えばそんなことかよ!この寄生虫が。せめて益虫に進化してから口出せよ」
「誰がダニだゴラァ!!」
「自覚あんじゃねーか、オマエだよダニキ。つーか他にどう着けるつもりだよ」
「そりゃ、あれだよ。リストバンドに縫い付けるとか」
「俺達裁縫なんか出来ねーだろ」
「か、彼女に縫ってもらうとか……」
「プロポーズは『俺の為にドッグタグ縫ってくれ』ってか?………ハッ」
「鼻で笑うなよ!いや、俺もそれはどうかと思ったけどOKしてくれる娘がいるかも――
「あの、お二人は漫才をする為にここに来られたのですか?」
「「いえ、違います。ゴメンナサイ」」
「……とりあえず、俺が話すから黙ってろ」
「しかたねーな、不足がありそうだったら口出すぞ」
「おう。で、すみません。この街で安く泊まれる宿屋ってどこですか?」
「一人部屋ですか?そ、それとも二人部屋で?」
……何でどもったの?この人。
「二人部屋のが安いですよね?多分」
「そ、そうですよね。えっと、手頃な宿はギルドを出て右手、中心街方面へ100m程進んだ右手側に宿屋ソサナがございます。
宿泊費も一人あたり銀貨3枚程度だったと思います。けど――――
けど、何?
「や、柔らかいベッドが良ければ、その……中心街の方に、丁度いい宿がありますよ?」
「いえ、路銀も少ないので安宿で問題無いんですけど。今日は晩飯食べたらすぐ寝ると思いますし」
あれ?この人さっきまでキリッとした顔してたのに、何で今は口元がちょっとだらけてるの?
「そうですか……お食事は、味にこだわりなど無ければここの一階をご利用して頂ければ幸いです。
味はそこそこですが、安くて量が多いので他の冒険者の方もよくご利用されてますよ」
そうなのか。まぁ、繁盛してそうなのは入った時にわかったけど。
情報収集にも丁度いいかもな。
………あと、何でこの人ちょっと残念そうな顔してんの?
「あ、酒っていくつか置いてある?」
「はい。ビールやワインなど、安くはありますけど品質のいいものを置いていますよ」
「おい、ダニキ。俺は酔っぱらいの介護なんかまっぴらなんだけど?」
「カタいこと言うなよ。今日は俺らの門出だし、無礼講でいこーぜ」
「今日はじゃねーだろ。毎回の如く酔いつぶれる癖に。今日からは俺しか居ないんだから、手間かかりそうなマネすんなっての」
「ケチくせーぞ。こっちはお前のために朝から港で働いたりしてんだから、疲れてんだよ」
疲れたような雰囲気させた後にドヤ顔でこっち見やがった。殴りてぇ、その笑顔。
「……そうだろうとは思ってたけど。
コノヤロ、黙ってりゃ『カッコいいアニキ』で終わんのに。そんなんだからダニキって呼ばれんだよ、気付かねーのか」
「はっはっは、何とでも言いたまえ。酒が呑めるならその程度の悪口、微風と変わらんよ。
恨むなら寝坊した自分を恨むんだな!」
確かに遅れたのは俺だけど、恨むのは………あのおかゆ?
母さんの作るあの、軟らかく煮られてほんのり甘くなったご飯に、甘さを引き立てるほんのりとした塩気。混ぜられた卵はダマにならず、全体に満遍なく広がっている。その上専用のダシを卵に混ぜて飽きさせないよう工夫されたおかゆを―――
完成後、塩ゆで等の下処理をしていないと思われる野生の薬草を刻んで上に散らし、殺ってきたマムシやスッポンの生臭い生き血をそのまま垂らし、混ぜ込む。
目を瞑ると思い出す。土臭さと野草の匂いと生き血のコンボで、ヨクワカラナイモノに変わり果てたおかゆ。つか、あの薬草水洗いはされてたよね?さすがに。そう信じたい。
今も舌が覚えてる。隣から差し出されたスプーンを口に含むと、口内から鼻にかけて広がっていく生き血のニオイ。ほんのりとする土臭さに吐き気が込み上げるが、なんとかこらえて咀嚼すると今度は野草の苦みが広がっていく―――
いかん、思い出すだけで吐き気がしそうだ。途中から記憶が無いけど、全て飲み込んだ自分を褒めてやりたい。
って、ヤベ。また受付嬢さん放置してた。また怒られるかと慌てて見ると―――なんでかまた、別世界に逝ってるみたい。だらけたような顔で、口の端から涎が垂れそうだよお姉さん、大丈夫?
