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嵐の夜 -加波慎-

 夢を見ていた。女の子が泣いている夢。その女の子は僕がよく知っている女の子で、僕は慰めようと必死で手を伸ばす。

 それでも手は彼女に決して届かない。

 この夢の最後は必ず、少女が闇へと沈んで行くというもので。

 もちろん、今回も例外ではなかった。


「……っ、……はぁ……、はぁ……」

 少女がずぶずぶと沈んで悲鳴をあげたところで、僕、加波慎は目を覚ました。

 ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す。心の中にまたか、という諦めが広がっていく。

 僕はここのところ毎日のようにこの夢を見ていた。

「なんなんだ……、一体……」

 本当はわかっているんだ。あの夢がなんなのかという事も。それでもそうつぶやかずにはいられない。それを認めるということは、つまり自分自身の驕りと虚栄心、そして力のなさを認めるということなのだから。

 僕はそれ以上は考えないことにして、枕元の時計を確かめる。まだ夜明けまでかなり時間がある……、けれど。

「もう寝られそうには……ないよね」

 つぶやく声には疲れが滲み出て、きっと隈もひどいことになっているのだろう。この部屋に鏡がなくて本当に良かった。

 少し落ち着きたいと思い、本棚から本を取り出す。本を読むのは心を落ち着けるにはちょうどいい。

 選んだのはたまたま手前にあった童話、オスカー・ワイルドの『幸福な王子』。きっと僕は王子のようには救われはしないだろうと、前に読んだ時はそう思ったのだったかな。

 頁を繰ろうとして、ふと気になったことを思い出す。それは、

「そういえばあれは咲月だったのか、それとも柚希だったのか……」

 少女の顔から髪型から体型に至るまで、あの夢はぼんやりとしていて決して見えやしないのだ。それなのに僕はどうしてだか、あの夢は二人のうちどちらかだと妙な確信を持っていた。

 もちろんそんな確信を持っていたところで、考える意味なんてなかったのだけど。

 だけど、どうしてだろう。

 夢を見た後の僕は決まって、どうしてもそれを思い出さなくてはまずいことになるぞと、それだけを考えてしまうのだった。




「お兄ちゃん! 起きてお兄ちゃん!」

「あ、あぁ。おはよう。仁菜」

 妹の声で起きるなんて何年ぶりだろう、と思う。どうやら悪夢で一度目覚めてしまったあと、目覚まし時計を止めて読書をしていたら二度寝をしてしまったらしい。流石に夢が何日も続いているからか、疲れも溜まっているのだろう。

「それにしてもお兄ちゃんが寝坊なんて珍しいね。何かあったの?」

「ん……、いや。何もないよ」

 毎晩同じ悪夢を見るだなんて言って、困らせてしまうのは僕の本意ではない。

 感づかれないようにと僕はいつも通りの笑顔を作る。

「だめだよもう。本が面白いからって夜更かししたら!」

 はいはい、と適当にいなしながら仁菜を部屋から出す。

 三つ年下の妹は、全く誰に似たのだか真面目な娘に育って、最近では部活の朝練だとかで僕よりも早く起きる事が多かった。

 今日は日曜日だけど、普段通りなら僕も仁菜も起きるのは平日と変わらない時間だ。だからいつもの時間になっても起きて来ない僕を心配して起こしにきてくれたのだろう。

 咲月や真澄に言わせれば、休みの日に早起きするなんてナンセンスという事になるのだけど、だから毎日起きるのが辛いんじゃないかと僕は思う。毎日決まった時間に起きるほうが、間違いなく楽だ。

 手早く着替えを済ませて、軽く朝食。両親は出かけているし仁菜も朝ごはんは軽く済ませたようだったから、パンをこんがりと焼いてバターを塗り、生野菜とハムを挟んでサンドイッチのようにして食べる。美味しい。

