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#7

 

『にらあら・とうてふ』

 蝶は「てふ」って読むのか。てふてふって古語読みだったか。

 

 簡単なプロフィールと、作品のリストが書いてある。

 戦前は資産家として趣味で風土記を書いていた……で、戦後から……ホラー作家に転向。

 戦時中になにかあったんだな。

 主な作品は……なんじゃこりゃ。

 作品は2つのみ。

 それで作家かよ。

 

『魔女狩られ』

 

『海の王』

 

 しかも、二つ目は遺作で断筆。

 粗筋とか載ってないのかな……

 ん……これかな? ……館について……

『一作目を書きあげた陶蝶は、何かに怯えているようであった、と当時の担当の手帳にメモが残っている。

 通常の神経では、海の王に対抗できない、と。』

 

 ほほう。

 で、こんな館になったわけか……お。作品中からの一説が抜き出してある。

 

『彼ノ海ノ王ハ、筆舌シ難ク恐シキ存在ニテ、健常ナル心身ヲ以テハ対抗スルニ能ズ。

 己ノ中ニ混沌ノ血ヲ呼ビ覚マシ、漸ク抗ウニ足ル。

 然シテ、海ノ王ハ強大ナルガ故、ドノ王ヲ呼ブガ最良カ悩ム所存デアル。

 徒ニ命ヲ賭スハ危険ニ加エ、新タナル混沌ヲ巻キ起スモノ也。』

 

 うーむ。

 陶蝶さん。あんたこりゃ、すでに健常な精神を持ってないよ。

 パンフレットには二階の説明もある。

 二階は寝室と、瞑想の部屋? ……ってのがあるのか。

 よし。二階へと上がろう。

 

 ん?

 鬼の顔を4つ5つ踏んだ時、寝息が聞こえた。

 二階からだ。

 ギシギシ鳴る階段を、最新の注意を払って昇る。

 音は……瞑想の部屋のほう。

 

 二階の廊下に立って静かに深呼吸する。

 

 瞑想の部屋につながる襖をすっと開けると……ん?

 誰か寝ている。

 紀子か?

 懐から写真を取り出す。そして静かに近づいてゆく。もちろん、出口に逃げ出されないよう最新の注意を払って、だ。

 

 顔がじっくり見える位置まで移動する。

 ふむ。

 三島紀子だ。間違いない。しかも起きる気配もない。

 

 動きやすいジーンズにパーカー。近くのカバンの上に置かれている眼鏡には、度は入ってない。

 よく見ると、ノートパソコンや携帯電話、デジカメ等がいくつか並べられ……おいおい。このご令嬢、充電してるのか。

 

 まあ、空いてる上に、あの老婆も階段を上れなさそうだからってのは分かるが。

 しかしやばいことをしている時には一応、寝たりしたらダメだろう。

 よくもまあ……

 この根性は並みの高校生ではないだろう。しかもパソコン使えるなんてな。

 携帯を持たないほどのアナログ人間な俺にとっては、パソコン使えるやつなんてバイクで曲乗りする連中と同じくらいすごいよ。

 成績はよくないとメイドのおばはんは言っていたが、馬鹿ではないことは確かだ。

 

 こーゆータイプはガキ扱いすると危険だな。

 よし。ちょっと大人の女性として扱っておくか。

 

「三島紀子さん。起きて下さい」

 

 その声に慌てて飛び起きる。

 まず身の回りの電子機器の確認をして、それから自分の服の乱れをチェックする。

 順番、逆だと思うけど。

 

「誰?……誰からの依頼?」

「落ち着いて聞いてください。貴女に危害を加えるつもりはありません。私は探偵の笹目洋介と申します。依頼主からは貴女を探して来るように依頼されましたが、現時点ではその名前を公表出来かねます。何かご質問はございますか?」

 

「ふぅん。探偵? ……ちょっと油断してたわ。こんなに早く着くなんて」

 やはりな。依頼するという事を分かってたということか。

「依頼主は、パパかママでしょ? ……今回はお姉ちゃんの学生証持って来ちゃったけど、探偵に依頼なんてする人じゃないし」

 もう一度、三島由紀男とのやりとりを思い起こす。

 

 特に口止めはされていない……よな?

 それに、連れて帰ってほしいとの依頼だから、本人には確実に会わせるわけだし……

 だが依頼主を知りたがっているところを見ると、その情報自体が今後に対し大きな影響を与えるかもしれない。

 しかしこのまま下手に黙ってて、警戒されるのもやりにくい。

 

 

 


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