第14話 ワクチン接種1回目 (生後42日目)
前回のあらすじ
遠距離念話を有希ちゃんと明希さんに教えました。2人とも驚いてました。
これから新しい飼い主となる人達に貢献できて嬉しいです。
☆☆☆
犬を含めた家族全員の初めての外出、俺にとっては28年ぶりだ。実際は、憑依の時に外を見てるんだけど、コントロールと目線に慣れることで精一杯で、外の風景を殆ど憶えてないんだよな。今は車の中で病院に向かっているところだ。まず、驚いたのが車の形状で、角ばったデザインからやや丸く流れるようなデザインになってて、カッコいいな。しかも、ハイブリッドていう表示もあるし、これは何のことだ?この周辺の建物は、見た所、あまり変化ないな。うーん、ちょっと期待外れかな。ゲームが物凄い進化してたから、もっと発展してると思ったんだけど、少し残念だ。レオ・リル、アリー母さんもやけに大人しいな。
『レオ・リルどうしたんだ?いつもなら、もっと騒がしいのに。』
『兄ちゃん、怖くないの?これから行くところは、足の爪を切られたり、お尻をキュッとされるて、痛い時もあるてアリー母さんが言ってたよ。』
『そうだな、痛い時もある。だが、痛みが殆どない方法もあるんだ。』
『本当!教えてよ。』
『簡単なことだよ。診察室ていう部屋に入ったら、我慢してじっとしていること。』
2匹とも、そんな馬鹿なことがあるかという顔をしてるな。
『え、それだけなの。』
『ああ、それだけだ。みんなが痛がる原因の大半が暴れるからだ。そのせいで、先生の手元が狂って痛い目にあうし、時間もかかる。じっと我慢していれば、15分くらいで終わるんじゃないかな。』
俺がレオ・リルにアドバイスをしている時、アリー母さんが聞き耳をたてていたのは内緒にしておこう。どうやら、病院に到着したようだ。
おー、ミニチュアダックスフンド、チワワ、ミニチュアシュナウザー、ゴールデンレトリバー、いろんな犬がいるな。あれから有希ちゃんと何度か会って、犬の勉強をしたから犬種がわかるのだよ。それにしても、犬の状態が千差万別だ。
・入ること自体嫌がるもの ・極端に震えて飼い主に抱っこされているもの
・全く怖がっていないもの
本当に色々な奴がいるな。というか、怯えすぎてないか?
『さあ、みんな行こう。て、どうしたんだ、大丈夫だって。』
『兄ちゃん、なんでそんなに余裕なの?周りの雰囲気が明らかにおかしいよ。』
アリー母さんもなんか震えてるぞ。
『今日は、何か変ね。みんないつも以上に怯えているわ。何かあったのかしら。』
確かに、怯えてる犬が多過ぎる。何かあったのか?
あの毛の長い凛々しいミニチュアダックスフンドに聞いてみよう。
『はじめまして、ラッキーと言います。あの何かあったんですか?みんな、凄く怯えているんですけど。』
『はじめまして、僕はライムと言うんだ。今日に限って、診察する獣医がみんな下手くそなんだ。なんでも、いつもの人達がいなくて、新人がやってるみたいなんだ。病院から出てくる奴ら、みんな痛がってるんだよ。』
えー、なんで今日に限ってついてねー!
『そ、そうだったんですか。俺たち、これからワクチン接種なんですけど大丈夫ですかね。』
『あー、そのなんだ。はっきり言おう。みんな痛がってるよ。』
『そうですか、ありがとうございます。覚悟を決めました。』
ライムさんにお礼を言い、後ろを振り向くと------、全員震え上がっていた。
リルは完全に後ずさりしている。レオはショックで放心状態、アリー母さんは俺たちがいるせいか、なんとか踏ん張っているな。
『お兄ちゃん、ここ嫌だよ。帰ろうよ!』
『諦めろ。直哉さん、桜さん、楓ちゃんは完全に行く気まんまんだから。取り敢えず、俺が先に行くから、みんなはまず見ておいてくれ。』
『兄ちゃん、死なないで。』
『大袈裟だ、死ぬわけないだろ。』
病院に入ってないのに、この状況、先が思いやられる。楓ちゃん達、用意出来たみたいだ。さあ、行くか。
☆☆☆
病院に入り、状況がさらに悪化した。犬、猫、うさぎ、みんな怯えてる。診察室は3部屋、どの部屋に入っても新人で全員下手くそときたか、この病院、大丈夫か。動物は敏感だから、相手の緊張感がなんとなくわかるんだろうな。俺の場合、霊力が強いせいか、獣医や補助をする人達の緊迫感、病院全体の負の雰囲気が丸わかりだ。特に、真ん中の部屋が一番きつい。でも、この感じ、俺の予想通りなら、うまく凌げるかもしれない。この雰囲気に楓ちゃんも気付いたみたいだ。子供は、気づきやすいのかな?
