在りし日の二人の約束② 【注:前話と重複していたので急ぎ直しました】
ウォガールに君臨したどの王も、一度でも閨を共にした者には褒美を取らせた。
そして特に気に入った相手は後宮に入れ、ゆくゆくは側妃の一人として暮らさせるのが慣例である。
現国王には、彼が二十になる前からそのような妃が四肢の指では数えるのに足らないほどいる。といっても、彼は決して癖の悪い女好きなどではなく、むしろ勝手に国内外から後宮に集められた妃たちを嫌悪してさえいた。
ある者は国内貴族が王に媚びる道具として、またある者は周辺国からの政治的人質として贈られている。中には王の寝首を掻こうという思惑により後宮に入っている女さえいるが、どれも名ばかりの妃もいいところ。王が辟易するのも仕方ないだろう。
そんな中、どんな美姫がやって来てもろくに足も運ばなかった王が、ある日一人の少女を連れ帰り、信じられないことに王宮の自室に住まわせると言う。
初夜を迎える前に褒美の前払いと称して、贈り物を渡す王に呼ばれた女官長と宰相は異例のことに驚きつつも、ようやく王にも心穏やかに過ごせる春が来たのかと嬉しさと安堵に揃って口元を綻ばせた――その贈り物の中身を確認するまでは、だが。
細かく繊細な彫細工が施された上等の薄い硯箱。その中には、他の妃が望むような金銀宝石は一つもなく、たった四枚の紙が収められていた。
しかしどれもただの紙ではない。
その全てにサインをし、最後の一枚にも玉璽を押した王は、それらの紙を揃えて少女に手渡した。
「これで、お前も俺も、後から文句を付けることはないな」
「そうですね。戸籍どころか死亡報告書までいただき、勅命書の効力はこちらの宰相さまが保障してくださいました。それに女官長も希望すれば必ず王宮にて仕事をくださるとお約束してくださいましたから。……むしろ、寝所での私を気に入らずとも、返せと言わないで下さいね」
「子さえよこせば、そんなことはどうでもいい。ただし、三年以内に一度も懐妊の兆候なくば、身ぐるみ剥いで追い出すからな」
「……命は見逃してくれるのですか」
王の情け容赦ない言葉に、どこか腑に落ちなさそうな少女が的外れにも取れる呟きを漏らせば、王は静かな瞳を返す。
「気持ちのない相手と過ごす夜がどれほど苦痛か、俺もよく知っている。望まぬ子を産めと言われた女であればなおさらだろう。勅命書はやらんが、城の外へ放り出すくらいなら痛くも痒くもない」
長年仕えてきた主の性格を熟知していたせいで、二人の会話から大方の事情を察してしまった宰相と女官長は、止めようにも一足先に睨みを利かせてしまった王の手前、手どころか口も出せず、ただ見守ることしかできなかった。
こうして彼女は後宮に住まう妃の一人ではなく、片時も離したくないと王が王宮に住まわせたとされる、ただ一人の寵姫となった。
それから二年と少しの月日が流れ、少し肌寒さの残る初春に寵姫は男児を出産する。
王子は生まれながらに、王の子ではないなどとは冗談でも文句をつけられぬほど、幸か不幸か父親にそっくりであった。
母親の面影を微塵も感じさせない王子に、寵姫がほくそ笑んだのを見てしまった侍女は多いと、その長は語る。
期間は不明ですが、編集ミスで同サブタイトル①が連続していました。確認が疎かですみません。
重複に気づいて教えて下さった方たちに感謝です、ありがとうございました。