 食べ終わって、さぁ散歩にでも出かけようという段になって、雨が降り出しているのに気がついた。

 ……そういえば昨日の夜の天気予報はこれから荒れるって言っていたっけ。

 家を離れている両親と、部活に出かけた仁菜は大丈夫だろうかと、ふと思った。




 朝方に降り出した雨は、お昼を過ぎたころには本降りになっていた。

 部活や仕事に出かけた仁菜や両親が気になると言えば気になるけれど、加波家の人間が事故に遭っている様子など僕にはあまり想像できなかった。それは身近に危険があると知らないというものではなく、どちらかといえば僕たちの方がずれているというような感覚だ。

 僕も仁菜も、大抵のことは人並み以上にこなすし支えてくれる友人たちも多い。両親の性格もあの通りだから、進んで危険な目に遭うとは考えづらかった。

 だからこうして一人でぼんやりと空を眺めている時に僕が気にしているのはどちらかと言えば親友である咲月と真澄、それから悠のことだった。

 特に悠に関しては、このところ体調を崩しがちになっていた。もともと体が丈夫だとは言えなかった彼だけど、ここ数週間ほどは以前にもまして体調が悪化していた。かかりつけの病院で診察もしてもらったけれど、原因はよくわからないそうだ。

 彼を知る人は口をそろえて精神的なものだろうと言った。虐待を受けていた心の傷がそうさせるのだろうと。しばらくゆっくりしていればそのうち治るだろうと。

 何も口を出せなかった僕と、それから咲月を除いて、みんな。

 そして誰も彼のことを見ていないのだと、僕たちは気づいてしまった。

 それは、誰も自分のことを見てなどいないということと何が違うのだろう。気づいてもらえないことほど辛いことはないのに。それは僕たち全員にとって等しく苦痛だった。本当は夢追いかける少女である宝城柚希も、生きる意味を見出した少年椎名悠も、そして本当は悩みを抱える男子高校生でしかない僕こと、加波慎にとっても。

 もしも僕の存在が消えた時、周りにいた人たちは僕の悩みをわかってくれるだろうか。

 幸福な王子が立派な意匠を失った時、彼の悩みは誰も顧みることすらしなかった。

 燕だけでもそばにいてくれることを喜ぶべきなのだろうか。本当に欲しいものは手に入らないのに。

 全く同じにないにしても、悠も柚希もきっと同じようなことを考えているんじゃないかと、僕はそう思っていた。僕らは互いに孤独で、そして互いが互いの燕なんだろうと。

 だからだろうか。狭い世界の中で、僕と柚希だけが本当に悠が回復するのを願っているような、そんな錯覚を覚えてしまうのは。その考えはひどく甘美でおぞましく、僕の胸を締め付けていた。




