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#5

「朝はそばよりスパゲティより珈琲の気分なんだ。珈琲あるかい?」

 主導権主導権。

「アッハッハッハ! 朝だなんてお客さん! もうお昼ですよ! おとーさん! コーヒーひとつ!」

 

 よし。珈琲ゲット。お礼にもうちょいおだてておこう。

「甘味なんて書いてあったら、女性のお客さんがよく入るんじゃない? ご主人さん、こんな美人の奥さん居れば充分でしょうに」

「あらやだ。アッハッハッハハハハハハハ!! 美人だなんて! アハハハハハハハハハ!!」

 やばい。このおばさんのボリュームを上げるボタンを押してしまったようだ。

「アハハハハ! わさび漬けおむすび、サービスしておいたわよ。アッハッハッハ!」

 珈琲と一緒に、緑色のおにぎりが運ばれてくる。

 微妙に食欲を削ぐ緑色。

「そういえばお客さん。若い女の子って言えば来たわよ。午前中! 大学の調べものとか言ってたけど……」

 な、なに?

 俺は思わず珈琲を吹き出した。

 っつーか、これ珈琲じゃないだろ。

「あら、お客さん、ごめんなさいね。チャイは口に合わなかったかしら?」

 チャイ? インドか? お前ら、ここいったい何の店だ? ……じゃなくて。若い女の子? 紀子か?

「午前中? 今日のですか?」

「アッハッハハハ! 昨日じゃないわよ今日よ! アハハハ! もう少しいったところに作家先生の記念館があって、そこに行くって言ってたのよ!」

 吹き出したチャイと呑みかけのチャイのカップを片付けたおばさんと入れ替わりで、ご主人が今度はちゃんとした珈琲を持ってきた。

「とうちょう先生、だよ。にらあらい・とうちょう。怖いお話ばっか書いてた先生だ」

 にらあらい? ……ニラを洗う?

 日本に帰化した外国人とかか? 全く聞いたことがない名前。

「そうそう! にらあらい! アハハハ! 変な名前よねぇ! アッハッハハハハ!」

 だが、怖い話というキーワード、都市伝説。ひっかかる。

 ここは食いついておくとこだな。

「怖い話、ですか……パンフレットとかありますか?」

「アッハッハッハ! 怖い話お好きなの? アハハ! 怖いと言ったらこないだねぇ。余ったぜんざい夜食代わりに食べていたらね……なんと!」

 体重とかそういう話かな。

 まあ、そんなこと思っても顔に出さないのが腕のいい探偵だ。

「ど、どうしたんですか?」

「うちのアレクサンドラちゃんが空を飛んだのよ! ……あ、これ、パンフレットこれだわ!」

 え? 空?

「あら、団体さんいらっしゃーい! あら、お竹さんじゃないの! アッハハハ! いやだわうちのバカ息子じゃないわよぅ。この人、お客さん。アッハッハッハッハ! お竹さんたちは地元の婦人会の人たちなのよ! あ、300円」

 その後、おばさんは珍しく黙り、忙しそうに厨房と客室とを行ったり来たり。

 

 ……つ、続きは……気になるものの、ここで時間をかけるわけにはいかない。

 俺は100円玉を三枚、レジに置くと店を出た。

 

 なぜか負けた気分のまま車へと戻る。

 いやいや。気分を切り替えて、パンフレットだ。

 

 このへん一帯のハイキングコースが書かれているパンフレットを眺める。

 紅葉スポットや、山桜の名所、滝などがイラスト入りで描かれている。そして、その地図の端の方に、その名前を見つけた。

 

『韮洗陶蝶記念館』

 

 確かに変な名前だな。おおかたペンネームだろう。

 二葉亭四迷のペンネームの由来は「くたばってしまえ」だったはず、でも、これは……にらら……にらあ……にらあらい……発音しにくい名前だ。

 俺は急いで、その文学館へと向かうことにした。

 

 

 

 ぎりぎり車が通れる寂れた林道。

 これ、すれ違うときどうするんだ?

 道の長さを考えると、所々にしかない「すれ違いポイント」の少なさは……もし対向車が来たら……うんざりだ。

 長距離のバックはいやだぞ。バックはもっとガツンガツンと勢いを……じゃなくて。

 頭を都会から山道に切り替えないとな。

 

 しかし。

 こんな道を、三島紀子は行ったのか。歩いて?

 

 

 

 

 


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