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それは心を持ち得るのか



「お前は"理解している事"と"理解しているように見える事"は同じだと思う?違うと思う?」


部屋に入るなりかけられた言葉に、少女は顔を顰める。


「いきなり何?ていうか、何の話?」

「そうである、という事と、そうであるように見える、という事は同じかそうでないか、という話だ」

「…同じじゃないんじゃない。同じであるように見えても、実際には同じじゃない、ってことでしょう?」

「否。それを同じと認めるかどうか、という話だ。具体例を言うなら…そうだな、例えば、お前も何か親切にしてもらった時に礼を言うだろう?」

「そりゃあ、勿論言うわよ。当然じゃない」

「それと、ロボットに親切にされた時に礼を言うプログラムを入れてその通りに行動した時、それは同じだと言えるか否か、という話だ。ちなみに、そのロボットは一見して人間と同じに見えて、人間と変わらない行動をするとする」

「…いや、意味がわからないんだけど」

「そうか?オレはわかりやすく言ってやったつもりだが」


自信満々に返した少年を残念なものを見る目で見て、少女は頭を抱える。


「…ええと、つまり…ロボットと人間が同じになると思うのか否か、って事?」

「違う」


悩みながら返した少女の言葉を少年は一言で切り捨てる。


「心がある事と心がある様に見える事を同じと捉えるかどうか、という話だ」

「…?」

「…ああ、貴様には一から丁寧に説明してやらねばならなかったんだったな。久しぶり過ぎて忘れていた」


やれやれ、という仕草を少年がすると少女はムッとした顔をするが、少年はそれを気にせずに続ける。


「人は心があるから感情を持つのだと定義したとして」


少年は指を一本立てる。


「人と同じように外的刺激に対して感情表現をするようにプログラムを組む事が出来たとする」


そう言ってもう一本指を立てる。


「その時、そのロボットは心を持っていると言えるか否か。それが今日の話だ」


三本目の指を立ててそう言った後、少年は彼が思考をする時の常である腕を組んだ姿勢に戻った。少女は少し考えた後、答える。


「…それが、プログラムによる行動に過ぎないのなら、それは心があるとは言えないんじゃない。だって、そのロボットがそう感じて感情表現しているという訳じゃないんでしょう?」

「さて。オレはロボットじゃないから、ロボットが感じているかどうかんなんて事はわからないな。表面上の反応から推測してみるしかない」

「なにそれ」

「対象が本当にそう感じているのかどうかは確かめようがない。確かに観測できるのは、実際の行動だけだ」


不満そうな顔をする少女に、少年は続ける。


「別に、ロボットに限定しなくてもいい。例えば、反射反応によって生きている動物は、感情を理解できずに他者の真似をする事で繕っている人間は、心が無いという事になるのか、という話だ」

「…アンタの話って、何かいつも定義がおかしいのよね」

「定義がおかしい?ニッチな所をついているだけだと思うが」

「普通、例を出す時とか、一般化する時はよくある話にするんじゃないの」

「天才であるオレに普通を求めるな。その時点からお前は間違っている」

「紙一重の馬鹿の間違いでしょう。…ていうか、あんたそんなにウザかったっけ。…ウザかったわね」


一人で納得して頭を抱える少女を見て、少年は心外だという顔をする。


「…ていうか、"感情を理解できずに他者の真似をする事で繕っている人間"っての、アンタの事とか言わないわよね」

「さて…お前にはそう見えるのか?」

「あんたなら感情が理解できないとか中二臭い事言いだしてもおかしくないとは思ってるわ」


少女の言葉を聞いて、少年はやれやれと肩をすくめる。


「残念ながらオレの話じゃあない。オレの友人の自己申告の話だ」

「…ああ、類は友を呼ぶって言うものね」

「どういう意味だ」

「で、あんた自身はどう思うのよ」

「心がある事と心がある様に見える事を区別する事はナンセンスだ。自己申告以外にそれを判別する方法は無いのだから、心があるのだと思っていてもそれもそう見えるだけなのかもしれない」

「それを言ったらおしまいなんじゃない」






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