 ぼんやりと考え事をするうちに、すっかり暗くなってしまってきていた。

 ざああという雨の音と、そして風がガラスを叩く音が次第に大きくなってきている。

 そういえば、咲月と真澄は今日はどうしているだろう。最近喧嘩ばかりだし、今日ぐらいは家で大人しくしているといいんだけど。

 そう、思った時だった。ぴんぽーんと間抜けな音が響いたのは。

 こんな天気のこんな時に、インターフォンを鳴らす人なんてそう多くはない。

 僕は嫌な予感を感じながら、それが嘘であれと願って玄関を……、扉を開ける。

「なあ慎、咲月来てないか!」

 そこに立っていたのはひどく慌てた顔をした真澄だった。怒らせた肩を風雨に嬲らせたままに突っかかってくる姿に、一瞬僕はたじろぐ。

「咲月……? 今日は来てないけど……」

「マジかよ……、クソッ!」

「ちょ、ちょっと待った!」

 僕の言葉を聞くなり慌てて駆け出そうとする真澄の肩を慌てて掴む。

 こんなに動揺している彼をそのまま放り出すなんてできなかった。何をするかわかったものじゃないし、何があったのかを聞かなければ手伝うこともできない。

 僕は雨に掻き消されないように怒鳴る。

「何があったんだ!」

 彼はその瞬間、躊躇した。

 だから、それだけでわかってしまった。

「……また、喧嘩したの?」

「……あぁ、喧嘩した。また馬鹿なことでな」

 雨の中だったから、彼が泣いているのかはわからなかった。だけれどその表情は今までにないぐらいひどく歪んでいて。

「逃げてったんだ、あいつ。この雨の中を」

 暗くなってきた上に降りつづける雨と風は強くなってきている。とてもじゃないけれど、女の子が一人でいていい天気ではなかった。

「……そのこと、他の人には?」

「……宝城にだけ。あいつ、よく宝城の家にも行ってただろ、だから……」

 それを聞いて、思わず僕は駆け出していた。

 それはまるで、夢のようだった。

 最近見続ける悪夢。

 僕のなじみの少女が、闇へと沈んでいく悪夢。

 悪夢が、あの恐怖こそが僕を突き動かしていた。




 咲月が行きそうな場所はわかっていた。真澄と喧嘩するたびによく行っていたあの河川敷。真澄と喧嘩した時にだけ行っていたから、彼の行動範囲に入っていなかったんだろうと思う。

