~あおぞら~
「よかったら、この辺り案内しましょうか?」
先ほど出会った女の子・・・愛美はそう言いながら俺に近寄ってくる。
「ここら辺に住んでるのか、お前?」
俺は疑問に思って聞いてみる。
こんな女の子だ、下手したら隣町の子とかの可能性だって高い。
「当り前じゃないですかぁ~。」
よかった。まともに町の人のようだ。
「ああ、そうか。じゃあ・・・ちょっと街を回りたいんだけど・・・」
案内してくれるなら、今はそれにあやかろう。
「街ですねっ!そうですねぇ・・・じゃあこっちにどうぞ!!」
愛美は俺の手を握って走り出す。
「はぁはぁ・・・・」
走り出してからもうかれこれ5分は走りっぱなしだ。
昔やったマラソンの気分を思い出す。
次の町まで走って移動するのは爽快だったが・・・これはなかなかきつい。
「なんでお前はそんなに走っても息が切れないんだよ・・・・」
走りながら俺は愛美に話しかける。
「え?だって私、駅伝選手に選ばれたことあるからだと思います!走るの大好きなので!!」
「そうかよ・・・」
それにしてもすごいスピードだ。
足がついていけずにもつれそうになる。
しばらくして、愛美の足が止まる。
「うわっ!!」
俺は止まることができず、そのまま壁に激突する。
目の前は真っ暗。何も見えない。
耳は・・・いろんな声が聞き取れる。
「わわっ!大丈夫ですか!?」
愛美の声が聞こえてくる。
すぐに目の前が明るくなる。
「大丈夫ですかゆうとさん!!」
愛美の声がすぐそばに聞こえる。
「ああ・・・大丈夫だ。」
そう言って俺は目を開く。
「本当に大丈夫ですか!?」
・・・・顔が近い。
下手したら鼻とか唇とかが触れそうな感じ・・・
っと・・・初対面の女の子に何思ってんだ・・・・
「顔近いぞ・・・・・」
俺は正直に言ってやる。
それが俺のためでもあり・・・・こいつのためだ。
「顔が近くで何が悪いんですか?私はゆうとさんが無事ならそれでいいです。」
・・・・・なんてやさしい女の子なのだろうか。
自分の貞操よりも、他人のけがを気にするなんて・・・
ものすごく変わった女の子・・・・・でも、やさしい・・・・・
そんな感じを覚えた。
「大丈夫だ。だから心配すんな。」
俺はもう一度言う。
「本当に大丈夫ですか・・・?血とか出てませんか?」
「大丈夫だ。」
愛美の呼びかけを軽く受け流す俺。
「それならよかったです・・・・・」
愛美は俺の言葉を信じてくれたようだった。
日も暮れて、カラスが一斉に泣き始める頃。
「そろそろ宿を探さないとまずいな・・・・・・」
俺はいつも街に着いたら宿を探す。
街で無いところで夜を迎えたら野宿をする。
それが宿探しの手順だった。
「えっ・・・お宿、決まって無いんですか?」
俺の隣を歩いていた愛美がつぶやく。
「なんだ?宿の当てでもあるのか?」
あるんだったら教えてほしかった。
「えと・・・・その・・・・・」
あるのか・・?
「私の家とか・・・どうでしょうか・・・・?」
・・・・・こいつの考えてることは何かずれている。
「親が許してくれんのかよ・・・見知らぬ奴を泊めるんだぜ?」
普通の家族だったら即効お断りだろう。
「えと・・・私の家・・・民宿なんで・・・・」
・・・・・民宿!?
「民宿って言うと・・・・旅行者が泊まったり、滞在者が住むところだよな?」
俺はもう一度確認する。
「はい。その通りです。」
愛美は即答する。
民宿なら、しばらくはいろいろ不自由しなくて済みそうだ。
「そうだな・・・頼む。」
「・・・・・・はいっ!!」
愛美はとてもうれしそうだった。
元来た道をしばらく戻ると、先程は見えなかった小さな路地が見えてくる。
「ここが私の家につながる道なんです。小さな一本道なんですけどね・・・」
よく見ると、人通りはそんなに無いように見えた。
本当にこの先に民宿があるのかさえ不安だった。
「先に家は無いように見えるんだが・・・」
「しばらく歩いていればすぐ見えてきます。ほらこっち・・・」
愛美は、俺の手を引いて歩きだす。
俺はそれに従って、路地の奥へ進んで行く。
しばらくすると雑木林に入る。
俺の手はまだ愛美に掴まれたまま。
そのまま林を抜ける。
「ふぅ・・・ほらあそこ、見えてきましたよ!!」
俺は愛美のさす方向を見る。
少しした丘の向こうに大きな建物がある。
「あれがお前の家なのか?」
俺は聞き返す。
「そうです。お母さんが一人で経営している民宿、「青大将」です。」
「あお・・・・だいしょう?」
アオダイショウと言えば蛇の名前だ。
なるほど、客を丸のみにしてしまう民宿のようだ。
「短い付き合いだったな、また会おうぜ。」
そう言って俺は踵を返して別れようとする。
・・・・・が、それを愛美の腕が止める。
「なにか・・・悪いことしましたか?」
彼女の眼には涙。
「い・・・いや、お前は何もしてない。俺の気が変わっただけだ。」
俺ははっきり言ってこういうのには弱い。
適当な理由をつけたかっただけなのだが・・・・・
「気が変わったのは何か私の説明が悪かったからじゃないですか!?」
説明は悪くない。
悪いのは店の名前だ。
「お前の説明は完ぺきだ。一語一句間違わず完ぺきだった。」
「ウソです。ゆうとさんが気が変わるなんてよっぽど私が変なことを言ってしまったからなんだと思います・・・」
俺をこうさせたのはお前じゃない、「アオダイショウ」だ。
「アオダイショウってのがどうもなぁ・・・・」
観念して俺は愛美に行ってやる。
「青大将さんがどうかしたんですか?」
アオダイショウ・・・さん?
「ああ、客を丸のみにしそうだなって・・・」
「えぇ!?ゆうとさんの生まれたところの青大将さんは人を食べるんですか!?」
人は食べないと思うが、カエルを丸のみするのは見たことがある。
「いや・・・人じゃなくてカエルをだな・・・」
「なるほど・・・苦手なカエルを克服する青大将さんもいるんですね・・・・」
・・・カエルが苦手?むしろ好きそうだが・・・・
「アオダイショウって、蛇じゃないのか?」
じれったくなってきたので聞いてみる。
「違います!青大将さんはこの町を守る神様なんですよ。」
そう言って愛美は俺に青大将のキーホルダーを見せる。
どっからどう見てもドラ○もんそっくりだった。
「青大将と言うより・・・青狸だな」
「狸じゃないです。青大将様です。」
どうやらこの世界には、まだまだ俺の知らないキャラクターが存在するらしい・・・
結局、俺は「青大将」に進むことにした。