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真照  作者: 知吉
4/5

冒険者として

 構想練ってたらえらい時間掛かった気がする。

 冒険者として



 海岸を出発して少し行くと林が、それを抜けると見渡す限りの草原が広がっていた。

 最寄りの街まで、辛うじて馬車が通行出来るようにしてあるようだ。歩くよりは早いから、と馬車に乗せてもらっているが車輪が小石を乗り越えるたびに揺れ………尻が痛い。

 護衛代わりに馬で並走しているおっさん二人は平然としてるし、御者台のおっさんはクッションを敷いている……いいなぁあれ。



「魔犬が出たぞー!」


 風景を見ながら尻の痛みと戦っていると、犬型の魔物が出たようだ。

 丘からこちらに向かい、駆けて来る。

 数は………12匹か。


「行くぞージョワ」

「おー」


 やる気のない掛け声を聞きながら、獲物が駆ける方へ歩き出す。こちらは馬車一台に護衛の馬二頭、数が有利と仕掛けたんだろうが、相手が悪いな。

 痛む尻の八つ当たりに、憂さ晴らしさせてもらおう。



 短剣を右手に、右足を前へ。抜いた剣は左脇下に隠すよう構え、少し腰を落とす。

深く息を吸い、ゆっくり吐きつつ心を尖らせる。

イメージは火の刃。短剣の鍔元から長さは10m程度に。


「焦せ、炎刃」


 俺の左側から馬車へ抜けようとする7匹と、こちらへ真直ぐ襲い来る5匹、全て間合いに収めてからつぶやく。

 イメージ通りの炎を振り抜き、魔犬を全て焼き尽くす―――!



「あっ、バカ!燃やすな!!」

「え?」


 振り抜く直前に聞こえた声で集中が途絶えた。10匹は仕留めたが、そこまでで炎は霧散してしまう。

 残り二匹は――俺が注意を向ける前にジョワが倒しちまってる。

 危なげなく倒しはしたけど……



「急に声かけられたからミスったぞコノヤロウ」

「毛皮あるやつ黒焦げにすんなっての……街に持ってったら売れるかもだろ。

 ちょっとは旅費稼ぐことも考えろよ」

「ぐぬぅ……」



 くそう、金策考えてなかったのは俺のミスだけど……コイツに言われんのは癪だな。



「まぁいいけど。おーいポンさん、コレ街に持ってったら売れるかな?」

「焦げたのは無理だな。肉は食えねえし、毛皮として売れるのは二匹か。

 あぁ、あと右前脚切り取ってギルドに持ってったら討伐の報奨金が出たはずだ」


 いつの間にか近くに来ていたポンさんが答えてくれたけど、……やっぱ毛皮は売れんのか。10匹分、いくらかなぁ。


「って、何?ギルドって」

「魔物の討伐とかやってる何でも屋みたいなもんだ。詳しくは知らんから、そこに行って聞いてくれ」

「へー、そんなとこあるんだ。

 おっちゃん、悪いけどそこまで道案内頼める?ジョワ向こうに着いたら行ってみようぜ」

「おうそこまでは乗っていけ、護衛費の代わりだ。

 焦げてないのは護衛の馬に乗せてくれ、馬車に載せて積み荷に匂いが移るとまずいから」

「了解。カーレッジ、俺はこっちの二匹馬の所まで持って行くから」

「あいよー、残ってるやつの右前足だったよな?やっとくよ」



 武器を抜いて心を澄ませる。

 イメージは風の刃。短剣の刃から薄く伸ばす。


「裂け、風刃」


 左手で切断する足を持ち、刃を振り落とし―――俺の手は黒く煤けた。





「はぁ」


 作業を終えて、再び馬車に揺られながらため息をついた。


「お前その、考え無しな所どうにかなんねぇ?」

「くそう、ジョワなんかにそんなこと言われると思わなかった……」


 焦げた足を持ったせいで煤けた左手を見ながら呟くと、


「オイコラ、俺はいつだって頼れる兄貴分だろうが」

「え?何の冗談?」


 俺には迷惑かけられたような記憶しか無いけど。


「今まで狩りとか遊びに連れてったりしてただろーが!」

「……狩りに行っては遭難しかけて、遊びに出てはアホな問題を起こして、酒場ではその酒癖の悪さで絡んだり皿割ったり。この前も酔いつぶれて弟分に介抱された奴が何言ってんの?」

