船出と誓い
この話までネタ多めかな?
船出と誓い
島を出る約束を取り付けた次の日、俺は。
朝、地獄に居た。
自身の身に何が起きたのか?起床から昼食時までを思い返す。
最初の間違いは起きてすぐ、昨日受けた攻撃の痛みに耐えきれず、喚いてしまった事だ。
昨夜、親父と呑んだのもまずかった。いや、酒は旨かったのだが、酔いのせいで薄くなった痛みに、これなら明日も動けそうだと判断し、ろくに治療せず寝てしまったのだ。
「いってー!!」
起きた瞬間にあげてしまった声に、
「大丈夫?」
と答えてくれる声、母さんかな?と入り口の戸を見る―――そして、俺の背筋が凍った。
覗く顔は、見慣れた妹と、見慣れた女友達と、………見慣れた般若だ。
ヤバい、昨日アンテに押し付けて、忘れたままだった。
だが、般若はまだ対応出来るだろう。おそらくラミティエの要件は、思い出作りに狩りに行こう!等だろう、いつものことだ。
今は筋肉痛で外に行けそうにないと伝えよう。
そう、そして相手の要件を聞かず、言ってしまった言葉が最大の間違いだった―――
「ラミティエ、ルニー、悪いけど今動けそうにないから―――
「ああ、昨日の打ち身とかだろ?
ヨロコベ、イタミガヒクマデ、ワタシタチガ、カンビョウシテヤル」
「………え?」
聞き違いだよな?
今、閻魔の判決[死刑宣告]が下されたのか?
「朝御飯作ったから、持ってくるねお兄ちゃん」
返事を聞かず、駆け出す妹。
オイ、待て。お前昨日まで料理したことなかっただろ?何創ってくれやがった?
………落ち着け、よく考えろ。この家で作ったのなら母さんが見ていてくれたはずだ。
いくらこいつらの料理スキルが無かろうと、ヤバいもんを作らせるわけがない。
そう考えると自然に心は落ち着いてくれた。
そして、気ままな死刑囚の元に最終兵器が運ばれてくる―――
「持ってきたよー」
「ああ、ありがとう。ラミティエそっちのテーブルと椅子、持ってきて」
「はいよー」
ルニーが持ってきたお盆にはいつもの朝食が二人分と、おかゆが一皿乗っていた。
この部屋で三人一緒に食べるつもりなのだろう。テーブルに料理を置くスペースはあるが、椅子は一つしか無い。ルニーは俺の隣でベットに座らせればいいか、椅子は―――
《ボスン》
音と供に、隣へ般若が現れた。
妹は運ばれたテーブルにお盆を乗せ、おかゆを俺の前に、二人分の食事が乗った皿を中央に、取り皿とスプーン・フォークを二人の前に並べる。
隣の般若に驚いたが、それ以上に目の前にあるおかゆが俺の目を離さない。
薄い緑色、野草のような匂いと生臭い匂いが漂ってくる。……これは、何だ?
笑顔の二人に、意を決して訊いてみる。
「この……おかゆ?は―――
「うん!お母さんに教えてもらいながら、私達で作ったの!」
「………か、隠し味とか、入ってたり……するのかな?」
「よくわかったな。打ち身に効く薬草とか、ヘビとかスッポンの生き血とか入れたから、食べたら早く元気になるぞ!!」
この辺で採れる薬草って、患部に張ったり塗ったりするやつじゃなかったか?
ってか生き血は効能が違う気が……二人とも朝早くから山に入って殺[と]ってきたのかな?ウレシイナ、アハハハハ。
「普通のおかゆ作るまでお母さんに見てもらって、二人でお兄ちゃんのこと考えてアレンジしたんだよ」
「!!」
余計なことしやがって!!とも考えたが、母さんはこの惨状[劇物]を知らないのか。母さんが見たら、コレは食べれそうにないと判断してくれるだろう。
トイレに行くフリをして呼びに行けばまだ―――
「はい、アーン」
腰を浮かす寸前に、隣[般若]から、死刑宣告が出された………
そこから先は記憶がない。気が付いたら食べ終わった昼食の食器らしきものが目の前にあった。
そして気が付いた。二人に何があって、今朝の行動を思い付き実行したのか、わからない。わからないが、一刻も早く島[ココ]から出なければそのうち逝ける―――
何の用意も出来ていないが、今すぐ動かなければ、明日の朝日が拝めない。俺は直感に従い動き出す。
まずは家族に一言告げねば。居間に行こう。
手早く着替えて二人にお礼を言い、「行くよ。」と告げ、居間へ歩き出す。………が、なぜか二人もついて来る。あれ?今お別れ言ったんだけど。
居間には両親が食後のお茶を飲んでいた。
感謝を込めて二人に言う。
「行ってきます」
「ああ」
「行ってらっしゃい」
何があろうと帰って来よう。だから今はこれだけでいい。
と、母さんが荷物を渡してくれる。旅の支度をしてくれていたようだ。
「ありがとう、ございます」
気遣ってくれる母さんに感謝を込めて頭を下げ、礼を言い中を確認する。
中身は……替えの服と食料、少量のお金と薬草が……あれ?一人分にしては多くないかな?