「…………酔い潰れた君を…………タイトルは…………いつもと逆に………イケルッ………私の薄い本が……」
聞こえたのはそんな単語。よくわからないがアブナイ気がする。
「お姉さん?……すいませーん!!」
「……嫉妬するシーンとか……ハッ」
正気に戻ったのかな?
「とりあえず、最低限知りたいことは聞けたのでこれで失礼しますね」
さっきから鳥肌が治らない。寒気が収まりそうにないから早く撤退しよう。
「わかりました。それではまた明日『ホモォ』こしをお待ち致します」
「ありがとうございました」
頭を下げてお礼を言い、宿屋に向かい歩き出す。まずは宿泊の予約をしてから晩飯だな。
あれ?そういやさっき受付嬢さん『明日のお越しを』って言ってくれたよね?なんか邪神の声と被って聞こえなかったけど。
恐いもの見たさでちょっと振り返る―――
笑顔で手を振るお姉さんが………さっき見た三倍の大きさと数、邪神背負ってる。
ヒイィ、超コエェ。心なしかお姉さんの笑顔も邪な気がするし、見るんじゃなかった――
そうだ、明日は違うお姉さんに話しかけよう。
邪神の目線から逃れ、とりあえずギルドを出て大通りへ。
教えてもらった宿はギルドの右側、中心街方面に歩いて右だったよな。
「なあカーレッジ、明日は今日と違う受付嬢さんに聞きに行こうぜ」
「わかってるから、何も言うな」
相方も同じような寒気を感じていたようだ。そこからは交わす言葉もなく宿屋を目指す。
少し歩くと、わかりやすい看板が見えた。
≪宿屋:ソサナ≫
木造の質素な外見だけど、まぁ安宿ならこんなもんだろ。
入口の扉を開き、中に入ると受付に男性が座ってるけど―――ものすごい筋肉質だ。
入る店間違えた?そのまま回れ右して外の看板を確認するけど見間違えたわけじゃ無い、教えてもらったのはここで間違い無いようだ。
なんで宿屋の主人やってんの?冒険者やってる方が儲かりそうだけど。
「………いらっしゃい」
聞こえた声がめっちゃ渋い。薄暗い店内でカウンターの奥に座り、手に持つ新聞から目を逸らし、チラリとこちらを一瞥。これがハードボイルドか!
「ン、ンン…………2人部屋を1つ―――1泊で」
咳払いを1つ、相方の馬鹿がノッた―――
カウンターに右手を付き、無理していつもより低めの声でそれっぽく言いやがった。
おい、お前さっきまで俺とアホな言い合いしてたよね?
「飯は」
「夜は外で呑んでくる、朝は――任せた」
「1部屋と朝食2人前、銀貨6枚だ」
「釣りは要らねえ、取っときな」
出された金貨1枚。オイ、それさっき貰った報奨金だよな。何無駄な使い方してんの?
つっこみたいけど、言えない!今口を開いたら爆笑しそうだ!