 雨粒が粘っこく僕の顔を覆っていた。風はずっと向かい風に吹いていて、いつも以上に足が重い。

 それでも僕は、あの悪夢が実現しないでくれとそれだけを願いながら走っていた。

 手先がかじかむ中、全身水浸しになってようやく無事たどり着いた河川敷に、はたして咲月はいた。橋の下で雨粒を凌ぎながらぼんやりと座り込んでいる。

「咲月!」

 雨に負けないように大声で呼びかけながら傾斜を下りてそばに行くと、ようやく気付いたかのように嬉しそうな顔を上げ、そしてまた俯いた。

「慎、よくわかったね、ここ」

 囁く咲月の声に、いつものような元気さは存在しない。

「……よく来てたからね」

 何も答えず、咲月はぎゅっと膝を抱える。

 見れば当然ながら咲月の服はかなり濡れていて、このままでは風邪をひいてしまうことは確実だった。

「ほら、早く帰ろう。こうしていたら風邪を引いちゃう」

「風邪、かぁ……」

「風邪引いたら、真澄もちょっとは優しくしてくれるかなぁ」

 顔をうずめる彼女の声に力はなかった。

「すごく心配してたよ、真澄も。血相変えて君を探してた」

「……そっか」それでも――

「でも……」僕の声は――

「私を見つけてくれたのは……」彼女に――

「慎だったよね」――届かない。

「……それは」

 僕の頭は真っ白になっていた。

 咲月に、何も言えなかった。

 そして「まだ、真澄なんだね」その一言を、必死で飲み込んだ。

 咲月の虚ろなひとみに見詰められて喉がカラカラに乾いて、ごくりとつばを飲み込んだ。

 僕は静かに泣きじゃくる咲月を、見ていることしかできなかった。

 川は増水を続けていたけど、まだここにたどり着くとは思えなかったから、今すぐ咲月をここから逃がすことも、僕にはできなかった。

 ここまできて思い知った。――僕は、無力だった。

「咲月! 慎!」

 どれほどそうしていたのだろうか、突如としてその声はかけられた。僕の背後から、とても澄んでいて、焦りを押し殺した叫び声。

 振り返ると、そこには柚希がいて。

 ――強烈なデジャヴに、僕は動けなくなった。

 ――だからその瞬間、背を向けた咲月がゆらりと立ち上がったことに、僕は気づけなかった。「ねぇ、真澄にとっての私って、なんなのかな……」

 ふらふらと錯乱する咲月が、ぬかるんだ土に足を取られたあたりで、僕はやっと気づく。咲月が倒れこんでいくのは、濁った水面。

 体が、動かなかった。

 差し伸べようとした手は咲月にかすりもせず、咲月が落ちていくさまだけがスローモーションで再生されていた。

 そして、まるで僕がそうしようとしたように僕の隣を駆け下りていく柚希に、何かを言ったり、止めることもまた、できなかった。

 それが運命であるかのように、水面はぼとんと一つ、大きな音を立てて、僕らの大切な仲間を奪い取っていった。

「……嘘……」

 相変わらず冷たい雨がごうごうと降り続ける中、僕たちはその場を一歩も動けなかった。三人から二人になってしまった河川敷で、一歩も。

「嫌……、嫌ぁっ!」

「やめ――、咲月!」

 咲月は、彼女をかばって川に落ちた少女を探そうと必死て川べりへと這いつくばる。

 僕はそれを必死で引きはがす。

「咲月! 君まで落ちるつもりか!」

「でも! でも柚希が!」

「咲月!」

 僕は思いっきり咲月の肩を引っ張ると、咲月と一緒に後ろに向かって思いっきり転がった。泥まみれになった上に、大きな石が背中にあたって痛い。

 咲月はけがをしなかっただろうかと、そんなことまで考えている自分が嫌になる。

 咲月が体を起こすのに合わせて、僕も起き上がる。そして二人そろって力なく座り込んだ。

「……ねぇ慎、どうしてあなたじゃなかったの」

 無気力に座り込んで数分の後、再び俯いた咲月の声はしかし、悲痛に歪んではいなかった。

「どうして私が落ちそうになった時、慎じゃなくて柚希が私に手を伸ばしたの」

 咲月の声からは悲痛さが抜け、鬼気迫るように震えていた。

「それは――」

「ねぇ慎」

 咲月の声が僕の言葉を遮る。

「慎は、私たちが邪魔なんじゃないの?」

「……それはっ!」違う、と咄嗟に言えなかった。邪魔なわけがなかった。

 だけど、その問いに答えを詰まらせるぐらい、僕が苦しんでいたのも事実だった。

「答えてよ……、慎ならどんな答えもわかるんでしょ!?」

「……っ!」

 救いを求める一対の目が僕を見ていた。決壊しそうな涙腺と、泥まみれの顔が僕を責めたてる。

 ざぁざぁと降り続ける雨も、びゅうびゅうと吹き続ける風も、ごうごうとうなりをあげる川も何もかもがその瞳に凝縮されて僕を見ていた。

 心の中を覆う闇にあの夢が、僕を苦しめていたあの悪夢がフラッシュバックする。落ちていく少女、それを救えない僕、そしてどちらだったかわからない少女。


「お前のせいだ」


