第37話 能力は言霊、水精霊戦決着 (生後53日目)
前回のあらすじ
川底調査も、いよいよ大詰め。あと、もう少しというところで、また邪魔者が現れた。ただ、今回の奴は一筋縄ではいかないようです。
☆☆☆
おい、また、川の中に何か居るぞ。けど、何だ、こいつは?
悪意は感じるけど、何か違和感がある。
明希
(川の中にいるのは水精霊よ。何者かに操られているわ。ラッキーは、何らかの方法で水精霊を救い出してちょうだい。絶対に殺しては駄目よ。有希と依澄は、私の霊力で術を発動させるから、安心しなさい。)
(明希さん、無茶だ。その術は、霊力を込めれば込める程、威力が大きくなるけど、その分、負担も大きくなる。)
明希
(ふふ、わかっているわ。今、発動したけど、水精霊の川に引き込む力と拮抗している感じるわね。和葉と2人でなんとか抑えてるけど、持って5分程度ね。その間に何とかしてね。)
和葉
「右手が強い何かに引き込まれてる。そうはいかないわ。依澄と有希ちゃんを絶対助ける。明希さん、引っ張りましょう!」
有希 「お祖母様!」
依澄 「姉さん!」
マジかよ!
なんとか5分以内に、ケリをつけないと、有希ちゃんと依澄ちゃんが死ぬぞ!
焦るな。まずは、索敵だ。
こいつ、大きさは20cmくらいか。何か大きな悪意に覆われている。あと、後ろに付いている線みたいなのは何だ?うーん、今回の件、裏で色々と動いている奴がいるな。とりあえず、纏めると、こんな感じかな。
1)裏で陰陽師らしき者がいて、南条家の殺害に大きく関わっている。
2)昨日の思念集合体と今日の水精霊の攻撃は、この陰陽師からのものだと思う。
3)この水精霊を殺さずに悪意から解放しないといけない。
悪意を感じるのは、水精霊の身体の周囲に覆われているものだけで、太い線からは感じない。【浄炎】で悪意を浄化しても、すぐに、あの線らしきものから何かが送り込まれて、また元に戻る気がする。けど考えろ。太い線を辿っていけば、陰陽師にも辿り着くということだ。よし、線を切断後、追尾機能を付けた術を陰陽師に放ってやる。その後に【浄炎】だ。普通の奴なら、ここから挽回するのは不可能だろうな。
でも、最近になって、俺は自分だけが持つ特殊能力に気づいた。
特殊能力、それは【言霊】だ。
イメージした術に、対応する言葉を付加させることで、術が発動する。念話、索敵、憑依、引といった術は、こうなればいいとイメージして、あと言葉を付けただけで、割と簡単に出来てしまった。
有希ちゃん達から見れば、それ自体が異常なんだろう。毎回毎回、驚いてたからな。
さあ、今回は、有希ちゃん達の命が懸かっているんだ。そちらも覚悟しろよ。
方針が決まって動こうとした時、有希ちゃん達に異変が起こった。
有希 「お祖母様、大丈夫ですか。」
見ると、明希さんが片膝を付いていて、限界に近い状態だった。うそ、まだ2分くらいしか経ってないよね。
明希
「く、予想以上に消耗が激しい。安心しなさい!この命に代えても、あなた達を守るから。」
おいおい、まずいぞ!絶対絶命かと思った時、有希ちゃんに変化が起こった。
有希 「う、うう、やめて、やめてー!私から、大切な人達を奪わないでよー!」
有希ちゃんの身体が光った。え、これって霊力だ、凄く強いな!
(有希ちゃん、自分の身体を見て。)
有希 「え、これは!私、霊力を使えなかったはず、なんで?」
(追い詰められたからだ。両親が、あと少しというところで邪魔者が現れて、今度は明希さんを連れて行こうとしたから、眠っている力が目覚めたんだ。有希ちゃん、その力で明希さんを支えて上げて。俺が奴らを叩きのめす。)
有希 「わかったわ。ラッキー、水精霊を殺しては駄目よ。」
さあ、最終決戦だ。
イメージは暴風を圧縮した直径3m程の【カマイタチ追尾機能付】、追加で、精霊との繋がりを断つという意味で【断空】、あとで【浄炎】を行使することを考えても、まだ霊力に余力があるな。よしいけ、【断空カマイタチ(追尾機能付)】!
