第15話 ワクチン接種1回目―2 (生後42日目)
前回のあらすじ
ついにワクチン接種1回目がやってきました。全員、震え上がってます。でも、自分は元人間で、注射は経験済なので余裕です。
☆☆☆
その後、時間は掛かったけど、全ての作業が上手くいった。
(気を抜いちゃ駄目だよ。爪切りの最後の時、もう少しで神経を切るところだったから。)
(すまない、安心してしまったね。いつも、爪切りの時は何度か鳴かれるんだよ。)
(それは、先生自身が緊張して、手元が狂ったからだよ。俺の兄弟やアリー母さんの時も注意してやってね。もう念話の感覚、掴んでるでしょ。)
(そこまでわかるのかい。ああ、いろんな動物と触れ合ってるせいか、波長の合わせ方は大丈夫。君の母親や兄弟達は、念話が使えるのかな?)
(いや、使えるのは俺だけだよ。先生が念話で話しかけたら、みんなびっくりすると思うよ。)
(ラッキー、念話を教えてくれてありがとう。それに、今回のことで初心に戻れたよ。これ以上、動物達に怯えられないように努力するよ。)
「これで終了です。ラッキーは本当に落ち着いてますね。普通、怯えて力んでしまう子が多いんです。」
流石、獣医だな。俺と念話で話しつつ、桜さんとも話し合ってるよ。
「そうなんです。ラッキーだけ少し変わっていて、自分からテレビを観たり、雑誌や新聞とかにも興味がって、本当に好奇心旺盛なんです。」
「そうなんですか、不思議な犬ですね。では、次の子を連れて来て頂けないでしょうか。」
(ラッキー、あまり無茶はしないようにね。君が何者かは詮索しないでおくよ。僕の名前は黒部京介というんだ、覚えておいてね。)
(ありがとう黒部先生そうしてくれると助かります。)
これで、俺は終了だ。ドアを開けると、レオとリル、アリー母さんが感想を聞いてきた。
『この部屋の先生なら大丈夫だよ。3匹とも入ったら、違う意味でびっくりすると思う。』
すると、アリー母さんが
『え、それはどういうことなの?』
『それは入ってからのお楽しみだよ。次は、アリー母さんみたいだ、頑張ってね。』
『『お母さん、行かないで〜。』』
『それじゃあ、行ってくるわね。レオ、リルも落ち着きなさい。ラッキーを見なさい。全然泣いてなかったでしょ。この部屋の先生の腕がいいのよ。』
そう言って、直哉さんとともに診察室に入って行った。2匹を落ち着かせないとな。身体に負担をかけさせたくないから、あのこと話しておこう。
『レオ・リル、大丈夫だ。 ここの先生は犬の言葉がわかるんだよ。俺も聞いた時は、びっくりした。言いたいことがあれば、きちんと言った方がいい。ただし、先生の目を見て心の中でな。』
すると、リルが不思議な表情で、
『お兄ちゃん、それで本当に伝わるの?』
『ああ、多分伝わるはずだ。だから、落ち着こう。』
俺が2匹を説得している中、桜さんと楓ちゃんはそんな光景を微笑ましい表情で見ていた。
「お母さん、ラッキーがレオとリルを説得してるように見えるよ。ほら、2匹が段々と落ち着いてきてる。」
「本当ね。さっき診察室にいた時も、ラッキーが先生の顔をじっと見てたのよ。そしたら、頼りなさそうな先生が、急に頼もしく見えたの。」
話しの途中で、急に楓ちゃんが俺を抱き上げた。
「ラッキーは、本当に不思議な犬だなー。ラッキーと遊んでる時、偶に人とお話ししているような感覚になるんだ。」
ごめんね、楓ちゃん。霊力が目覚めてない人間とは、念話禁止になってるんだ。有希ちゃんと明希さんからきつく言われてるんだよ。
「そうね、楓の言ってること、なんとなくだけどわかるわ。」
-------話しに夢中になってたせいか、直哉さんとアリー母さんが戻ってきた。
なんか、アリー母さんの機嫌が凄くいいんだけど、
『レオ、リル大丈夫よ。全然怖くなかったし、痛くもなかった。優しい先生よ。それに、先生とお話出来たの。びっくりしたわ、ラッキーが言ってたのはこの事だったのね。さあ、頑張ってきなさい。』