え?嘘、二人分?
訊きたいが、訊けない。最悪の予想通りだと。しばらくせずに俺は死んでしまうだろう。
気のせいだろうし何も訊かず港へ行き、出立しよう。
「お?おーい、カーレッジ」
「?ポンさん、何です?」
港に行くと、船乗りのおじさんに声をかけられた。
この人には海釣りを教えてもらったり、漁のまねごとをさせてもらったりと、お世話になっているのだが、何か用事でもあったか?
まあ話を聞いて、ついでに船で向こう岸まで乗せてもらえるように言ってみよう。
「船に積み荷乗せるから手伝え」
「わかりましたー」
言いつつ船に近づくと、うん?すでにいつもの奴らが手伝っている。
「何やってんの?」
「見りゃ、わかんだ、ろっと」
「ごめん、聞き方が悪かった。何で積み込みの手伝いやってんの?」
「船代の代わりに、手伝ってんだ、よっと」
「俺のためにわざわざ……ありがとう皆」
「いいから、お前も手伝え、とっとと終わらせて、船出すんぞ」
「よしわかった。……ってあれ?今の言い方、皆ついてくる気?」
「そんな訳、無いでしょっと。ついて行くのは、そこの腐れ兄貴分モドキだけ」
ああ、ジョワが来てくれるのか。よかった。………俺の背後に居るどっちかじゃなくて。
たぶん母さんも来るって知ってたんだろうな。二人分の旅支度だったし。
とにかく、早く終わらせて出発しよう。
「うし、そんじゃお前ら島のことは任せた」
「ルニーも、家のこと頼んだ」
「わかった、向こうで一旗あげてこい」
「……疲れた、帰ったらお土産よろしく」
「島の平和はワタシが守るから、心配しないで言って来い!」
「お、お兄ちゃん。グスッ……帰ったら、お土産話、聞かせてね……」
「ああ、楽しみにしとけ。必ず帰ってくるから、そしたらまた、みんなで騒ごう」
船上と桟橋にて一時の別れを告げ、船は帆を張り海上を滑り出す。
これからひと時、波に揺られることになる。この辺りは浅瀬気味で、潮の満ち引きと岩礁の位置に注意しないと操船できないが、熟練の船乗り達にはお手の物だろう。
大型の海獣も出にくいから、俺達は船の縁でのんびり遊覧気分だ。桟橋の奴らに手を振ってやる。ルニーとラミティエが振り返してくれるが―――
「港まで来たからもうちょっと駄々こねるかと思ったけど、すんなり行かせてくれたな。
何でだろ?」
ぽつりと疑問を口に出す―――
「ヤベッ………」
「……オイ、言わないといけない事があるなら早めに話せ?」
「いや、昨日話の流れでちょっとな」
「ハ・ナ・セ?」
「いい妹として見てもらいたいなら黙って行かせてやれってのと」
うん?あいつの説得に一役買ってくれたのか。それならお礼を―――
「困ったら、姉貴分に相談しろって、言っちゃった」
「……ナンダッテ?」
……お礼参りを、殺[ヤ]らなければ。
そこから岸に着くまで、船上で年甲斐もなく鬼ごっこを過ごした。
「海に叩き込まれて這い上がってくると思わなかったぞクソ野郎」
「本気でやろうとすんなよ。ちゃんと謝ったじゃねーか」
軽く言ってくれるが、島に般若が増えたらどうオトシマエつけてやろう。
「おーい、遊んでないで荷物降ろせー」
「あ、はーい」
船は桟橋に着けられ、乗組員達が積み荷を馬車に積み込んでいる。
載せ替えたらその馬車で近くの街まで行くそうなので、そこまで同行させてもらおう。
たぶん次話から真面目分が増えるはず。