「お母さん、動物達がみんな怯えてるよ。何か、おかしくないかな?」
「そうかしら?いつも、こんな感じだと思うけど。」
「動物達にとって、病院は注射とかをする怖い場所だからな。そりゃ、震えるだろう。」
直哉さん、確かにそうなんですけど、今回ばかりはいつもと違うんです。はあ、なんか俺も憂鬱になってきたぞ。順番、早く回ってこないかな?
------30分程経過した頃、ついに呼ばれた。
よし、真ん中の部屋だ。
『じゃあ、俺から行ってくるよ。』
『『(お)兄ちゃん、行かないで〜。』』
『大丈夫だ。長くても20分くらいで終わると思う。』
桜さんと部屋に入ると、獣医は男性だった。俺の思った通り、この人、そこそこ強い霊力を持ってるぞ。
「先生、こんにちは。今日は、生後1ヶ月の子犬4匹の1回目のワクチン接種と爪のケアをお願いしたいんです。まずは、このラッキーをお願いします。」
この先生、見た目はしっかりしてそうに見えるけど、中は緊張しまくりだ。若干手が震えてるぞ。
「こんにちは、ラッキーですね。まだ、生後1ヶ月なのに落ち着いてますね。じゃあ、まずは爪を見てみよう。」
なんだろうか、この先生、手元が非常に危なっかしいぞ。このまま切られたら、俺の足、血だらけになるんじゃないか。仕方ないか。
『あの先生、落ち着いて下さい。そのまま切ったら、血だらけになるんじゃないかな。』
獣医は案の定、ビクッと顔を上げ俺の顔を見て、桜さんの顔を見た。
「今、何か仰いましたか。」
「は、何も言ってませんが。」
『先生、俺だよ。先生の心の中に話しかけているんだよ。先生は、そのまま爪を観察してて、俺の話を聞いてほしい。わかったら、頷いて。』
獣医は、出来るだけ驚いた表情を顔に出さずに頷いてくれた。
『よし、俺はラッキーていうんだ、宜しく。俺が先生の波長を合わせているから、先生も心の中で念じれば、俺に話しかけることができるよ。』
『え、本当にこれで話せているのか?』
『大丈夫、こっちに通信できてる。ちなみに、こうやってお互いの波長を合わせて通信することを念話ていうんだ。先生にもコントロール出来れば、使用可能になるよ。』
『念話、凄いな。動物と話をしたかったんだ。ちなみに、これは全ての動物に対応出来るのか?』
『人間を含めた全ての動物の中でも霊力に目覚め、ある程度制御出来る者同士なら、比較的簡単に出来るよ。俺と先生のようにね。ただ、殆どの動物は、霊力が眠ったままの状態なんだ。この病院にいる動物もそうだね。その場合、霊力のあるこちらが完全に波長を合わせないといけない。そこをクリアーすれば、どんな動物ともお話できるよ。』
『僕の中に、力があることはわかっていたんだ。その感覚が霊力か。これを制御出来るようになれば、動物とも話をすることが可能になるのか。』
『先生、間違っても、人に言っては駄目だよ。馬鹿にされるだけだから。』
『ああ、わかっているよ。』
念話で話をしている間、先生は俺の身体に問題がないかを検査してくれた。
「身体は問題なさそうですね。では、まず爪から切っていきましょう」
『少し待って。先生、緊張しすぎ。もっとリラックスしてほしい。ここに来た動物、みんな怯えてたよ。今日の獣医達は全員下手くそだて。』
『え、全員。僕はわかるけど、両隣の奴らは上手なはずだよ。』
『全然、タイプが違うだけで、全員駄目。取り敢えず、爪を切る時や注射をするときは、もっとリラックスしてやってほしい。先生は、大学で何年もかけて努力して習ったんだよね。だったら自信を持って。犬の俺が評価してあげるから。』
『ありがとう、犬に慰めてもらうなんてね。わかった。初心に戻ってやってみるよ。』
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