直径3m程の刃が出現し、水精霊との繋がりを切ったあと、繋がりの一部は唐突にある場所へと戻って行った。そしてカマイタチはそれを追尾していった。あとは放っておこう。黒幕のところで大暴れしてくるだろうしね。
繋がりを切った水精霊には、まだ悪意が残ってるな。げ、あれは暴走してるな。上空に上がっていったと思ったら、水精霊の周りに水が大量に浮かんでいる。おいおい、あれで攻撃してくる気か。しかも、位置的に俺ら全員に対するオールレンジ攻撃じゃないか。水が尖ってきてる、水刃てところか。こんなところで、やられてたまるか!皆んなを護ってみせる。
俺は、和葉ちゃん・依澄ちゃん・有希ちゃん・明希さんの中心となる位置に移動し、ある術を放った。それと同時に、水精霊からオールレンジ攻撃が放たれた。
(させるか、【真空表壁】)
おー、ぶっつけでやったけど、以外と出来るもんだな。俺を中心に半径6mの円と7mの円をイメージし、円と円の間の空間は真空にした。当然、飛んできた水刃は、表壁に入った瞬間、沸騰したと思ったら、すぐに凍って最後に吹っ飛んだ。あのアニメ見てて良かったー。あれが現実だったら、どう防ぐか、当時考えていたよな。今回の敵が水精霊で良かったぜ。
(そんなもん、俺に効くわけないだろ。安心しろ、今から悪意だけを浄化してやるからな。【浄炎】)
青白い炎が水精霊を包み込み、悪意だけを浄化し、清浄化された水精霊だけが残った。水精霊は気を失っているのか、そのまま落ちてきて、有希ちゃんが受け止めた。
水精霊にかけられた術は解除されていたが、有希ちゃんと依澄ちゃんは身体の1/4が埋もれていたので、有希ちゃんが【引】の術を利用して、そのまま明希さんたちの方へ引っ張られ、川の外に出られた。
(なんとか、無事終わったね。有希ちゃん、霊力が覚醒して良かったね。)
有希 「ええ、前より霊力が格段に上がっているわ。」
和葉 「依澄、大丈夫?怪我はない?」
依澄 「生きてる!良かったー。うん、大丈夫だよ。」
明希
「一時はどうなるかと思ったけど、なんとなかなったわね。ラッキー、水精霊との繋がりを切った術、カマイタチだけど、どこに行ったのかしら?」
(あれには追尾機能を付けてあるので、今頃、黒幕の陰陽師を真っ二つにした後、その周辺を大暴れしていると思います。なんせ、暴風を圧縮したカマイタチだから。明日にでも、ニュースで発表されるんじゃないかな。)
有希 「ちょっと真っ二つて本当なの?当然、殺したてことよね。」
(あはは、術をかけた陰陽師が優秀なら、相殺しているんじゃないかな?出来なきゃ、死んでるね。相手は、精霊を操って、こちらを殺す気だったんだよ。なら、当然こちらもやり返さないとね。あ、でも安心して。カマイタチが解除されても、暴風が周辺20mを大暴れするように範囲限定しておいたから。)
和葉 「ラッキー、容赦ないわね。」
依澄 「じゃあ、今日の夜か明日の朝になれば、黒幕がわかるんだ。」
明希
「黒幕が何者かはわからないけど、精霊を操った時点で終わりね。今頃、怒りをかって、なんらかの罰を受けてるでしょう。調査しておきましょう。さあ、私達は、車を引き上げてもらわないとね。」
----そこからは急展開だった。連絡を入れた工事関係者は驚き、すぐに現場に来て、埋まっている物を確認したら、重機を投入してくれた。
そして2時間後、車は完全に川底から出され、地上に戻ってきた。車内には、寄り添うように男女の遺体が発見された。
有希ちゃんと明希さんの顔には、涙が溢れていた。
有希
「あ、あ、ああ!お父様、お母様、やっと、やっと見つけることが出来ました。ごめんなさい、ごめんなさい、こんな暗闇の中で待たせてしまって。う、う、うう-------」
明希
「やっと、やっとね。隆之、茜さん、待たせてしまったわね。」
和葉ちゃんと依澄ちゃんも大泣きしていた。
和葉 「よかったよ、見つかってよかったよー。ぐす、ぐす」
依澄 「うん、うん、見つかってよかったー。」
工事関係者も驚いているようだ。まさか、川の深みにそのまま埋まってるとは、誰も考えないだろう。本当に見つかってよかった。あれ、俺も泣いてるのかな、はは。これから忙しくなるな。警察の事情聴取・遺体収容後の検分・お葬式など色々ある。俺も少しはフォローしたいところだ。そうだ、征次郎さんに知らせてあげないとね。あ、でも、これは俺じゃなく、有希ちゃんからの方がいいよね!
(有希ちゃん、お疲れ様。見つかってよかったね。)
(う、うう、ラッキーありがとう。あなたと出会わなければ、絶対見つけられなかったわ。あなたと出会えてよかった。本当にありがとう。)
こうして、俺達は苦労の末、有希ちゃんの両親を見つけることに成功した。
やっと、ラッキーのチート能力を明かすことが出来ました。
皆さん、ラッキーは現在生後2ヶ月の子犬です。なんで、「思念集合体を1発で浄化できるんだよ」、「今回の術、使える霊力はどこにあるんだよ」と疑問に思うでしょう。きちんとした理由がありますので、その内容はもう少し先で明かします。
少々お待ち下さい。
ブックマーク、評価、感想をお待ちしています。