「フッ………一番いい飯用意してやるよ」
言いながら部屋の鍵がカウンターに出される。
ダニキが鍵を受け取りながら一言。
「期待しとくよ」
やばい、両手で口を押えてないと吹き出してしまいそうだ。早く部屋に行かなくては。
おっちゃんが目線で示した右手側の階段へ歩き出し、ダニキは鍵を持つ左手を少し掲げた。お礼のつもりか?やばい、このままじゃ呼吸困難になる。
部屋は階段を上がって1部屋目だった。
た、助かった。
部屋に入って扉を閉め、呼吸を整え―――
「やっべ、晩飯代どうしよ」
「アホかーーー!!!!!」
思いっきり後頭部叩いてやった。
「すいませーん、今日のおすすめ2人分お願いしますー」
「あとビール2つー」
「はーい、6番さんおすすめとビール2つー」
余計な注文の発言先を睨んでやる―――けど、そっぽ向いて口笛吹いてる。コノヤロウ。
まあいいや、今日は俺も疲れた。主に精神が。
ちょっとは酔わないとストレスで禿げ上がりそうだ………
結局、あの後所持金を確認したら俺がもらった選別が金貨10枚、報奨の残りが銀貨5枚、
ジョワの所持金が―――0。いったい何しに来たんだ寄生虫。
「はい、ビール2つおまちー」
と、酒が来た。そうだ、今日の事は酔って忘れよう。考え出すとキリが無い………
「そんじゃ、俺達の門出を祝って」
「「かんぱーい」」
カツン、とジョッキを打ち鳴らし一息に飲み干す。
「「………プハーッ」」
「お姉さんビール2杯お代わりー」
「はーい、ちょっと待って下さいねー。6番さんビール2杯お代わりー」
「ビール初めて呑んだけど、意外と旨いな」
「疲れてると特に旨く感じるもんさ」
「……誰のせいだと思ってんだよ」
「誰?」
「お前だろ!!」
「はっはっは、細かいことは水に流せよカーレッジ。将来ハゲんぞ」
「ったく、ストレス元が何言ってんだか」
「はーい、お2人さんビールのお代わりおまちー」
「お、来た来た。
そんで?今更だけど島出るきっかけって何だった?」
「普通にスルーしやがったな、まあいいけど。最初は一昨日話すつもりだったけど、途中から猛獣と夜の森でランデブーしてたからなぁ。
平地だと追いつかれると思って森の中でかくれんぼにしたら、野生のカンで見つけ出すんだもん。ふと後ろ見たときに、そこに居た恐怖。タノシカッタナ、アハハハハ」
「いや、1人に押し付けて悪かったと思ってるから。帰って来いよ」
「はぁ、もういいけど。
……きっかけか、酔った時に親父が話してくれた冒険譚とかだな」
「あんな実力の親父さんだもんな。そりゃ武勇伝も1つや2つあるよなー」
「手に汗握るような話もいくつか聞いたけどさ、山の主討伐とか母さんを貴族の家から掻っ攫った話とか」
「ブッ………親父さん、若い頃無茶してたんだな」
「そうだったらしいよ。詳細は恥ずかしいからって聞かせてくれないけど。
でも、そんな物語より耳に残ったのが『外に出て何が一番変わった?』って聞いて、帰ってきた言葉だよ」
「どんな?」
「『視野が広がった』ってさ。鍛えた力とか、軍に入って権力持ったとかじゃなくて。
冒険者になって色んな所巡って。軍に入って上の考え方知って。色んな人と話して。
家出る前と考え方が変わったって言ってた。
俺には親父みたいな実力は無いけど、自分の大切な場所くらいは守れるようになりたいから。火の粉が降りかかって払うんじゃなくて、降りかかる前に火元を見つけられるように。島の中だけじゃなくて外にも目を向けていられるように、そうなりたくて島を出たんだ」
「………そうか。そんじゃ、微力ながら手伝いますか。
カーレッジの理想に、一歩でも近付けるよう願って」
「「乾杯」」
カツンと音を響かせ、青年の理想に向かい物語は歩き出す。
今はまだ名も無き受付嬢さん。ネタがマッハなのでそのうち裏話にて追加する予定です。
ちなみに私は男性なので。┌(┌^o^)┐っぽい内容は雰囲気で読み流してくださいお願いします。 m(__)m