2匹は覚悟を決めたようだ。
『うん、じゃあ、僕から行くよ。』
☆☆☆
それにしても、たかがワクチン接種なのに犬にとっては、命がけなんだな。俺との診察後、アリー母さん、レオ・リル、そしてほかの動物達を見てたけど、黒部先生がいる診察室では、一度も鳴き声が聞こえなかったし、出てきた時はみんなどこか楽しそうにしてたな。それに比べて両隣の診察室では、未だに鳴き声が聞こえるし、診察速度が非常に遅い。黒部先生と出会えて本当によかった。ちなみに、今は精算待ちだ。
「お母さん、なんか雰囲気変わってないかな?みんな黒部先生の診察室に行きたがってるよ。」
「黒部先生、新人だけど上手だったから、動物達もわかるんじゃないかな。出てくる犬や猫達も喜んでるしね。」
「うーん、私達が来る前は、みんな怯えていたはずだけど、ラッキー、あなた何かしたの?」
そこで、なぜ俺に振る?確かにやったんだけどさ。
「ラッキーが黒部先生に注意してくれたのかもね。」
その時、玄関の自動ドアが開き、1匹の犬と猫が飼い主さんと一緒に入ってきた。犬は俺と同じ年頃のミニチュアシュナウザーで、猫も同じ年頃と思うけど種類はわからないな。。勉強したとはいえ、犬は結構わかるようになったんだけど、猫はまだまだなんだよな。挨拶しておこう。
『こんにちは、俺はパピヨンでラッキーと言います。』
すると、子犬のミニチュアシュナウザーが震えながら返事をくれた。
『う、うん、こんにちは。私はユーリというの。貴方は、もうワクチン接種終わったの?』
『うん、終わったよ。お薦めは、真ん中の部屋かな。どうやら、先生が俺たち動物の言葉がわかるみたいなんだ。実際、話しかけたら、本当に通じたんだ。びっくりしたよ。』
すると、猫がびっくりして俺に尋ねてきた。
『それ、本当?さっきからみんな言ってることがバラバラなんだ。早く来た動物達は、みんな下手くそだて言ってた。でも、今終わった犬に聞いたら、真ん中の部屋の先生は凄く上手だし、話しが通じて面白かったて言ってたんだ。あ、自己紹介が遅れたね。僕はラッシュだよ、宜しくね。』
『俺もそのことで先生に尋ねたら、急にわかるようになったみたいだよ。試しに真ん中の部屋に行ってみたらどうかな。痛くないかもしれないよ。』
2匹は同時に頷いて、飼い主に催促をした。スカートを甘噛みし、真ん中の部屋へ誘導した。
「ラッシュ、ユーリ、どうしたの?え、真ん中の部屋に入りたいの?」
やはり飼い主は戸惑っているな。受付の女性に尋ねてるよ。
「あの真ん中の部屋の先生、腕がいいんですか。この子達が入りたがってるんですけど。」
すると、受付の女性も困惑な顔をして、
「あ、そうみたいです。1時間前までは、みんな怯えていたんですが、ちょうどそこにいるパピヨンのワンちゃん達が来てから、みんな真ん中の部屋にいる黒部先生に診てもらいたくて、必死にアピールしてるんです。」
「あら、そうなの?なら私達もお願いしていいかしら。」
「構わないのですが、おそらく1時間程かかると思うのですが宜しいでしょうか。」
「ええ、いいわよ。その間に買い物をしておくから。」
うーん、これは俺のせいじゃないよな。周りをよく見ると、皆しきりに黒部先生のいる診察室を見てるし、行きたそうにしている。まあ、いいか。黒部先生の評判が良くなるんだから。
すると、精算が終わったみたいだ。
『ラッシュ、ユーリ、俺たちは、もう帰るよ。ワクチン接種頑張ってね。』
ユーリ『うん、ありがとう。気をつけて帰ってね。』
ラッシュ『教えてくれて、ありがとう。痛くないといいんだけどね。』
別れをつげ、俺たちは病院を後にした。
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