 声が響いた。それは、聞いたことのない言葉。聞いたことのない響き。単語も文法も音韻も、全く理解できない、なのに全体の意味だけは分かるふしぎな言葉。


「お前が、余計なことに拘っていたからだ」


 透き通るような、少しだけ低い声。声は、僕を責めたてる。


「お前はあの時、判断を誤ったんだ。振り向くべきではなかった」


 やめてくれ、僕はそう願うしかなかった。声は咲月には聞こえていないようだった。


「お前は、罪を犯したんだ。お前が死ぬべきだったんだ」


 声はまるで自らのことのように話す。


「あそこに落ちているべきだったのは、お前だ」


 ドロドロと淀んだ声が僕のことを責める。もはや僕には、それを受け入れる以外にすべがなかった。

 だから……、僕は口を開く。

「……僕のせいだ」

 咲月の目の瞳孔が、きゅと見開かれた。

「慎は、私を殺そうとしたんだね」

「違うっ! 咲月! そんな――」

 咲月はもはや僕の言葉に耳を貸すこともなく、幽鬼のように立ち上がる。

「咲月!」

 もはや声の出ない僕に代わって咲月を引き留めたのは真澄だった。彼も息を切らして、全身をずぶぬれにしてここまでたどり着いたようだった。

「咲月、もう帰るぞ!」

 真澄はここで何が起きたかを知らない。

 茫然としている僕と、くちびるを噛みしめる咲月と、それからここにいない柚希のことなど、わかるはずもない。だから言ってしまう。

「早く帰って、慎と柚希にも謝って――」

「やめて!」

 咲月の金切り声が、真澄の動きを止める。

「真澄……、なんで真澄は、最後だったの?」

「……え?」

 何もわからない真澄に、咲月は淡々と、とどめを刺す。

「もう……、顔を見せないで」

 それだけ言って咲月は僕らを振り切るように駆け出す。彼女の背中を捕まえることは、僕たちにはもうできそうもなかった。

 どさっ。その音が僕が膝をついた音だと気づいたのは、遅すぎる知覚が膝の冷たさを伝えた時だった。

「おい慎! 慎! 何があったんだ!」

 真澄の声も、どこか遠くて。あぁ、柚希の捜索を誰かに頼まなくちゃなと思いながら、体は一向に動いてくれなかった。




 柚希が発見されたのは、それから三日後のことだった。増水した川で何度も川底に叩きつけられたのか、あちこちに裂傷や骨折、打撲の痕があったらしく、遺体の確認にはかなり手間取ったらしい。

 あの日以来、僕と咲月は学校を欠席していた。だからそれは両親や真澄を通して聞いた話だ。

 葬儀は今夜行われるらしかった。けれど、体調が優れないからと言って欠席することにした。本当は、僕はもう柚希にも咲月にも真澄にも合わせる顔がないと思っていたからなのだけれど。

「ねぇ慎、あなた本当に行かなくていいの?」

 母のその問いは何回目だっただろうか。

「うん、ごめん。気持ちが悪いんだ」

「あなたが柚希ちゃんを救えなかったことは別に悪いことじゃ……」

「母さん」

 母のその言葉を遮ったのは父だった。扉越しに、諭すような声で続ける。

「慎、今はゆっくり休むといい。ただいつか心にほんの少しでも余裕ができたら、必ず柚希ちゃんに会いに行ってやるんだ。いいか?」

「……うん、わかったよ、父さん」

「よし」

 扉越しで姿は見えなくても、父がにかっと笑ったのだけははっきりとわかった。

 きっと母も、その隣で胸を撫で下ろしているんだろう。きっと不安そうな表情だけはそのままで。長く付き合ってきた家族だから、それぐらいはわかってしまう。だからこそそんな家族に心配をかけていると思うと、いつもよりもきゅうと胸が締め付けられる。

 両親も仁菜も、柚希とはとても親しくしていた。特に仁菜は柚希と知り合ってから、柚希の生き方に触発されていろんなことを頑張り始めるぐらいに慕っていたから、悲しみも人一倍だろう。それに比べて、僕は。

 柚希の死が悲しいことなのは僕にとっても事実だった。死を認めたくないというのも本当だ。それだけなら僕は葬儀に参列していただろう。

 でも僕は、柚希に恨まれているかもしれない。

 真澄に呆れられているかもしれない。

 なによりも。

 咲月にまたあの目を向けられた時に、僕が僕でいられる自信が、もうどこにも残っていなかった。

 多分、これから僕の知り合いはこういうだろう。完璧だった加波慎は死んだのだと。そんな風に言われるのが、死よりも恐ろしくてたまらなかった。

 その日の夜は、ひたすら布団にくるまって蹲りながら夜を過ごした。寒くもないのにガタガタと始終震えていた。布団の外に出るとまたあの声が僕を責めたてるような錯覚を覚えていた。

 葬式から家族が帰ってきた時は寝たふりをした。そんな僕に、家族は声をかけずにいてくれた。

 早く寝たい、早く寝たいと思うほどにどうしても目が冴えて、僕がようやく眠りについたのは明け方近くになってからだった。






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