「いや、でも……あれだよ、楽しかっただろ?」

「いつも尻拭いさせられなきゃな。残念ながら俺達の認識は『ダメっぽい兄貴分』略して『ダニキ』だ」

「何そのダニっぽい呼び方!?今日とか結構役に立ってんだろーが!」

「ホントだ、熱でもあんのか?」


 熱を測ろうと手を額に当てようとするが、叩かれた。


「アホか!!わざわざ煤着いた左手で触ろうとすんなよ、汚れんだろーが!」

「チッ……」

「いい度胸だなぁ?今まで俺に勝ったこと無いくせに、今ここでどっちが上か再認識させてやろうかウッカリッジ」

「ああん?初めて島出たからちょっと浮かれてただけだろ。自分の事棚に上げて何不当なあだ名付けようとしてんだよ」

「いいじゃねーか『うっかりカーレッジ』略して『ウッカリッジ』で。

 愛嬌あるあだ名だし、改名しちまえよ」

「……ダニキが、虫みたいに潰してやるぞ」



「「やんのかコラァ!!」」


「そこの二人、もうすぐ門だから大人しくしとけー」


「「………へーい」」


 ジョワの奴、命拾いしたな。





 門の前には数台の馬車が並んでいた。積荷確認の順番だろうか、この馬車もその後ろにつく。門の横からは石レンガの壁が続いている。高さは5m位か?


 しばらく待つと、門番らしき人が近づいて来る。


「すみませーん。どこから来たかと街での目的、あと積荷があるのでしたらその確認をしたいのですがー」

「あいよ。ポール島から魚の干物を売りに来た。卸す店はいつものとこで荷は後ろに載ってるから確認してくれ」

「それじゃーお邪魔しますねー。っと、あれ?こちらの二人は……手伝いですか?それとも護衛の見習いで?」

「護衛みたいなもんだ。ここに来たかったらしいから、船代のかわりに働いてもらった」

「はぁ、そうですか。ようこそムートへ。あ、街中で問題とか起こさないでくださいねー。

 こちらのお仕事が増えるとアレなので」

「へーい」

「わかりました」

「それで荷は……いつも通りみたいですね。それじゃ前の馬車が移動したら続いて街に入ってください」



 いくつかある積荷の一箱を開けて中を確認すると、蓋を閉めてそのまま荷台から降りて門の方へ歩いて行った。


「って、あんな適当でいいのかよ門番」

「身長はある程度あったけど線も細かったし。大丈夫かこの街」

「何度も出入りしているから今の門番とは顔見知りなのさ。

 他の国は知らないが、この辺は戦争とかは起こっていない。戦闘があるとすれば、この付近に魔物が出た場合だろう」

「「へー」」


 そーなのかー、なんて考えていると馬車が動き出した。初めての街だ、ちょっとドキドキしながら今後やギルドについて、想いを馳せよう。



「ここまでありがとうございました」

「ありがとう……ございました」

「おう、お前さん達もおつかれさん。こっちはこれから積荷の引き渡しに行くから、明日以降に何か問題でも起こったら今日来た海岸に行きな。船番か馬車番で誰か居るだろうから」


 降ろしてもらったギルドの前でポンさんと別れを告げる。聞き慣れないジョワの敬語に突っ込みたいが……ケツが痛くてそれどころじゃねえ。……痔になりそう。

 門からここまで、大通りを来たけど……石畳みに舗装されていて段差の跳ね方が未舗装の比じゃねえ。


「お前も荷物敷いときゃよかったのに」

「……保存食とか薬草とか入ってたから出来なかったんだよ。悪くなったらマズイし」

「それじゃ仕方ねぇな」


 言いながら建物の中に入る。建屋の外観を見る余裕が無かったが、中には多数の冒険者らしき人が居た。人の熱気と共に伝わってくるのは多数の料理と酒の匂い。

 そういやもう夕方か。腹減ったな、そういや俺昼飯何食ったっけ?記憶にねーや。危険物食ってなかったらいいけど。

 見回すと多くのテーブルと、その上に載る料理に酒。各々に談笑している人達がいる。

 一階は料理屋をやってるのか?右手側に階段が見えるけど買取とかは上なのかなぁ。


「すいませーん」

「はーい、っと。何でしょう?」

「魔物の買取とか報奨金の受取とかしに来たんですけど―――

「それでしたら二階ですね。そちらの階段を上り、カウンターに居る職員に御声掛け下さい」

「わかりました、ありがとうございます」


 料理を配膳中の店員さん?にお礼を言い二階へ。

 上って左手側を見るとカウンターがあった。受付だろうか?カウンターの向こうに数人女性が座っていて、その間には仕切りがしてある。一番近くが空いているようなのでそこへ聞きに行こう。


「すみません」

「はい、本日のご用件は何でしょうか?」

「魔物の買取と報奨金を貰えるって聞いたんですが、ここでよかったですか?」

「いいですよ。売却分と、討伐確認部位の提出があればお出し願います」

「わかりました」


 ジョワの背負っている二匹と、10匹分の焦げた足を取り出しカウンターに載せる。

 ………煤は切った後にちゃんと払ったよチクショウ。


「あと、お二人のギルドご利用が初めてでしたら登録をお願いしたいのですが」

「登録ですか?」

「こちらで行う討伐記録や、依頼達成記録の為です。登録者が身の丈に合っていない依頼を受注しないよう、管理しているのですよ」

「そんなのあるんだ。いいですよ、登録します」

「では書類を持って来ますので、御掛けになってお待ち下さい」



 カウンターには二つ、椅子があった。ジョワは受付の女性が席を立つのと同時に椅子を引き、座る。俺は―――


「まだ痛くて座れねぇ」

「そんなに時間かかんねぇだろうし、立ってろよ」

「街中の方があんなに揺れると思ってなかった。次があるならクッション敷きたい」

「まぁ貴重な経験だったと思えばいいだろ。そんなにケツが痛むなら忘れはしないだろうし。物も知識も、色々足りないってわかってよかったじゃねーか」

「こんな教訓欲しく―――



『………ホモォ』



 え?何今の邪な声。

 見るとさっき席を外した受付の女性が書類を持って―――なんか邪神っぽいの背負って立っている。あれ?女の人って皆、神様っぽいの背負ってんのかな?


「あのー、それ登録用の書類ですか?…………すいませーん!」

「はっ。あ、ええそうです。出身と使用武器、名前の記入をお願いします」


 ちょっと強く声を掛けると再起動してくれた。別世界に逝ってたのかな?ちょっと目が合ってものすごい悪寒がした。早く済ませてここを出よう。


「代筆でもいいですか?」

「はい?かまいませんが」

「今左手がコレなんで。悪いジョワ、書いて」


 煤けた左手を見せると納得してもらえたようだ。ジョワの前に二枚の書類が出される。

 スラスラと書かれていくプロフィール。



 出身:ポール島

 武器:短剣

 名前:ウッカ



「書かせるかボケェ!!」

「あだぁ!!」

「何でさっきお前がつけたあだ名書き込もうとしてんだこのカス!!」

「改名させようかと――ってお前、ワザと左手で叩きやがったな!アホか!!」


 狙い通り、ジョワの左目付近にうっすらと煤がついている。


「よかったな、ダニからパンダに昇格だぞ。喜べよ」

「上等だ、オモテ出ろよウッカリッジ」

「返り討ちにして芸でも仕込んでやるよ。このパンダが」



 睨み合いながら歩き出し―――




「あのー、書類早く書いてもらっていいですか?」

「「……ゴメンナサイ」」



 だけど、書く前に。



「「すいません、この辺に井戸か川って無いですか?」」


 手を洗わないと、ダニキに代筆は無理だった。

 つーか何で登録にこんな時間掛かってんだろ。


 あれ?今回ネタに走りすぎな気が。

 次回から俺達の冒険だ!!みたいにしたかったけど……やべぇギルドの説明すら終わってねぇ。

 まぁ、続きは明日の自分が頑張ってくれるよね!多分。

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